James Setouchi

2024.10.1

 

    古川愛哲『教科書には載らない日本史の秘密』祥伝社 2016年4月

 

1 古川愛哲1949年生まれ。日大芸術学部で映画理論を専攻。放送作家を経て著述業。著書『やじうま大百科』

『江戸の歴史は隠れキリシタンによって作られた』『九代将軍は女だった!』など。

 

2 内容:旧石器時代から幕末まで、教科書や通説で皆がこうだと思い込んでいることに対して、果たしてそうか? と新しい問いを投げかける。「自画自賛の日本史は、甘美な酒のようにのどごしも良くて心地よい。…やがて思考回路も心も泥酔状態となる。」対して、「このささやかな小著がめざしたの」は、「嗜好品のような日本史」だ、「嗜好品」は「醒めたままで能を刺激する。視点が変わり、脳を回転させて心も俊敏になる。」と「はじめに」にある。いくつか目に留まったところを挙げてみる。

 

(1)およそ5000年前頃から再び寒冷化が始まり、3200年前になると、寒冷化は目に見える形になった。最盛期は26万人を超えた縄文人も、縄文晩期には7万5000人へと激減した。渡来人が病気を持ち込み縄文人が大滅亡した可能性もある。(28~29頁)

 

(2)中国で殷周革命が起きた(紀元前1100年)。寒冷化による不作がきっかけの一つ。殷の臣民は亡命者・難民として対馬暖流に乗り水田耕作を持って日本列島にもやって来た。(31~32頁)

 

(3)茅(ち)の輪くぐりと「蘇民将来」の正体は何か。当時麻疹(はしか)が流行した。茅の輪は麻疹の古代の処方箋かもしれない。蘇民は須弥山(しゅみせん)のなまりで、仏教の神聖な山。大陸伝来の風土病である麻疹に対する対症療法の漢方薬を仏教が持っていたことの名残ではないか。(45~47頁)

 

(4)飛鳥はシルクロードに繋がっている。ラーファシュアカール、ダーラ・ミータ、モンガールといった名前のイラン人が渡来して活躍した。正月の注連(しめ)飾りは中東の「有翼日輪」の鳥かもしれない。(56~57頁)

 

(5)十二単は文字通り十二枚着たわけではない。当時の女房装束は重ね着すると分厚く、厚さ17センチになる。箸が御膳から口元まで届かない。寝転んで食事を摂ったものか。(78~79頁)

 

(6)『落窪物語』などを見ると平安期の小路の片側は糞だらけ。『今昔物語集』を見ると京の町は死体がゴロゴロである。(81~82頁)→日本人は古来清潔好き、日本の町は昔から掃除が行き届いていて美しかった、などというのはウソだと分かる。

 

(7)平安絵巻を見ると、平安貴族の従者同士がすれ違うと、集団乱闘になることもあった。藤原兼家は「兵」を使った。貴族同士の取っ組み合いや女房同士の殴り合いもあった。(83~85頁)

 

(8)日蓮は律宗の僧を激しく非難した。律宗の僧は北条得宗家公認でいわばNPO団体としてインフラ整備と病者救済を行っていたが、腐敗堕落して金融業で蓄財する者があった。(115~116頁)

 

(9)一般には1392年に南北朝が合一したとされるが、その後も後南朝と言うべき勢力がいた。悪僧、廃絶大名の浪人、倭寇と結びついた富豪、失脚した守護大名遺臣などが南朝庶子の後裔を担いだ。(144~145頁)

 

(10)足利義政は悪政と言われるが、天候不順や洪水の被害を受け苦しむ流民・難民たちに対し、銭や食べ物を配給し、公共事業をして仕事を与えた。さもないと流民・難民は「足軽」(今日で言えば雇われ兵)になるからだ。(146~148頁)

 

(11)日本初のクリスマスは山口で行われた。キリスト教の慈善事業を見て、戦国武士は変わった。戦国時代にもクリスマス休戦があった。御水尾上皇の妻と母、後陽成天皇の妻がキリスト教の説教を聞くために京都の教会を訪れた。キリシタン武士は近世武士道の確立に影響を与えた。(154~178頁)

 

(12)幕末の黒船はペリーだけではない。摂津のある船頭は黒船に遭い、銭と酒を交換している。1853年ペリーが来たときも付近は見物人だらけで茶店が出るほどだった。1854年ロシア船が兵庫の和田岬に来た時も若い衆は菓子や砂糖で歓迎され娘たちは銀の指輪やガラスの簪を貰ってキャーキャー言った。この友好的な雰囲気が一変するのは、動員された諸藩兵が警備を固めてからだ。(236~240頁)

 

(歴史関係)桜井・橋場『古代オリンピック』、橋場弦『民主主義の源流』、小川英雄『ローマ帝国の神々』、弓削達『ローマはなぜ滅んだか』、高橋保行『ギリシア正教』、浜本隆志『バレンタインデーの秘密』、葛野浩昭『サンタクロースの大旅行』、大沢武男『ユダヤ人とドイツ』・『ヒトラーの側近たち』、小杉泰『イスラームとは何か』、桜井啓子『シーア派』、宮田律『イスラムの人はなぜ日本を尊敬するのか』、勝俣誠『新・現代アフリカ入門』、加地伸行『「史記」再読』、陳舜臣『儒教三千年』、島田虔次『朱子学と陽明学』、宮崎市貞『科挙』、吉田孝『日本の誕生』、菅野覚明『武士道の逆襲』、藤田達生『秀吉と戦国大名』、渡辺京二『日本近世の起源』、小池喜明『葉隠』、一坂太郎『吉田松陰』、半沢英一『雲の先の修羅』、色川大吉『近代日本の戦争』、服部龍二『広田弘毅』、共同通信社社会部『沈黙のファイル』、高橋哲哉『靖国問題』、田中彰『小国主義』、中島・西部『パール判決を問い直す』、古川愛哲『教科書には載らない日本史の秘密』『「坊っちゃん」と日露戦争』、本郷和人『日本史のツボ』