James Setouchi
2024.11.6
田村耕太郎『君は、こんなワクワクする世界を見ずに死ねるか!?』
マガジンハウス2012年
[1] 内容
(1)はじめに
「君らはこんなワクワクする世界を見ずに死ねるか?」「これからは世界に出ないと生きていけなくなる」「しっかり〝詰め込んで〟から外に行け」
(2)「とりあえず今行け!」と私が言う理由
「世界にはワクワクが満ちているから」「日本人力は世界で武器になるから」「このまま日本にいるリスクが高すぎるから」
(3)「日本人力」を活かして世界に活躍する先人たち
インド、イタリア、シンガポール、香港、アメリカなどなどで活躍する男女9人を紹介する。
(4)「学ぶor働く」、海外でめいっぱい果実を得るために
「まずは学べ。そのために「どこに」行くべきなのか?」「海外で働くために備えるべきこと」「学ぶ、働く、どちらにものしかかるお金の問題、なにをするにせよ、英語という武器を徹底的に身につけよ」「グローバル舞台での人脈術について」
(5)海外進出の本当の果実
「日本の素晴らしさに気付け」「数字で見る日本の偉大さ」「ドル建てで見た日本経済は高成長?」「帰って来いという理由」
[2] コメント
この本は刺激的ではある。本当のところはどうなのだろうか? と考えさせる点でも。
この本を買ったきっかけは、東大総長はじめ多くの「偉い人」が「若者よ、世界に出なさい、そして見識を広げ実力と人脈を蓄えて日本に帰ってきなさい」という趣旨のことを言っている(と感じている)からだ。本当だろうか? 本当だとしても、一部の優秀な人ならいざ知らず、多くの「普通の」人にそれは可能なのか? という問いがある。
この本で、読んでよかったなと感じる点は、
1 世界はこんなにもワクワクした驚きに満ちている。生きて挑戦してみると面白いよ! という感覚に満ちている点だ。我々の人生はそう捨てたものではなく、踏み出してみればきっと新しく面白い世界が切り開かれるに違いない、という予感に満ちている点だ。
2 勉強は面白い。ハーバードで学ぶのは面白い。優れたいろんな人に出会うのは面白い! という人が紹介されていて、著者自身もおそらく同じ感覚を持っているのだろうという点だ。確かに、勉強(学問)は面白い。面白くなった人には面白いのだ。
他方、この本でそれでも疑問の点は、
1 「グローバル競争に対応できる実力や人脈を身に付けよう」という価値観に偏りすぎていて、そうではない価値観への目配りが乏しい点だ。(NHKの『日本のジレンマ』H26/6/28放送「僕らのキャリアデザイン論」)で僧侶の松本紹圭氏が「就活で学生たちが市場の論理に自分を合わせようとしているのは残酷だ、もっと多様なものさしが世界にはある」(趣旨)と述べていたことに私は共感する。
2 「世界に飛び出してみると日本は世界に比べれば素晴らしい国だと再認識できる」と著者は言う。それはその通りだろう。だが、この論理は「だから今国内にある諸問題は大した問題ではない」に行きやすい。だが、今国内には問題が現に山積みだ。現に困っている人が沢山いるのだ。ここから目をそらしてはいけない。これを解決するために海外に行くことは、果たして必須なのか? その解決のためにこそ海外で修行し帰国後その実力を活かして解決してくれるのか? 本当に?(海外に飛び出した人が帰ってきてそれなりに処遇される仕組みも不十分だ、との指摘もしばしばなされる。)
3 紹介されている人らは皆頑張ってはいるのだが、一部のスーパーエリートの成功例という印象がどうしてもある。だが、大多数の「普通の」人々はどうすればいいのか?
→あなたは、どう考えるか!?
[3] 著者
1963年生まれ。鳥取県出身。早大商学部、慶応大院(経営学)を経て山一證券に入社、デューク大法律大学院、エール大院(国際経済、開発経済学)などなどで学び、大阪日日新聞社長、さらにオックスフォード大学などなどで学ぶ。参議院議員も務めた。著書多数。(この本の巻末の著者紹介ほかから。) H26,6
付記:2012年に出た本だ。2024年現在、こんなに円安になると、ちょっと海外には行きにくい。海外留学でクリアすべき問題は、①経済的な問題②安全の問題③帰国後の就職の問題、と言われてきた。
①は政府が本気になればカネを出す。明治初期の留学生はスーパーエリートに限ってだが政府が留学させた。だが、今、何をしに行くかワカラナイ子に税金を投入すべきか?
②安全の問題は最も難しい。一人一人に警備員を同行させるわけにはいかない。外務省などの安全情報を生かすしかないが、それでも難しい。
③は、偏狭な頭の企業は浪人・留年・留学をマイナスにカウントしてしまうかもしれない。新しい時代になって、年齢・学歴不問、要は会社とその人がマッチして活かし合えばよい、という考え方の企業なら、どんどん採用するだろう。ジョブ型の企業なら勿論。メンバーシップ型の企業はどうかな・・? 世界を放浪してきた人が一人くらい本社にいてもいいじゃないか、という懐の広さ深さを見せて欲しいものだが、収支がカツカツでそうもいかないだろうか? 大学院や企業・官公庁からしかるべきハイクラスのところへ留学してキャリアアップする、というのはある。但しそれは少人数エリートだ。本書や政府の「トビタテ! JAPAN」で言っているのはそれだけではなく、もっと多くの人よ、海外に雄飛しよう、と呼びかけているのだ。2024.11.10