James Setouchi

2024.9.16

 

アンヌ・スヴェルトルップ=ティーゲソン

『昆虫の惑星 虫たちは今日も地球を回す』辰巳出版2022年4月

 

・著者はノルウェーの保全生物学の教授(女性)。この本は世界22カ国以上で出版されている。(なお、訳者の小林玲子はICU卒、早稲田の英文学修士、翻訳者。)本書は「地球は昆虫の惑星である」とし、多種多様な昆虫を紹介、さらに人間との関係を述べ、環境と多様性を守るべきことに言及する。いくつか紹介する。

 

・ハワイのコバチの一種は体長0.6ミリ。中国のナナフシの一種は体長62センチ。昆虫は4億7900万年前に現われ、多種多様に分化し広がっている。(12~13頁)

 

・トンボの複眼は左右それぞれ3万個の小さな眼からできていて1秒に最大300枚の画像を認識、しかも重要な情報だけに集中する選択的注意力がある。ゆえに狩りの成功率は95%。(32~34頁)

 

・ゴキブリの一種は栄養価の高い乳汁を分泌する。ヒトの新たなスーパーフードになるとする意見も。但し搾乳に手間がかかる。(65頁)

 

・蝶や蜂はナトリウム不足を補うためにワニの眼にとまり涙をなめる。(86頁)

 

・オーストラリアで農薬で昆虫を駆除した畑と駆除しなかった畑の収穫高を比較すると、後者が36%も収穫が多かった。アリヤシロアリが地下に通路を掘り水分を行き渡らせていたからだ。(101頁)

 

・ヒトは太古から蜂蜜を食べてきた。旧約聖書の「マナ」は昆虫の排泄物との説がある。スズメバチは持久力があり、そこから作ったヴァームを摂取して高橋尚子はマラソンで優勝したと言う。カカオの受粉にはヌカカというカが役立っている。昆虫が受粉を媒介したイチゴは赤く、身もしっかりしている。昆虫食は栄養価が高く、飼料に対してタンパク質を効率よく生産し、廃棄食品を餌に出来る。ヒトの抵抗感、大量生産、アレルギー、法整備などが課題。(第5章)

 

・オーストラリアに外来の牛が大量に増え糞が大量に出て環境が破壊され困った。結局、よそで育った糞虫を導入して解決した。(158~159頁)

 

・クモの糸は質が高く、防弾チョッキ、ヘルメットなどに応用できるかもしれない。タマバチがつくる虫こぶを利用した没食子インクを、シェイクスピアもベートーベンも使った。(173~174頁)

 

・ラックカイガラムシからとるシェラックはバイオリンや果実の光沢、爆発物や弾薬の防水剤、化粧品などなどで大きな需要がある。(177~181頁)

 

・コオロギの飼育が高齢者のQOLを高める。(193頁)

 

・ゴキブリを災害現場で役立てる研究もある。(198頁)

 

・ミールワームの体内の微生物はポリスチンというプラスティックを分解する。(200~201頁)

 

・カツオブシムシの仲間の幼虫は、絶食させると、若返る!(203頁)

 

・昆虫を脅かすのは、土地の開発、気候変化、農薬や遺伝子操作、外来種。すみかを守ることが大切だ。昆虫の受粉を媒介する働きを試算すると世界への1年間の貢献度は5770億ドル(60兆円)とも。ネオニコチノイドはミツバチにとって有害だ。ヒトは自己中心的な視点を捨てて視野を広げるべきだ。(9章)

 

・ウィルソンは言った。「人間は無脊椎動物を必要とするが、向こうは人間を必要としない。・・」(236頁)