James Setouchi
2024.10.1
栄西『喫茶養生記』古田紹欽校注 講談社学術文庫
1 栄西(1141~1215)
備中(岡山県)の神官の子として生まれる。13才で初めて比叡山に登る。14才で栄西と称す。28歳の時商船に乗り宋へ。この時の滞在は5ヶ月だった。仏教の注釈書を持ち帰り天台座主明雲に謹呈。(明雲は平家に近く、源義仲入京で死去。)栄西は備中・筑前(福岡県)あたりで雌伏していたと言われる。また北九州の宗像氏や宋の豪商王氏と関係が深かったと推察されている。1185年から朝廷に接近。1186年再度宋へ。この時の滞在は4年強だった。天台山や天童山で虚庵懐敞(きあんえしょう)の下で臨済宗黄竜派の禅を修めた。帰国後北九州や山口に寺を建てていく。宗像(むなかた)氏を介して源頼朝に接近。実力を示し始めると良弁や比叡山から攻撃されるが、伝燈大法師の位を朝廷から贈られるなど朝廷との結びつきも強かった。1198年『興禅護国論』を著す。比叡山とは一線を画す決意があったのに違いない。1199年関東に下向、鎌倉に寿福寺を造営。二代将軍源頼家の帰依により京都に建仁寺を造営。比叡山に代わる真言・天台・禅の総合道場を京都市中に建て、出家者だけでなく在家者も含んだ日本の仏法の中興の道場としようとしたに違いない。1211年『喫茶養生記』を茶とともに三代将軍源実朝に謹呈。1215年没。(古田紹欽の解説によった。)
2 『喫茶養生記』
上下二部より成る。上は茶が病を治すのによい旨を述べ、下は茶以外の薬(桑など)について述べる。1211年(建保2年)に三代将軍源実朝に茶とともに献上した、と『吾妻鏡』にあるが、これは上のみで、下はあとから付加したか。(古田紹欽による。)
上のみ紹介する。心臓は五臓の中で五行で言えば南・夏・火・赤・神・舌にあたる。心臓の病には茶が有効だ。広州は南方にあり食も美味だが熱病も多い。食前に檳榔子(びんろうじ=ヤシの仲間)、食後に茶を喫するとよい。茶の効能は各種の書物に書いてある。茶は立春以降に摘み採る。宋朝では朝摘み採りすぐに蒸してすぐに焙る。夜のうちに焙りあげ瓶に取り込み密封する。などなど。
3 コメント
栄西は日本史や倫理で名前だけ学ぶが読んだことはない、という人が多いだろう。『興禅護国論』他を読むべきであるが、『喫茶養生記』は短く、入門に使える。特に上記講談社学術文庫は安価で入手しやすい。古田紹欽氏(鈴木大拙の弟子)の解説もわかりやすい。
栄西は、禅宗の一派・臨済宗の祖師、と高校で学習するが、古田紹欽氏の解説を読む限り、それに収まらない巨人であったようだ。比叡山に対抗できる新しい仏教の総合道場として建仁寺を造営した。北九州にも多く寺を建て、留学先の中国でも寺を修復した。大宋帝国への二度の留学も含め、どこから資金が出ていたのだろうか? (古田氏は、北九州の豪族である宗像氏との関係を示唆する。)
現代で言えば巨大企業の創業者のような働きだ。朝廷や幕府にも一目置かれていた。敵対者からの攻撃にもさらされた。道元が福井の山中に引っ込んで座禅したこと、法然や親鸞が罪ありとして地方に流されたことを思い合わすと、仏教(禅宗でもよいが)の徒は世俗世界の中でどのようなスタンスをとるべきか? を考えさせられる。
『喫茶養生記』自体は、短い本だ。中国の禅宗寺院で喫茶の習慣があったから日本でも取り入れよう、と前面に押し出すことはしていない。茶について考察するなら岡倉天心『茶の本』(近代)の方が記載内容が豊富だ。が、栄西の入門書としてはこの『喫茶養生記』は悪くない。
(十代で読める哲学・倫理学、諸思想)プラトン『饗宴(シンポジオン)』、マルクス・アウレリウス・アントニヌス『自省録』、『新約聖書』、デカルト『方法序説』、カント『永遠平和のために』、ショーペンハウエル『読書について』、ラッセル『幸福論』、サルトル『実存主義はヒューマニズムである』、ヤスパース『哲学入門』、サンデル『これからの「正義」の話をしよう』、三木清『人生論ノート』、和辻哲郎『人間の学としての倫理学』、古在由重『思想とは何か』、今道友信『愛について』、藤沢令夫『ギリシア哲学と現代』、内田樹『寝ながら学べる構造主義』、岩田靖夫『いま哲学とは何か』、加藤尚武『戦争倫理学』、森岡正博『生命観を問いなおす』、岡本裕一朗『いま世界の哲学者が考えていること』などなど。なお、哲学・倫理学は西洋だけではなく東洋にもある。日本にもある。仏典や儒学等のテキストを上に加えたい。『スッタ・ニパータ』、『大パリニッバーナ経』、『正しい白蓮の教え(妙法蓮華経)』、『仏説阿弥陀経』、法然『選択本願念仏集』、道元『宝慶記』、懐奘『正法眼蔵随聞記』、唯円『歎異抄』、『論語』、『孟子』、伊藤仁斎『童子問』、吉田松陰『講孟劄記(さっき)』、内村鑑三『代表的日本人』、新渡戸稲造『武士道』、相良亨『誠実と日本人』、菅野覚明『武士道の逆襲』などはいかがですか。 (R2.2)