James Setouchi

2024.10.28

 

 千葉雅也『現代思想入門』講談社現代新書2022年3月

 

1 千葉雅也(1978年~):哲学者、小説家。栃木県生れ。東大教養学部大学院総合文化研究科(超域文化科学専攻)修士課程修了後パリ第十大学(哲学専攻)に留学。帰国後東大で博士号取得。2022年現在立命館大学先端総合学術研究科教授。著書『意味がない無意味』『勉強の哲学―来たるべきバカのために』『別の仕方でーツイッター哲学』『ずるずる、ラーメン』『動きすぎてはいけないージル・ドゥルーズと生成変化の哲学』などなど。小説家でもあり、作品『デッドライン』『マジックミラー』(川端康成文学賞)『オーバーヒート』など。

 

2 『現代思想入門』

 文字通り、現代思想の入門書。いや、入門書の入門書。18才くらいの読者を想定してわかりやすい言葉で親切丁寧に書いてある。内容は、現代思想(本書では1960年代から90年代に主にフランスで展開された「ポスト構造主義」で、代表者をデリダ、ドゥルーズ、フーコーとする)の入門的解説をする。加えて、その前史としてニーチェ、フロイト、マルクスに触れ、精神分析のラカン、またルジャンドル、レヴィナスにも触れる。21世紀の哲学者として、カトリーヌ・マラブー、カンタン・メイヤスー、またバディウ、ラリュエル、ランシエール、ハーマンらについても触れる。今挙げた人名のうち後半の数人は、高校倫理では出てこない。

 

 「現代思想は、秩序を小馬鹿にし、後先考えずに逸脱的なものを称揚する思想のように批判されるときがありますが、それは違う」「現代思想は、秩序を仮固定的(安井注:千葉の用語)なものと見なし、たえず逸脱が置きながらも諸要素がなんとか共存する状態を考察している」「そのような秩序と逸脱の関係は、僕にとっては芸術の問題、『芸術的に生きるとはどういうことか』という問題であり、それが子どもの時からのテーマなのだと思います」と千葉雅也は言う。また「本書は『こうでなければならない』という枠から外れていくエネルギーを自分に感じ、それゆえこの世界において孤独を感じている人たちに、それを芸実的に展開してみよう、と励ますために書かれたのでしょう。」と言う。(243~244頁)

 

 入門書の入門書をさらに解説することもないので省略するが、ほんの少しだけ触れよう。

 

(1)   二項対立で物事を捉えて善し悪しを言うのをいったん留保する(「脱構築=deconstruction」)のが現代思想の特徴。(25頁)

 

(2)   デリダは、「概念の脱構築」を考えた。脱構築の思想は、余計な他者を排除して自分が揺さぶられず安定していたいという思いに介入する。ざわめく世界として世界を捉えるのがデリダのビジョンだ。(第一章)

 

(3)   ドゥールーズは、「存在の脱構築」を考えた。世界は差異でできている。あらゆる事物は異なる状態に「なる」途中である。が、関わりばかりを言いすぎると、それによって監視や支配に転化してしまうという危険があるので、求心的な全体性から逃れる自由な関係にも注目する。(第二章)

 

(4)   フーコーは「社会の脱構築」を考えた。近現代における権力は、自律訓練をする人々と生政治によって成り立つ。アウグスティヌス以来人々は罪責感を抱くようになったが、古代人はその都度注意をし適宜自分の人生をコントロールしていくあり方だった。(第三章)

 

(5)   カトリーヌ・マラブー(1959~)は千葉雅也のパリでの先生だ。マラブーはデリダに学んだが、デリダの「全ては差異の運動である」という思想とは逆に「すべては仮固定的に形態を持ちながらも差異化し変化していく」というタイプの差異概念を提出する。(第六章)

 

(6)   カンタン・メイヤスー(1967~)は、人間がどう意味づけるかに関係なく、ただ端的に存在している事物があり、そしてそれは一義的に何であるかを言える、と主張する。(第七章)                R4.12.31

 

(十代で読める哲学・倫理学、諸思想)

プラトン『饗宴(シンポジオン)』、マルクス・アウレリウス・アントニヌス『自省録』、『新約聖書』、デカルト『方法序説』、カント『永遠平和のために』、ショーペンハウエル『読書について』、ラッセル『幸福論』、サルトル『実存主義はヒューマニズムである』、ヤスパース『哲学入門』、サンデル『これからの「正義」の話をしよう』、三木清『人生論ノート』、和辻哲郎『人間の学としての倫理学』、古在由重『思想とは何か』、今道友信『愛について』、藤沢令夫『ギリシア哲学と現代』、内田樹『寝ながら学べる構造主義』、岩田靖夫『いま哲学とは何か』、加藤尚武『戦争倫理学』、岡本裕一朗『いま世界の哲学者が考えていること』、森岡正博『生まれてこないほうがよかったのか』、千葉雅也『現代思想入門』などなど。また、『スッタ・ニパータ』、『大パリニッバーナ経』、『正しい白蓮の教え(妙法蓮華経)』、『仏説阿弥陀経』、懐奘『正法眼蔵随聞記』、唯円『歎異抄』、『孟子』、伊藤仁斎『童子問』、内村鑑三『代表的日本人』、新渡戸稲造『武士道』、相良亨『誠実と日本人』、菅野覚明『武士道の逆襲』などはいかがですか。