James Setouchi

2024.10.28

 

 

岩田靖夫「いま哲学とはなにか」岩波新書 新赤版1137 (2008年6月発行)

          

 

*岩田靖夫:哲学者、哲学研究者。1932(昭和8)年生まれ。東大文学部哲学科卒。北海道大学助教授、東北大学教授などをつとめ、聖心女子大学教授などを経て、東北大名誉教授。文化功労者。ソクラテス、プラトン、アリストテレス、ハイデガー、レヴィナス、ロールズなどに詳しい。著書「アリストテレスの倫理思想」「神の痕跡」「倫理の復権」「神なき時代の神」「ヨーロッパ思想入門」「三人の求道者」「よく生きる」「ソクラテス」など多数。訳書プラトン「パイドン」(岩波文庫)、ハイデガー「形而上学入門」(創文社)、など。

 

*とりあえず高校生くらいで読める。大学生なら1年目の早いうちに読むといいかも。岩田氏は東北大学などで哲学を教えた偉い先生だ。あなたが東北大学に入学して哲学概論ないし西洋哲学史概説の講義を聴講すると、岩田先生の講義が聴ける(聴けた)、というわけだ。逆に言えば、あなたはこの本一冊を読むだけで、東北大学の岩田先生の哲学の講義を聴けたも同然なのだ。世の中に哲学の入門書は多くあるが、これはその中でも最も良質のものの一つだ、と直感的には感ずる。わずか800円ほど(当時)で、自宅にいながらにして、最良質の哲学講義が聴ける。なんとうれしいことではないか。

 

 「人はいかに生きるべきか」筆者はこの問いを掲げ、次のように述べる。

 

 「本書において、筆者が取り組んだのは、ソクラテスのこの問いである。この問いは、発端である古代ギリシア哲学においてどのように展開されたか。それを精神的基盤として継承しながら、不測の破局的様相を見せはじめている現代においては、どのように応えられるべきか。これが、本書の問題である。・・(中略)・・これらのすべての問いに対して、筆者は哲学者として、現有のすべての力を投入した。」

                           (「はじめに」より。)

 

 筆者が生きている現代(すなわちわれわれの現代)は、アウシュヴィッツの大虐殺、ルワンダの大虐殺、カンボジアの大虐殺、文化大革命の大虐殺、スマトラ沖の大地震、パキスタンの大地震(p.130)のある現代である。この「不測の破局的様相を見せはじめている現代」において、人間としていかに考えいかに生きるべきか? を筆者は誠実に問う。「同じ地球上に多くの者が住むときに、ある人々は運命の偶然により、気候の良い土地に住み、豊かな地下資源に恵まれ、その結果、鋭い知性を育み、それらの卓越性のために文明を発達させ、巨大な富を蓄える。しかし他方には、同じく運命の偶然により、激しい気候の下に、荒れ果てた土地に住み、極めて貧しい生活を強いられている人々がいる。これは、恐ろしい不公平ではないか。これらの不公平もまた、さらに遡れば、力の強い者が力の弱い者を押し退けた結果だとすれば、すべては再び能力の差異という運命的な不公平に還帰する。しかし、人間であることの印が有徳な行為の実行にあるならば、この運命的不公平の除去のためにこそ、人類が全力を挙げるべきではないか。」(p.197)

 あなたは、どう考えますか?                                    

                               (2009.1)