James Setouchi
2024.9.16
NHK取材班・望月健『ユマニチュード 認知症ケア最前線』
2014年10月角川oneテーマ21
1 著者 NHK取材班 望月 健:1965年生まれ。89年日本電波ニュース入社。ハノイ支局長、カンボジア支局長。99年報道制作会社ジン・ネット入社。テレビ朝日『サンデープロジェクト』、テレビ東京『ガイヤの夜明け』などを制作。番組ディレクターとして「中国人犯罪グループ」による密航や自動車盗難の実態、「偽ブランド品汚染」、「イラク戦争」などを取材。2010年よりフリーランス。主にNHKの『クローズアップ現代』で「超高齢社会へ向けた対策」や「森林・林業の可能性」などをテーマに取材を続けている。(本書の著者紹介から)
2 ユマニチュードとは何か
ユマニチュードとは、「知覚・感情・言語による包括的コミュニケーションにもとづいたケアの技法」であり、「『人とは何か』『ケアをするとは何か』を問う哲学と、それにもとづく150を超える実践技術」である(26ページ)。
フランスのイヴ・ジネストという人が編み出した。認知症の高齢者へのケア、精神障がい者や寝たきりにある人、小児など何らかのケアを必要としている人であれば誰でも対象となり、効果を挙げていると言われる(27ページ)。日本では本田美和子医師(国立病院機構 東京医療センター)によって日本に紹介された(47ページ)。
ユマニチュードの4つの柱は次の通り。
(1)「見つめる」:なるべく同じ高さから水平に見つめる。対等に接し、「信頼」を伝えるメッセージとなる。横からでなく、正面から、相手の視線を掴みに行くことが大切(31ページ)。「私があなたに近づいています」というメッセージを相手が理解できる時間を与えるため、驚かさないぐらいの距離を取り、正面から相手にゆっくり近づき見つめる。確実なアイコンタクトをとる。少なくとも0.4秒は必要。(32ページ)。
(2)「話しかける」:優しく、穏やかに、前向きな話をするように心がける。いきなり「おむつの交換に来ました」ではなく、「こんにちは。○○です。今日はあなたに会って話をしたくて来ました。御機嫌はいかがですか?」と関係性を築く。さらに「今日は○○さんにさっぱりしてもらおうと思って、準備してきました」「とっても暖かくしてあるので、すごく気持ちがいいですよ」「それでは、右手から拭いていってもいいですか?」などと、実況中継のように状況を説明していく。併せて、「こんなにしっかり腕があがるのは、すばらしいですね」「協力してくれたので、うまく拭けました」「○○さんも、すごく気持ちよかったのではないですか」などと前向きの言葉を与える。認知症で5秒前のことを忘れてしまう人も、このように何をしているか説明をしてくれていたら安心する。(35~38ページ)
(3)「触れる」:触れる面は広く、優しく、ゆっくりと。敏感な顔や手ではなくまずは腕や背中など。つかむのは不可。こちらの手のひらを上にしてさしだし、相手が自分から手を乗せてくれるのを待つ。(39~42ページ)
(4)「寝たきりにしない」:「立つ」ことは健康維持のために重要。体重がかかり骨が圧迫されると、骨は自ら強くなろうとする。カルシウムが定着し骨を強くし骨粗しょう症を防ぐ。骨を支える筋肉や反射神経お強化される。血液循環にもよい。但し個人の判断で無理に立たせて転倒・骨折することは避ける。担当医師と綿密な打ち合わせを行う必要がある。(42~46ページ)
認知症は、脳の細胞が壊れて記憶障害、見当識障害、理解や判断力の生涯、実行機能障害などが起こる「中核症状」と、日常生活が困難になるいわゆる問題行動や、うつ状態・妄想などが起こる「行動・心理症状」という、二つの異なる症状がある。
ユマニチュードで前者は治らないが、後者が改善できる。(21~25ページ)
人間の脳は、アルツハイマー病が進むと、記憶をつかさどる海馬や、知的活動に関わる前頭前野の一部などは機能が低下する。が、視覚的情報を処理する後頭葉の一次視覚野や、音を聞く側頭葉の一次聴覚野などは、症状が進んでも機能が保たれている。
ゆえに、認知症になった親が子供の名前を忘れても、「この人はいつも自分に良い事をしてくれる、優しい人だ」ということは、ちゃんと分かっているのだ。(138~139ページ)
(医学・薬学・看護)
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H30.3.27