James Setouchi

2024.9.15

 NASAより宇宙に近い町工場 僕らのロケットが飛んだ』

              植松努・著  ディスカヴァー  2009年11月

 

(著者紹介)

 植松電機専務取締役、カムイスペースワークス代表取締役。1966年北海道生まれ。子供のころからペーパークラフトで飛行機を作ることに熱中してきた。今では町工場でリサイクルに使うマグネットを開発、同時にロケット開発に取り組んでいる。

 

(内容紹介と感想)

 尊敬する知人に薦められ読んでみた。大変いい本だった。みなさんに薦めたい。若い人も大人も読める。塾や学校の先生や保護者の皆さんも。

 

 この本は植松さんの自己紹介をかねた本だ。子供のころから工夫しては物作りをした。中学高校では成績が悪いとされたが、今までやってきたことが大学で花開いた。航空機産業の会社に就職し、700系新幹線やリニアモーターカーのデザインにかかわった。帰省して父親の町工場を継いでからは、リサイクルに使う道具を開発しつつ、採算を度外視して小型ロケットを作っている。その技術は世界が注目している。読んでいて、生きる活力が伝わってくるような本だった。また、これからの日本社会が向かう姿についてのヒントを与えられたような気がした。

 

 彼は、「どうせ無理」という言葉を廃絶するために日々挑戦している。「だったら、こうしてみたら」が彼の会社の合言葉だ。一般のロケットの燃料は爆発しやすく有害なので安全のためのコストがかかりすぎる。彼のロケットはポリエチレンが材料で安全だ。(北大の永田教授が開発した。)小型ロケットで宇宙のゴミを片付けることができるだろう。実験施設なども買えば高いものが多いが、何でも自分で作ればいい。憧れが努力を生む。仕事とはお金ではなく社会や人のために役立つことだ

 

 楽しんで取り組めばいいのに楽をしようと「どうせ無理」と言っては自分より弱い人の自信を奪っていく。そのしわよせが心優しい子供たちに濃縮される。「いやなことは自分のところで食い止めるぞ」と鋼のハートを持てば、このマイナスの連鎖はブツッと切れる。人から頼られ必要とされれば自信を回復できる。

 

 今までの製造業は、壊れやすいものを作ってはまた買わせるという形できた。植松さんは半永久的に壊れないものを作る。これでオンリーワンになった。そして、なるべく作らず、なるべく売らない。大量生産・大量消費の社会は終わり始めている余った時間は、勉強し、工夫し、未来のために使う。国家の総力は、そこに暮らす人の能力の総和であり、未来の可能性の総和だ。つまりそこに暮らす人の優しさと憧れの総和のはずだ。

 

 その他、ものづくり論だけでなく、人間論、幸福論、教育論、日本社会論等々としても、ヒントに満ちた、生きる希望を与えてくれる一冊だ。みなさんにお薦めしたい。

                               

(理工系・農学系の人に)

広中平祐『生きること 学ぶこと』、藤原正彦『若き数学者のアメリカ』・『遥かなるケンブリッジ』、湯川秀樹『旅人』、福井謙一『学問の創造』、長沼毅『生命とは何だろう?』、福岡伸一『生物と無生物のあいだ』、池田清彦『やぶにらみ科学論』、山極寿一『スマホを捨てたい子どもたち』、更科功『絶滅の人類史』、本川達雄『ゾウの時間ネズミの時間』・『生物学的文明論』、桜井邦明『眠りにつく太陽 地球は寒冷化する』、村山斉『宇宙は何でできているのか』、佐藤勝彦『眠れなくなる宇宙のはなし』、今野浩『工学部ヒラノ教授』、中村修二『怒りのブレイクスルー』・『夢と壁 夢をかなえる8つの力』、広瀬隆・明石昇二郎『原発の闇を歩く』、河野太郎『原発と日本はこうなる』、梅原淳『鉄道の未来学』、近藤正高『新幹線と日本の半世紀』、中村靖彦『日本の食糧が危ない』、神門善久『日本農業への正しい絶望法』、鈴木宣弘『食の戦争』、林成之『脳に悪い7つの習慣』