James Setouchi

2024.9.19

医療系      鎌田實『なげださない』    集英社文庫

 

*『がんばらない』『あきらめない』に続く本。2008年刊行だが震災後の2011年5月に集英社文庫から出版。鎌田先生は医師。がんなどの難病にかかった人の医療に携わる。「人と比べず、今の自分にできることを積み重ねていくうちに、ミサコさんの心に、しなやかで強靭な芯が通った。」(49ぺ)ヒロシマで被爆しておおやけどを負ったシゲコさんは十三歳の女の子だが、「人生をなげださなかった。」(101ぺ)

 

*鎌田實=医師。1948年生まれ。東京医科歯科大学卒業。諏訪中央病院院長を経て、現在名誉院長。東北の被災地支援、ベラルーシの放射能汚染地帯支援、イラク支援(小児病棟支援や難民キャンプでの診察)なども行っている。著書『がんばらない』『よくばらない』『ウエットな資本主義』『チェルノブイリ・フクシマーなさけないけどあきらめない』『希望』『「がんばらない」を生きる』『なげださない』など多数。(本人のHPのプロフィールから)

 

*内容の紹介

第1章:アルコール依存症から立ち直ったヒロさん。家庭教師をしながら、困難をかかえた子供たちにつきあい、支える。

 

第2章:がんが転移しても再発しても投げ出さず夫婦愛で乗り越えた。

 

第3章:チェルノブイリ原発事故で汚染され地図から消された村にそれでもなお住み続け未来のために教会を独力で建てるおじさん。

 

第4章:ヒロシマで被爆したシゲコさん。一度は人生に絶望しかかった。しかし、「アメリカの良心」ノーマン・カズンズと出会い渡米、看護師となり懸命に生きる。結婚し子供を産みアメリカの高校生にヒロシマを伝える。

 

第5章:盲導犬と生きるキミエさん。二十代で難病のため失明。それでもピア・カウンセラーとしてほかの人のためになる。

 

第6章:ドイツ国際平和村のマスード。アフガニスタン出身。未来のために希望を語り子供たちを支援する。

 

第7章:石野見幸。ジャズ・シンガー。難病で死を背負い続けながらそれでも歌い、人々に「死んだら、あかん!」と訴える。

 

第8章:ヨッちゃん。神戸の震災で隣に寝ていた母親が即死。そのトラウマから立ちあがり歌う。ダウン症の中学生の家庭教師もする。

 

第9章:イラク。イブラヒーム父さんは内戦で入院した子供たちのための院内学級の先生だ。日本のNGO、JIM-NETとかかわり子供たちの支援をする。

 

第10章:北海道留萌郡小平(おびら)町の寧楽協働学舎。25人の多様な人々が集まり、成果主義の競争社会とは180度異なる共同生活を行っている。

 

あとがきにかえて:投げ出していいものと投げ出してはいけないもの。人間にとって最も大切なもの。それは何か?

 

*コメント:久々にいい本を読んだ。ぜひぜひ生徒諸君に読んでもらいたいと思った。医学部・看護学部系統の人はもちろん、そうでない人も全員。岩村昇『ネパールの青い空』、中村哲『人は愛するに足り、真心は信ずるに足る』ほかに並ぶ本だ。すぐれた良心に裏打ちされ、すぐれた実践を伴う。どこか遠くの話ではない。今ここにいる読者一人一人が励まされる。現代社会は問題だらけだ。とんでもない困難が人を襲うこともある。しかし、それでもなお大切なものを「なげださない」で丁寧に善く生きている人がいる。善く生きる、というのはこういうのを言うんだろう。世の中にはこういう人々も沢山いるのだ。人間も世界もそう捨てたものでもない。鎌田先生のHPも見てみよう。                                            H24.12.25     

 

(医学・薬学・看護)中村哲・澤地久枝『人は愛するに足り、真心は信ずるに足る』、蛯名賢造『石館守三伝』、北篤『正伝 野口英世』、岩村昇『ネパールの碧い空』、フランクル『夜と霧』『それでも人生にイエスと言う』、河原理子『フランクル『夜と霧』への旅』、神谷美恵子『生きがいについて』、永井隆『長崎の鐘』、加藤周一『羊の歌』、森鴎外『ヰタ・セクスアリス』『渋江抽斎』、北杜夫『どくとるマンボウ航海記』『楡家の人びと』、吉村昭『ふぉん・しいほるとの娘』、渡辺淳一『花埋み』、シュバイツアー『水と原生林のはざまで』、クローニン『人生の途上にて』、大野更紗『困ってる人』、鎌田實『がんばらない』『あきらめない』『なげださない』『病院なんか嫌いだ』、養老孟司『解剖学教室へようこそ』、山本保博『救急医、世界の災害現場へ』、増田れい子『看護 ベッドサイドの光景』、髙谷清『重い障害を生きるということ』、加賀乙彦『不幸の国の幸福論』『加賀乙彦自伝』、井口民樹『愚徹の人 丸山千里』、岡田尊司『パーソナリティ障害』、磯部潮『発達障害かもしれない』、堤未果『沈みゆく大国アメリカ』、馬場錬成『大村智 2億人を病魔から守った化学者』、河合蘭『出生前診断』、坂井律子『いのちを選ぶ社会 出生前診断のいま』『<いのち>とがん』、大塚敦子『犬が来る病院』、NHK取材班 望月健『ユマニチュード 認知症ケア棹前線』、小原信『ホスピス』、山崎章郎『続病院で死ぬということ』、日野原重明『生きていくあなたへ』、森昭『歯はみがいてはいけない』