James Setouchi

2024.9.16

 

  岡田尊司『パーソナリティ障害』2004年7月PHP新書

                                       

1 著者 岡田尊司(おかだだかし)1960~ 精神科医。1960年香川県生まれ。東大哲学科中退、京大医学部卒。大学院高次脳科学講座神経生物学教室、脳病態生理学講座精神医学教室にて研究。医学博士。京都医療少年院勤務。(PHP新書の著者紹介による)

 

2 目次 

プロローグ 現代人を蝕むパーソナリティ障害

 

第Ⅰ部 パーソナリティ障害の本質 第一章 パーソナリティ障害とは何か/第二章 パーソナリティ障害はなぜ生まれるのか

 

第Ⅱ部 パーソナリティ障害のタイプと対処 第三章 愛を貪る人々 境界性パーソナリティ障害/第四章 賞賛だけがほしい人々 自己愛性パーソナリティ障害/第五章 主人公を演じる人々 演技性パーソナリティ障害/第六章 悪を生き甲斐にする人々 反社会性パーソナリティ障害/第七章 信じられない人々 妄想性パーソナリティ障害/第八章 頭の中で生きている人々 失調型パーソナリティ障害/第九章 親密な関係を求めない人々 シゾイドパーソナリティ障害/第十章 傷つきを恐れる人々 回避性パーソナリティ障害/第十一章 一人では生きていけない人々 依存性パーソナリティ障害/第十二章 義務感の強すぎる人々 強迫性パーソナリティ障害

 

おわりに パーソナリティ障害をプラスの力に

 

3 コメント

 上記目次をみるだけで、自分も多数あてはまると思ってしまう人が多いのではないか。誰でも大小なりのデコボコは抱えている。それは「障がい」ではなく「個性」ともいうべきものだろう。ただそれで実際に社会生活が困難になれば「障がい」と名づけるのであって、ちょっとした工夫や周囲の対応で関係が改善し「障がい」と呼べるものではなくなるはずだ。この本では、上記のパターン別に、本人が克服する、あるいは周囲が援助するさいの具体的な着目点や方法が書いてある。有名人でそこを乗り越えた人も紹介してあるので、当事者でドギマギしている人には、希望になるかもしれない。

 

 一例を見てみよう。

 

 第四章の自己愛性パーソナリティ障害の人は、自分は特別な存在だと思っており、それにふさわしい華やかな成功をいつも夢見ている。ステータスや社会的地位の高い者に接近しようとする(102頁)。自分を賞賛してくれる取り巻きを求める(103頁)。非難に弱く、傷つきやすい。自信過剰と裏腹に、現実生活においては子どものように無能で依存的(105頁)。賞賛だけしてくれる大多数の者と、様々な現実問題の処理をしてくれる依存対象の両者が、彼(彼女)には必要だ(107頁)。どちらでもなくなって利用価値がなくなると捨てる(108頁)。

 

 天才画家サルバドール・ダリは、幼くして亡くなった同名の兄の影にいつもおびえていた。同時に母はダリを溺愛した。本来充たされるべき時期に自己愛的な顕示欲求が母親によって充たされず、自己愛性パーソナリティ障害を呈するに至るというコフートの説明が、ダリにも当てはまる(110~112頁)。だが、こうした傲慢さ、尊大さ、妥協を許さない心は、創造的な営みにおいては、非常に大切だ(113頁)。ココ・シャネルも同様だ(114頁)。

 

 対人関係で挫折すると、ひきこもり、うつ、薬物依存などに陥る場合もある(117頁)。自分はあくまでも正しいと思っているので、気分を害さないように忠告するのは至難の業(120頁)。その人のいやな側面はいったん問題にせず、賞賛してあげるとよい。そうすれば彼はあなたの言葉に次第に重きを置くようになるだろう。義務や道理を説くより、不安や嫉妬心、功名心を刺激してあげた方が彼を動かしやすい(121頁)。有能なマネージャー的存在をパートナーに迎えると、彼は能力を発揮する。自分と同タイプの自己愛的な人物をパートナーにすると失敗する。ロダンカミーユ・クローデルの関係は不幸だった。ダリガラはうまくいった(122~125頁)。

 

 克服のポイントは

①自分を狭めず他人から学べ

②よきマネージャーをパートナーに持て。マーガレット・ミッチェルはよき夫ジョンに恵まれた(126~130頁)。

③共に何かをする体験

④他者のために生きる(普遍的な人類愛や宗教的な精神へと自己への囚われを昇華していく)。釈尊がそれだ。幼時に母を亡くし鬱々と過ごしたがすべてを捨てたのち偉大な悟りを得た(131~133頁)。

 

 どうですか。有益でしたか?私は、釈尊のところは思わず声を上げた。                                

                              H30.8.10

 

(医学・薬学・看護)中村哲・澤地久枝『人は愛するに足り、真心は信ずるに足る』、蛯名賢造『石館守三伝』、北篤『正伝 野口英世』、岩村昇『ネパールの碧い空』、フランクル『夜と霧』『それでも人生にイエスと言う』、河原理子『フランクル『夜と霧』への旅』、神谷美恵子『生きがいについて』、永井隆『長崎の鐘』、加藤周一『羊の歌』、森鴎外『ヰタ・セクスアリス』『渋江抽斎』、北杜夫『どくとるマンボウ航海記』『楡家の人びと』、吉村昭『ふぉん・しいほるとの娘』、渡辺淳一『花埋み』、シュバイツアー『水と原生林のはざまで』、クローニン『人生の途上にて』、大野更紗『困ってる人』、鎌田實『がんばらない』『あきらめない』『なげださない』『病院なんか嫌いだ』、養老孟司『解剖学教室へようこそ』、山本保博『救急医、世界の災害現場へ』、増田れい子『看護 ベッドサイドの光景』、髙谷清『重い障害を生きるということ』、加賀乙彦『不幸の国の幸福論』、井口民樹『愚徹の人 丸山千里』、岡田尊司『パーソナリティ障害』、磯部潮『発達障害かもしれない』、堤未果『沈みゆく大国アメリカ』、馬場錬成『大村智 2億人を病魔から守った化学者』、河合蘭『出生前診断』、坂井律子『いのちを選ぶ社会 出生前診断のいま』、大塚敦子『犬が来る病院』、NHK取材班 望月健『ユマニチュード 認知症ケア棹前線』、小原信『ホスピス』、山崎章郎『続病院で死ぬということ』、日野原重明『生きていくあなたへ』、森昭『歯はみがいてはいけない』