James Setouchi 2024.9.19

医療系、国際系   

『人は愛するに足り、真心は信ずるに足る』 

中村 哲  澤地久枝(聞き手)   岩波書店(H22.2)

 

  

中村哲;1936年生まれ。医師。PMS(ペシャワール会医療サービス)総院長。1984年、パキスタン北西部の都市ペシャワールに赴任(ふにん)し、ハンセン病の治療やアフガン難民の診療に従事。近年は、ペシャワール会現地代表として、アフガニスタンにおける水路建設など復興事業の先頭に立つ。若月賞やマグサイサイ賞など受賞多数。(本のカバーから)

 

聞き手:澤地久恵(さわちひさえ);1930年生まれ。作家。『妻たちの二・二六事件』『火はわが胸中にあり』『記録ミッドウェー海戦』『滄海(そうかい)よ眠れ』など著作多数。(本のカバーを参考にした。)

 

内容:中村哲への澤地久枝のインタビュー。「Ⅰ 高山と虫に魅(み)せられて Ⅱアフガニスタン、命の水路  Ⅲ パシュトゥンの村々 Ⅳ やすらぎと喜び」。上の紹介にある通り、中村哲は、実際にアフガニスタン・パキスタンの現場で長年活動し、現地で絶大な尊敬と信頼をかちえている。彼の語る言葉は重い。この本では、中村哲の生い立ちや考え方も語られる。

 

本文中の中村哲の言葉から;

・父は、「世の中のお役に立たなければいけん、おまえはそのために生まれてきたんだ」と言う。(p.39)

・私たちが感ずる「神聖さ」の根源は、人が語り得ない奥深いところで輝いている。一方、その「事実」を人知は定義できない。何かしら人の超えてはならぬ「神聖な空白地帯」を、その地域と時代で共有できる形で戴(いただ)いている。/ だから、その事実に触れるものは、なに教徒であろうと、決して宗教が異なるからと言って人を排斥(はいせき)することはないかと思います。(p.61)

・マラドッサ(注:モスクを中心とした、地域共同体の中心)で学んでいる子どもを、タリバンというのですが、・・・マラドッサで学ぶ子どものタリバンと、政治勢力としてのタリバンは違うのです。その区別もよく分からずに、「タリバンが集結している」というので爆撃して、「タリバンを八十名殺した」と新聞に載(の)る。死んだのは皆、子どもだったとかね。タリバン=過激思想の持ち主じゃないんですよ。(p.76)

・用水路で、いままで沙漠化した土地が潤い、皆が食べられるというときにも、皆、大喜びをしましたけれども、・・(マラドッサを建てるときには)それと同じか、それ以上に、皆が喜びました。(p.80)

・私たちとしては、用水路をつくり、そこで生きていく人たちに、衣食足りて礼節を知るといいますけれども、困った人たちを助けるような気風、それを消さないようにする。一見まわり道でも、それが長い目で大切なことだと思います。  (p.103)

・いわゆるテロ実行犯と言うのは、アラブ系のエリートで、ほとんどがドイツ、アメリカ、イギリスで育った若者たちです。・・テロの温床(おんしょう)は、実は先進国の病理です。(p.158~p.159)

・人類がどんなに変化してもなくならないのは、農業という営みだと思うんですね。食べ物を作ることです。アフガニスタンは、それがじかに見えるところで、水さえあれば、これだけ豊かで平和な生活ができるのだという実証があれば、たいへんな力になると思います。それも半端(はんぱ)な数じゃないですよね、六十万人(注:中村哲たちが灌漑しているのは14000ha、そこで60万人の農民が暮らしている)というと。その実証がモデルとなって、自然に広がっていく気がします。(p.188)

 

中村氏が読んできた本;この本では中村哲の成育歴も語られる。その中で中村哲が影響を受けた本のいくつかに触れている。

1 『論語』:子どもの頃父親から『論語』を陽明学の読み方でしこまれた。(p.28,p.60)

2 ファーブル『昆虫記』:虫の研究をして暮らすのが夢だった。(p.39)

3 内村鑑三『後世への最大遺物』:若い日に読んで深い影響を受けた。(p.43)

4 フランクル『死と愛』およびカール・バルトの著作(p.49)、またキェルケゴール『死に至る病』                                (H22.4)

 

(医学・薬学・看護)

中村哲・澤地久枝『人は愛するに足り、真心は信ずるに足る』、蛯名賢造『石館守三伝』、北篤『正伝 野口英世』、岩村昇『ネパールの碧い空』、フランクル『夜と霧』『それでも人生にイエスと言う』、河原理子『フランクル『夜と霧』への旅』、神谷美恵子『生きがいについて』、永井隆『長崎の鐘』、加藤周一『羊の歌』、森鴎外『ヰタ・セクスアリス』『渋江抽斎』、北杜夫『どくとるマンボウ航海記』『楡家の人びと』、吉村昭『ふぉん・しいほるとの娘』、渡辺淳一『花埋み』、シュバイツアー『水と原生林のはざまで』、クローニン『人生の途上にて』、大野更紗『困ってる人』、鎌田實『がんばらない』『あきらめない』『なげださない』『病院なんか嫌いだ』、養老孟司『解剖学教室へようこそ』、山本保博『救急医、世界の災害現場へ』、増田れい子『看護 ベッドサイドの光景』、髙谷清『重い障害を生きるということ』、加賀乙彦『不幸の国の幸福論』『加賀乙彦自伝』、井口民樹『愚徹の人 丸山千里』、岡田尊司『パーソナリティ障害』、磯部潮『発達障害かもしれない』、堤未果『沈みゆく大国アメリカ』、馬場錬成『大村智 2億人を病魔から守った化学者』、河合蘭『出生前診断』、坂井律子『いのちを選ぶ社会 出生前診断のいま』『<いのち>とがん』、大塚敦子『犬が来る病院』、NHK取材班 望月健『ユマニチュード 認知症ケア棹前線』、小原信『ホスピス』、山崎章郎『続病院で死ぬということ』、日野原重明『生きていくあなたへ』、森昭『歯はみがいてはいけない』