James Setouchi

2024.11.6

 

 借金玉『発達障害サバイバルガイド』ダイヤモンド社 2020年7月

 

1 著者 借金玉(しゃっきんだま): 借金玉、はペンネーム。1985年北海道生まれ。ADHDと診断されコンサータを服用して暮らす発達障がい者。二次障がいに双極性障がい。幼少期から社会適応ができず、小学校、中学校と不登校を繰り返し、高校は落第寸前で卒業。極貧シェアハウス生活を経て早大入学。大手金融機関に就職するが何一つ仕事ができず2年で退職。一発逆転を狙い飲食業界で起業、貿易事業等に進出し経営を多角化。一時は従業員が10人ほどまで拡大し波に乗るが、いろいろつらいことがあって事業破綻。借金2000万円。1年かけて「うつの底」からはい出し、非正規雇用の不動産営業マンとして働き始める。現在は不動産営業とライター・作家業を掛け持ち。著書『発達障害の僕が「食える人」に変わったすごい仕事術』。(本のブックカバーの著者紹介から)

 

2 内容の紹介: 発達障がいにもいろいろある。著者はその中のADHDのしかもかなり特徴の激しい方のようだ。社会適応ができにくく双極性障がいを発症し、特にうつのときは大変だ。(双極性障がい、いわゆる昔の躁鬱病については、どくとるマンボウ北杜夫氏の著書を読むとよい。北杜夫氏は精神科医で作家だが自身が躁鬱病だとユーモアを持って書いている。私が最も尊敬する作家の一人。)そんな彼が日常生活を生き延びるために具体的に何をしているか、が書いてある本だ。お金の儲け方ではない。日常生活のやりこなし方だ。ヒントになることが沢山ある。(但しこれはあくまでも著者自身が(試行錯誤を経て)編み出した、著者に最適化したやり方なので、人によっては別のやり方がいい場合もあるかもしれない。)以下、内容の例を挙げると

・食洗機はよい。日々皿を洗えない人は、食洗機に皿を突っ込めば一気に解決。ラクになる。(29頁)かつ、皿は同じ形の物を使えば重ねることができ、効率がよい。(243頁)

・片付けられない人は、本質ボックスにぶっ込み収納。ボックスは中身が見えるスケルトンか網目状のもの。フタはつけない。最大3個まで。そこからモノがあふれたら捨てる。(44頁)毎日の週間に使うモノ(薬など)は透明なエブリデイボックスに入れ、毎日それを見る。(97頁)

・ゴミ箱は座る場所のすぐ横に。45リットル、プラスティック製、ふた付きを3ヶ。そのうち2ヶは手の届く場所に。あと一つは予備。(46頁)

・部屋の中にあるモノは、本質ボックスの中身か、定位置が決まっているモノか、ゴミか、の三種類。(47頁)

・家の鍵、バイクの鍵、スマホ、財布、ベルトなどすぐなくなるモノは、キーファインダーをつけ、呼べばアラームが鳴って発見できるようにする。キーファインダーのリモコンは机に両面テープで固定する。(51頁)

・浪費するのがめんどくさい場所に住む。パチンコ屋や繁華街から離れる。(67頁)

・週1回、月1回のルーティーンを決める。金曜にはカレーを食べる、第1日曜には郊外に遊びに行くなど。これで生活にリズムができる。(106頁)

・朝起きるためには、カーテンに手が届く場所で寝る。朝はカーテンを開ける。冷蔵庫のクリームパンを食べるなど「気持ちいい刺激」を準備する。(116頁)夜は五感を物理的に遮断して強制終了して寝る。(121頁)

・オンオフは大事。過集中で休まず仕事をしてしまう人は、休み専用の椅子を作る。(135頁)手の届く場所に飲み水などを置き、脱水症状を防止する。(151頁)休む。(255頁)

・人には高価すぎないお菓子を贈り緩い人間関係を維持する。(163頁)

・教養とは、お金がなくても楽しく暮らせること。ギターでも読書でも、長い時間をかけて手に入れた趣味は、あなたの資産になる。(267頁)

・一発逆転マインドを捨てる。1ミリの階段こそがゴールへの最短距離。(283頁)などなど。

 

3 コメント: 非常に具体的だった。「世間並み」「普通」のことができず人知れず苦労している人は多い。一読も悪くない。各種コメントには、「期待しすぎない方がいい」などというものもあった。なお、「教養」のところは、かのヒルティ『幸福論』「教養」の項目と実は共通する部分があるような気がした。R3.1.5安井

 

(教育・学ぶこと)灰谷健次郎『林先生に伝えたいこと』『わたしの出会った子どもたち』、辰野弘宣『学校はストレスの檻か』、藤田英典『教育改革』、竹内洋『教養主義の没落』、諏訪哲二『なぜ勉強させるのか?』、福田誠治『競争やめたら学力世界一』、広瀬俊雄『ウィーンの自由な教育』、青砥恭『ドキュメント高校中退』、内田樹『下流志向』『街場の大学論』、磯部潮『不登校を乗り越える』、借金玉『発達障害サバイバルガイド』、ひろじい『37歳 中卒東大生』、柳川範之『独学という道もある』、広中平祐『生きること 学ぶこと』、岡本茂樹『反省させると犯罪者になります』、宮本延春『オール1の落ちこぼれ、教師になる』、大平光代『だから、あなたも、生き抜いて』、中日新聞本社『清輝君がのこしてくれたもの』、福沢諭吉『福翁自伝』、シュリーマン『古代への情熱』、ベンジャミン・フランクリン『フランクリン自伝』などなど。