James Setouchi

2024.9.16

  鎌田實・著

○に近い△を生きる 「正解」や「正論」にだまされるな』2013年9月

下りの中で上りを生きる 「不可能」の時に「可能」を見つけろ』2014年3月

                          (いずれもポプラ新書)

 

 1 著者 鎌田實(みのる):1948年東京生まれ。東京医科歯科大学医学部卒。長野県の諏訪中央病院に赴任、同病院院長、名誉院長。住民と共につくる医療を実践。チェルノブイリ、イラク、東北などでも救援活動を続けている。著者『がんばらない』『あきらめない』『なげださない』など多数。(ポプラ新書のカバーの著者紹介を参考にした。)

 

2 『○に近い△を生きる 「正解」や「正論」にだまされるな』

第1章 「正解」や「正論」にだまされるなー鎌田がカマタを問いただす

第2章 石井光太がカマタを丸裸にするー希望と絶望の間にある幸福論

第3章 ○と×で生きるのは時代遅れだ

第4章 「別解力」を磨けば「幸せ」なんて簡単

第5章 ○に近い△を見つけるなんて簡単だ

終章  鎌田がカマタに再び聞きました 「別解力」を磨くためにカマタさんがやってきたことはなんですか

 

(コメント)キーワードは「別解力」。医療では救命と高度医療が「正解」と思われがちだが、そうでない場合もある。諏訪中央病院時代の鎌田氏は、予算もない・病人が多い・医療費がかさむ中で、脳卒中にならないための健康づくり運動を実践、諸問題を解決、長野県は長寿日本一になった。「○」ではないが限りなく「○」に近い「△」が予想以上の結果を生む。石井光太は世界の最貧困エリアをルポする写真家。そこで報告される現場の事情は大変恐ろしいが、ここでも「○」でも「×」でもない「△」の生き方が有効だ。最後にチェ・ゲバラ(革命家)を紹介し、「新しい人間」(人のために働く人間)という概念を示す。

 

3  『下りの中で上りを生きる 「不可能」の時に「可能」を見つけろ』

第1章 楽観力 下り坂を上り坂に変える魔法

第2章 回転力 お金とあったかさを回し続けよう

第3章 潜在力 自分のなかに隠れている力に気がつけ

第4章 見透す力 不確実な世界のなかで、どう生きるか

第5章 悲しむ力 長期戦のなかで虚無的に、刹那的に、なるな

第6章 「不可能」のなかで「可能」を見つける

 

(コメント)前著とセットで読んでほしいそうだ。鎌田氏は東京医科歯科大を卒業したが、負債4億円の諏訪中央病院へ好き好んで赴任した。言わば人生の「下り」を選んだ。そもそも鎌田氏の人生そのものが「捨て子」だったことから始まる。究極の「下り」から鎌田氏の人生は出発している。日本社会もすでに高度成長の夢を見ることはできず、その上に大震災や福島原発事故があった。「下り」だ。しかし、その「下り」の中で「上り」を見つけることができる。今までにない視野や展望が開けることがある。人生論から社会論まで、鎌田氏が語りかける。チェルノブイリでの長年の救援活動の蓄積をヒントにした、福島原発事故への対処法についても、傾聴に値するものがある。

 

 上の二冊は、医療・看護系に学ぶ人はもちろん、すべての人にとって有益だろう。

 

 実は一度だけお目にかかり握手をねだったことがある。エネルギッシュな方だった。    

 

(医学・薬学・看護)

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