James Setouchi

2024.11.6

 

   宮口幸治『ケーキの切れない非行少年たち』新潮新書2019年7月

 

1 著者 立命館大学産業社会学部教授。医学博士、精神科医、臨床心理士。精神科病院、医療少年院での勤務を経て2016年より現職。困っている子どもたちの支援を行う「コグトレ研究会」を主宰。

 

2 「はじめに」から

 著者が昔大阪の精神病院で児童精神科医として勤務していたころ、ある施設に定期的に出向いて診察や発達相談などを行っていた。そこで一人の少年に出会った。少年に対して北米で作成された認知行動療法を行った。だが、彼は知的なハンディを併せ持っていたため、認知機能が弱く、ワークブック自体をあまり理解できていなかった。認知行動療法は「認知機能といいう能力に問題がないこと」を前提に考えられており、認知機能に問題がある場合、効果が期待できない場合がある。病院でできることは限られていると痛感し、著者は悶々と過ごした。そのうち、発達しょうがいや知的しょうがいを持ち飛行を行った少年たちが集められる矯正施設(医療少年院)があることを知った。著者は精神病院を辞め、医療少年院に赴任した。そこには、病院に来る子どもたちとはま違った子どもたちがいた。問題があっても病院にも連れてこられず、しょうがいに気付かれず、学校でイジメに遭い、非行に走って加害者になり、警察に逮捕され、少年鑑別所に回され、そこではじめてその子に「しょうがいがあった」と気付かれる、とういう現状があった。現在の特別支援教育を含めた学校教育がうまく機能していなかったのだ。(p3~p8)(以下略)

 

3 「おわりに」から

 著者が本書を書こうと思ったきっかけは、もと国会議員のY氏の『獄中記』を読んだことだった。しょうがいを抱え、本来なら福祉によって救われるべき人たちが、行き場がないゆえに罪を犯して刑務所に集まる。それは、著者が勤務していた少年院の非行少年たちの実態と似ていた。岡本茂樹『反省させると犯罪者になります』という本があるが、それ以前に、「反省以前の少年たち」が多くいることも伝えたい。(p180~)(以下略)

 

4 目次

 第1章「反省以前」の子どもたち/第2章「僕はやさしい人間です」と答える殺人少年/第3章 非行少年に共通する特徴/第4章 気づかれない子どもたち/第5章 忘れられた人々/第6章 褒める教育だけでは問題は解決しない/第7章 ではどうすれば? 1日5分で日本を変える

 

5 では、どうすればいいのか?(第7章)

 少年たちが変わるのは、自己への気づきがあったとき、また自己評価が向上したときだ(p152)。困っている子どもたちへの具体的な支援方法としては、①社会面、②学習面、③身体面、の三支援がある。①社会性は最も大事だ。問題解決能力と感情コントロールといった社会面の力が大切だ。②勉強の土台となる見る力、聞く力、想像する力をつける必要がある。③身体的不器用さは、子どもが自信をなくしたりイジメのきっかけになったりする。

 学習面への支援として、認知機能向上のために治療教育がある。コグトレ(認知機能強化トレーニング)がそれだ。「覚える」「数える」「写す」「見つける」「想像する」の5つのトレーニングからなる。毎朝5分ゲーム感覚でこれを教室で行うとよい。これは犯罪を減らすことにもつながる。

 学校教育において「困っている子ども」を早期に発見し支援することが大事で、それによって犯罪者を減らし、社会の負担するコストを減らすこともできる。(第7章。p146~179)

 

6 感想

 耳の痛い話だ。もっと教育に予算を投入し少人数学級(あるいはティームティーチング教育やアシスタントを活用する教育)で丁寧なケアをすべきだろう。

                     

(教育・学ぶこと)灰谷健次郎『林先生に伝えたいこと』『わたしの出会った子どもたち』、辰野弘宣『学校はストレスの檻か』、藤田英典『教育改革』、竹内洋『教養主義の没落』、諏訪哲二『なぜ勉強させるのか?』、福田誠治『競争やめたら学力世界一』、今井むつみ『学びとは何か』、広瀬俊雄『ウィーンの自由な教育』、宇沢弘文『日本の教育を考える』、青砥恭『ドキュメント高校中退』、内田樹『下流志向』、瀬川松子『亡国の中学受験』、磯部潮『不登校を乗り越える』、ひろじい『37歳 中卒東大生』、柳川範之『独学という道もある』、内田良『教育という病』、広中平祐『生きること 学ぶこと』、岡本茂樹『反省させると犯罪者になります』、宮口幸治『ケーキの切れない非行少年たち』、宮本延春『オール1の落ちこぼれ、教師になる』、大平光代『だから、あなたも、生き抜いて』、中日新聞本社『清輝君がのこしてくれたもの』、アキ・ロバーツ『アメリカの大学の裏側』、堀尾輝久『現代社会と教育』、藤田英典『教育改革』、苅谷剛彦『大衆教育社会のゆくえ』、五神真『大学の未来地図』、吉見俊哉『文系学部「廃止」の衝撃』、福沢諭吉『福翁自伝』、シュリーマン『古代への情熱』、ベンジャミン・フランクリン『フランクリン自伝』などなど。