James Setouchi
2024.10.28
内田樹 『寝ながら学べる構造主義』文春新書 2002年
1 著者 内田樹(たつる)1950年~
東京生まれ。東大文学部仏文科卒。都立大大学院博士課程中退。神戸女学院大などに務め、フランス現代思想などを担当。神戸女学院大学名誉教授。著作『ためらいの倫理学』『レヴィナスと愛の現象学』『「おじさん」的思考』『寝ながら学べる構造主義』『他者と死者』『先生はえらい』『私家版・ユダヤ文化論』『下流志向』『村上春樹にご用心』『日本辺境論』『街場のメディア論』『うほほいシネマクラブ』『修業論』『街場の戦争論』など。ブログでも発信している。合気道の師範でもある。
2 『寝ながら学べる構造主義』
構造主義・ポスト構造主義哲学の入門書。平たい語り口で入門書としてよい。
(1)目次
まえがき/第一章 先人はこうして「地ならし」した―構造主義前史/第二章 始祖登場―ソシュールと『一般言語学講義』/第三章 「四銃士」活躍す その一―フーコーと系譜学的思考/第四章 「四銃士」活躍す その二―バルトと「零度の記号」/第五章 「四銃士」活躍す その三―レヴィ・ストロースと終わりなき贈与/第六章 「四銃士」活躍す その四―ラカンと分析的対話/あとがき
(2)内容へのコメント
「まえがき」で「良い入門書は、まず最初に『私たちは何を知らないか』を問います。『私たちはなぜそのことを知らないままで今日まで済ませてこられたのか』を問います」「『私たちは何を知らないのか』という問いは、適切に究明されるならば、『私たちが必死になってそこから目を逸らそうとしているもの』を指示してくれるはずです。」「知的探求は(中略)つねに『わたしは何を知っているか』ではなく、『私は何を知らないか』を起点に開始されます。そして、その『答えられない問い』、時間とは何か、死とは何か、性とは何か、共同体とは何か、貨幣とは何か、記号とは何か、交換とは何か、欲望とは何か……といった一連の問いこそ、私たちすべてにひとしく分かち合われた根源的に人間的な問いなのです。」などなどと内田は言っている。ここで分かるように、この本は平易な入門であって構造主義哲学者たちについての知識が多少増える本でもあるが、同時に読者に考える(哲学する)思考運動をさせる本でもある。この本は①入試問題の評論の哲学的な文章を読むときの前提となる問題意識や概念の枠組み(特に構造主義のそれ)を教えてくれるから受験生に有益、という面もあるが、②「哲学する」ことの楽しみのウォーミングアップのようなものをさせてくれるから全ての人に有益、だと私は考える。ソクラテスは職業的哲学者ではなく靴屋だった。哲学は大学の哲学科の独占物ではなく、平凡な普通人がよりよく生きようとしてものごとを考え学び問う営みに原点があるに違いない。
まず、ソシュールのところから少し。「名づけられることによって、はじめてものはその意味を確定するのであって、命名される前に『名前を持たないもの』は実在しない、ソシュールはそう考えました。」(62頁)フランス語で羊は「ムートン」英語で羊は「シープ」と「マトン」で、後者は食肉だ。言語システムごとに語の持つ意味の厚みは違うのだ。…これは、国語の時間に鈴木孝夫を扱えば紹介される議論だ。「ソシュール言語学は、やがて(デカルト以来の:JS注)この自我中心主義に致命的なダメージを与える利器であることがあきらかになります。」(75頁)
次に、フーコーのところから少し。「知と権力は近代において人間の『標準化』という方向をめざしてきた、というのがフーコーの基本的な考え方です。(中略)そのもっとも顕著なのが『身体』に対する標準化の圧力です。」(92頁)例として、「日本の伝統的な歩行法は『ナンバ』のすり足というものです。(中略)この歩行法は温帯モンスーン地帯の泥濘で深田耕作をする農民にとって労働するに際して、もっと自然な労働の身体運用だったと推察されています。(中略)この歩行法は明治維新後に政治主導で『廃止』されることになりました。軍隊の行進をヨーロッパ化するために新しい歩き方が導入されたからです。」(93頁)…そう言えば小学校で「大きく手を振って行進しなさい、オイチニ、オイチニ!」としつけられた記憶がある。あれはそういうことだったのか、とわかる。私の体も私の動きも、誰か(時代社会のシステム)によって左右され支配されていたのだとしたら?
これらを読み、あなたは、どう考えますか?
(H30.8)
(十代で読める哲学・倫理学、諸思想)プラトン『饗宴(シンポジオン)』、マルクス・アウレリウス・アントニヌス『自省録』、『新約聖書』、デカルト『方法序説』、カント『永遠平和のために』、ショーペンハウエル『読書について』、ラッセル『幸福論』、サルトル『実存主義はヒューマニズムである』、ヤスパース『哲学入門』、サンデル『これからの「正義」の話をしよう』、三木清『人生論ノート』、和辻哲郎『人間の学としての倫理学』、古在由重『思想とは何か』、今道友信『愛について』、藤沢令夫『ギリシア哲学と現代』、内田樹『寝ながら学べる構造主義』、岩田靖夫『いま哲学とは何か』、加藤尚武『戦争倫理学』、森岡正博『生命観を問いなおす』、岡本裕一朗『いま世界の哲学者が考えていること』などなど。なお、哲学・倫理学は西洋だけではなく東洋にもある。日本にもある。仏典や儒学等のテキストを上に加えたい。『スッタ・ニパータ』、『大パリニッバーナ経』、『正しい白蓮の教え(妙法蓮華経)』、『仏説阿弥陀経』、懐奘『正法眼蔵随聞記』、唯円『歎異抄』、『孟子』、伊藤仁斎『童子問』、新渡戸稲造『武士道』、相良亨『誠実と日本人』、菅野覚明『武士道の逆襲』などはいかがですか