James Setouchi
2024.10.12
小川勝『東京オリンピック 「問題」の核心は何か』
集英社新書 2016年8月
1 小川勝 1959~
スポーツライター。青山学院大学理工学部卒業後、スポーツニッポン新聞社に入社。プロ野球、メジャーリーグ、オリンピック取材などを担当し、編集委員に。2002年に独立。著書に『10秒の壁―「人類最速」をめぐる百年の物語』『オリンピックと商業主義』『イチローは「天才」ではない』など。(集英社新書の著者紹介から)
2 目次
序章 一九六四年の光と、二〇二○年の影:一九六四年の開会式/ダークサイドの露呈/オリンピック憲章という「根本原則」に立ち返る/政府の基本方針が示すのは「開催国の欲望」ばかり/歴史、文化、環境の軽視/新国立競技場が受け継ぐべき「歴史」とは/「価値観を共有できる競技場を造ってほしい」/国がやるべき仕事は何か
第一章 オリンピックは「開催国のために行う大会」ではない:「自信を失いかけてきた日本」とは?/経済の盛衰とスポーツ選手の活躍は無関係である/五輪の開催目的は「オリンピズムへの奉仕」である/「成熟した国家」が取るべき態度とは/オリンピズムの実践としての「文武両道」/日米のスポーツ環境の違い/文武両道とは/学力の高低ではなく社会貢献である/高梨沙羅は、なぜインターナショナルスクールを選んだのか/医師や弁護士になった五輪メダリスト/外国語を習得するトップレベルの選手たち/五輪選手と社会貢献/「五輪より保育園」という声に、どう向き合うのか?
第二章 オリンピックは「国同士の争い」ではない:メダルは国家のものではない/五輪とナショナリズムとの「戦い」の歴史/「国旗・国家廃止案」は共産圏諸国に阻まれた/金メダル数は、五輪における生家の規準なのか?/メダル大国=スポーツ大国ではない/英国と日本のメダル数を比較するのは無意味である/五輪の競技はすべてが「世界一決定戦」ではない/「強い日本」より「フェアな日本」を/米国では、五輪選手の強化に税金は使われていない/スポーツ界は「自己資金」調達の努力が足りない/政治の介入を受けず、自立することがオリンピック憲章の精神に通じる
第三章 オリンピックに「経済効果」を求めてはならない:五輪の黒字は、五輪競技に還元しなければならない/「五輪の経済効果」はどの程度?/五輪開催による「経済的マイナス要素」/経済効果が波及しない理由は/スポンサーの権利保護?/開催都市の負担増で、相次ぐ立候補辞退/IOCの「条件緩和」案も効果薄?/「五輪の経費」の内訳/「競技会場の建設費」は「五輪の経費」とは言えない?/新国立競技場建設負担は「二:一:一」/「五輪のために建設される」三つの恒久施設/一九六四年東京五輪の「運営費黒字」は税金投入によるもの/二〇二○年の「運営費」は/一九六四年の比ではない/膨れ上がる警備費用/大会組織委員会の任務は「赤字を出さないこと」/さらに「経費」は膨らんでいく
終章 オリンピックの理念は「勝敗」ではない:IOCの競技運営とオリンピック憲章の乖離/「五輪依存」からの脱却が必要/「五輪以上に重要な大会」はたくさんある/「人間の都合よりも、自然に従う」大会の意義/女子サッカーとラグビーの事例/「ブーム」から「文化」へ/競技人口と教育制度/オリンピック憲章における/平和主義と反差別/オリンピックの理念を体現した、浅田真央の演技
3 感想
平成27年11月の東京五輪に関する閣議決定では、「過去最高の金メダル」「先進的な取組を世界に示す」「被災地が復興を成し遂げつつある姿を世界に発信」「全国津々浦々に…地域活性化につなげる」「科学技術を世界にアピール」「『強い経済』の実現につなげる」などと書いてあり、「いかにして五輪から恩恵を得るか」の欲望が入り乱れている。クーベルタンがこれを読んだらどう思うか(p.17~p.18)。
著者・小川勝は、この日本政府の方針及びマスコミの騒ぎ方の現状と、五輪憲章とのギャップに注目し、今の多くの人の(政府の方針も含め)騒ぎ方は方向が間違っている、と指摘する。
一例をあげると、五輪関連のため建設労働者が東京にとられ、東日本や熊本の災害で復興のために働く労働者が不足している。五輪・スポーツ関係者は、これらの問題について、五輪憲章のオリンピズムの実践として、IOCは選手を教育し、選手は問題のアピールに取り組むべきだ(p.57~p.58)。例えばこのような主張は面白い。「メダル数」や「経済効果」ばかり言いがちな風潮に対して改めて「五輪って何のためにやるんだっけ?」と問い直しを迫るからだ。上記目次で紹介した論点が述べられている。 H29.1
予算がかかる、労働者が五輪に取られ被災地復興などに回らない、景気はその時はよくてもあとで不況が来る(1964年の時も会社が沢山潰れて、救済のために赤字国債を出すことになった)、五輪産業(スタジアム建設はもちろん、選手や指導者も含め)が利権化する、スタジアムはその後も赤字となり財政に負担をかける、勝利至上主義が蔓延して健全なスポーツが歪められる(スポ根ブームを見よ)、国民大衆が愚民化する、子どもたちが勉強しなくなる、若者が浮ついてしまって地道に農業をしなくなる、食糧自給率が下がる、観光客が増えすぎて市民生活に支障が出る、コロナが蔓延する、テロの危険もある、警察がそちらに人員を取られて他に回らなくなる、テレビ番組が五輪中継ばかりになってまともな報道番組が見られなくなる、果ては円谷幸吉(つぶらやこうきち)が自殺する(陸上。誰が彼を死に追いやったのか? あの真面目な好青年を!?)。こう見ると、五輪って、弊害が多いよね、全く・・
アテネとパリで交代で実施するようにしてはどうか? 2024.10.12
(スポーツ論)(スポーツ関係。フィクションも含む。)『スポーツとは何か』(玉木正之)、『近代スポーツの誕生』(松井良明)、『オフサイドはなぜ反則か』(中村敏雄)、『変貌する英国パブリック・スクール スポーツ教育から見た現在』(鈴木秀人)、『日本のスポーツはあぶない』(佐保豊)、『スポーツは体にわるい』(加藤邦彦)、『アマチュアスポーツも金次第』(生島淳)、『文武両道、日本になし』(キーナート)、『スポーツは「良い子」を育てるか』(永井洋一)、『路上のストライカー』(マイケル・ウィリアムズ)、『延長18回終わらず』(田沢拓也)、『強うなるんじゃ!』(蔦文也)、『巨人軍に葬られた男たち』(織田淳太郎)、『海を越えた挑戦者たち』『和をもって日本となす』(R・ホワイティング)、『偏差値70からの甲子園』(松永多佳倫)、『殴られて野球はうまくなる!?』(元永知宏)、『「東洋の魔女」論』(新雅文)、『相撲の歴史』(新田一郎)、『力道山の真実』(大下英治)、『わが柔道』(木村政彦)、『アントニオ猪木自伝』(猪木寛至)、『大山倍達正伝』(小島・塚本)、『武産合気』(高橋英雄)、『氣の威力』(藤平光一)、『秘伝少林寺拳法』(宗道臣)、『オリンピックに奪われた命 円谷幸吉、三十年目の新証言』(橋本克彦)、『タスキメシ』(額賀澪)、『オン・ザ・ライン』(朽木祥)、『がんばっていきまっしょい』(敷村良子)、『オリンポスの果実』(田中英光)、『敗れざる者たち』(沢木耕太郎)、『古代オリンピック』(桜井・橋場他)、『オリンピックと商業主義』『東京オリンピック』(小川勝)、『学問としてのオリンピック』(橋場弦他)