James Setouchi

2024.11.6

 

 朝比奈なを『進路格差 <つまづく生徒>の困難と支援に向き合う』

                       朝日新書2022年11月

 

1 著者 朝比奈なを 東京都出身。公立高校の地歴・公民科教諭を務めた後、大学非常勤講師、公立教育センターでも教育相談などを行う。『ルポ 教育困難校』『教員という仕事』『置き去りにされた高校生たち』など。(本書の著者紹介から)

 

2 『進路格差 <つまづく生徒>の困難と支援に向き合う』

 

(1)   目次は次の通り

はじめに/1 進学した高校で人生が決まる/2 なぜ学力が低迷したのか/3 就職の問題点/4 高卒就職生を受け入れる企業の立場から/5 専門学校進学の問題点/6 「玉石混淆」の専門学校/7 大学進学の問題点/8 「教育困難大学」の実相/9 進路格差を解消するには/おわりに

 

(2)「第9章 進路格差を解消するには」にいくつかの提案が記してある。

ア ①義務教育の内容が何かしらの理由で理解できず放置された者たちが、その問題を後々まで学力不足・能力不足をひきずり、安定した将来を築くことへの妨げになっている。義務教育の教育内容を全ての児童・生徒が一定水準まで理解できることを目指した体制を整備するのが急務。教師は多忙すぎ、塾なども高額なので、まずは公立の義務教育に人と資金を投じる。少人数学級、1クラス2人以上の担任制にし、学習支援は学校でするが心身の健康と成長のための物資や体験面での支援は外部団体で行う、これらの改革のアイデアも資金も国が平等に出す。②高校は、エネルギー、食料生産、自然環境保全、IT、教育、介護、医療・保健などに必要な人材育成に特化した高校を創る。)221~228頁)

 

イ 高等教育(大学や専門学校を含む)については、現状では義務教育段階からほとんど能力が伸ばされないまま高等教育機関に進学する者も多い、高卒で就職する者には公的資金が投じられていないことから、成績基準のない奨学金制度や「夢を追う」タイプの分野への公式な奨学金制度は再考すべきだ。(229~232頁)

 

ウ 社会の制度面では、①高校生の就職の「一人一社制」は疑問だ。(「一人一社制」を取っていないのは、秋田、沖縄、和歌山、大阪。101頁)②新規学卒者の3年以内離職率が高い。若年層がスムーズに労働市場に参加できるために、卒業後3年間は修行期間としていくつかの仕事を行い、自分が働きたい仕事・職場を見つける機関とする。社会保障費を払えるだけの高い時給を設定する。③大企業と中小企業の賃金格差が大きすぎる(国際的にも大きい方)ので、中小企業を支援する。(233~240頁)

 

(2)  コメント:義務教育レベルでついていけなかった(取りこぼしされた)子どもたちがその後どうなるか、格差・貧困の是正は学校教育により行われているのか、に焦点を当て、高校、大学、専門学校、中小企業などに関与する人から話を聞きレポートしている。詳細は各自お読み頂くとして、

 

 上記(2)ア①義務教育に関する部分は賛成。就学前(幼稚園・保育園)の時期が大事ならそこも手厚くする。②高校に関する部分は、総合学科などで取り組みがすでにあるが、大都市部のように予算を投入できればもっと拡充できるかも知れない。

 

 (2)イについては、著者は、奨学金が返済できず借金となって残ってしまう(貧困が再生産される)ことを踏まえて言っていると考えられる。奨学金方式でなく、学力と意欲さえあれば大学を出るまでタダにしている国もある(フィンランドなど)。

 

 (2)ウ①「一人一社制」については目下私見を持たない。②3年間の修行期間については、若者を使い捨てるために悪用されることを防ぐべきだ。③大企業と中小企業の賃金(福利厚生も)格差が大きいのは事実だ。ではどうすれば? 想起すれば、東北の大震災の時、仮設住宅で助かった人は多い。同様に生活の根幹となる基本的なものはタダまたはタダ同然にする。たとえば医療、教育、食料、エネルギー、水道、住宅も「現物支給」にするという意見はどうですか? それで国民の大多数が安心して暮らせる社会になる。(日本はイギリスなどと比べて「現物支給」が弱い。)格差が拡大し階層が固定化する一方の現状を改めるためにどうすればいいか? 

 

 みなさんは、どう考えますか?            R5.2

 

(教育・学ぶこと)灰谷健次郎『林先生に伝えたいこと』『わたしの出会った子どもたち』、辰野弘宣『学校はストレスの檻か』、藤田英典『教育改革』、竹内洋『教養主義の没落』、諏訪哲二『なぜ勉強させるのか?』、福田誠治『競争やめたら学力世界一』、広瀬俊雄『ウィーンの自由な教育』、青砥恭『ドキュメント高校中退』、内田樹『下流志向』『街場の大学論』、朝比奈なを『進路格差』、磯部潮『不登校を乗り越える』、借金玉『発達障害サバイバルガイド』、ひろじい『37歳 中卒東大生』、柳川範之『独学という道もある』、広中平祐『生きること 学ぶこと』、岡本茂樹『反省させると犯罪者になります』、宮口幸治『どうしても頑張れない人たち』、宮本延春『オール1の落ちこぼれ、教師になる』、大平光代『だから、あなたも、生き抜いて』、中日新聞本社『清輝君がのこしてくれたもの』、福沢諭吉『福翁自伝』、シュリーマン『古代への情熱』、ベンジャミン・フランクリン『フランクリン自伝』、湯川秀樹『旅人』などなど。