James Setouchi

2024.9.13

国際系

   小泉悠『ウクライナ戦争』ちくま新書2022年12月

 

*この問題は現在進行中で、時々刻々に変化している。この本が出たのは2022年12月で、その後さらに事態は変化している。また私はこの問題の専門家ではない。こおことをあらかじめお断りしておきます。(2024.9.13)

                      

[ 1 ] 著者:小泉 悠(ゆう)(1982~):千葉県生まれ。早大社会科学部卒、同大学院政治学研究科修了、政治学修士。民間企業勤務、外務省分析員、ロシア科学アカデミー研究所客員研究員、未来工学研究所客員研究員を経て、東大先端科学技術研究センター専任講師。専門はロシアの軍事・安全保障。著書『「帝国」ロシアの地政学』『現代ロシアの軍事戦略』『ロシア点描』『ウクライナ戦争の200日』など。(ちくま新書カバーの著者紹介から)

 

[ 2 ] 内容からいくつか

 「おわりに」で、「ロシア軍」「ウクライナ軍」とマクロで見てしまうが、実はそこにはナターリア、イホール、セルゲイ、ウラジミール(ウクライナ名でヴォロディミル)といった具体的な名前を持った一人ひとりの人がいる、そこには「ミクロな現実がー多くは悲劇的な現実が存在している」「本書は、読み上げきれない無数の小さな名前たちに捧げられている」(236頁)と著者は記す。このことを最初に紹介しておきたい。国家や軍隊の攻防・攻防で大局を語りがちだが、本当はそこに名前と顔を持った個々の具体的な人間が生活している、ということを、忘れてはなるまい。

 

「第1章      2021年春の軍事的危機」では、ロシア軍がウクライナ国境付近に集結し緊張が高まったことについて、背景、推移などを解説している。アメリカにはトランプ(親プーチン的)からバイデンへの交代があった。ロシアには野党活動家ナヴァリヌイ拘束がありロシア全土で大規模な抗議デモがあった。ウクライナではゼレンシキー(ウクライナ名はゼレンシキー)と親プーチンのメドヴェチュークや右派暴力的集団との関係があった。

 

「第2章      開戦前夜」では、2021年9月~2022年2月21日の状況を解説する。プーチンは2021年7月12日の論文「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について」で、ロシア人、ウクライナ人、ベラルーシ人は9世紀に興った古代ルーシの継承民族であってそもそも分かちがたい、1922年のソ連成立時に別々の共和国にしたのが間違いだった、と主張している(66~69頁)。

 

「第3章      『特別軍事作戦』」では、2022年2月24日から7月の状況を解説する。開戦当日の2月24日公開のプーチンのビデオ演説は、7月21日の論文の延長戦上にあり、加えてウクライナの「非軍事化」と「非ナチ化」を持ち出した(100~102頁)。プーチンはウクライナ国内に協力者を育成し、電撃的作戦でゼレンシキー以下を排除する計画だったが、失敗した。ロシアの動きは、ほぼ米国の予想通りだった。(100~105頁)ウクライナ軍は弱体ではなく、地形も北部湿地帯をはじめウクライナ軍に有利で、米国や欧州が供与したジャヴェリン(対戦車ミサイル)が威力を発揮した。ウクライナ国民はロシアの侵略に対して結束して抵抗した。(119~127頁)3月25日、ロシアは東部ドンバス地方に集中する方針に転換した(128頁)。ブチャの虐殺(戦争犯罪)が明らかになり、ウクライナ国内世論は硬化、国際世論もロシア非難の空気がさらに高まった(136~141頁)。東部ドンバス地方については、ロシア軍が一定の成果を上げた(146~151頁)。

 

「第4章      転機を迎える第二次ロシア・ウクライナ戦争」では、2022年8月~本書刊行の9月までの状況を解説する。プーチンは軍への不信を強め、多くの将軍たちを失脚させた。情報機関とも軋轢がある(154~161頁)。米国は高軌道ロケット砲システムHIMARSをわずかだけウクライナ軍に供与した。これが猛威を振るった。(161~164頁)米国及び欧州諸国は、ウクライナに多くを援助することは出来ない。戦争をNATO加盟国に拡大させる、核戦争に踏み切る、という可能性を排除するためだ。(165~166頁)プーチンも、国民を総動員することが難しい。国民の反発があり、また動員を実施する組織の能力に差があるからだ。(170~183頁)核使用も難しい。NATOとの全面戦争のリスクがあるからだ。(184~191頁)

 

「第5章      この戦争をどう理解するか」では、情報戦やテロを組み合わせた「ハイブリッド戦争」「新型戦争」「新世代戦争」などとは言えない(194~209頁)。プーチンは当初「プラハの春」弾圧やアフガニスタン侵攻、クリミア半島強制併合を範としていたのではないか。が、これは失敗した。(211~213頁)ココーシンの概念を借りれば、今回は「限定全体戦争」に該当する(216頁)。プーチンが戦争を始めた動機は、「ルーシ民族の再統一」といった民族主義的野望も想定できるが、現時点では「よくわからない」とするほかない。(226~227頁)。

 

[ 3 ]コメント:この先生は東大の先生だ。ロシアの兵器・軍事に詳しい。この戦争をどう理解するか? 少しでも知りたいと思い読んでみた。上記は限られた紙数で一部分だけを紹介しており、不十分なので、各自でお読み頂きたい。本書は巻頭に地図や略語表がついており、参照しやすい。第3章でクラウゼヴィッツの戦争論への言及がある。これは有名な文章だ。また戦争は2023年2月26日現在まだ続いており情勢は流動的だ。例えば2022年9月ロシアは予備役30万人を動員。11月ウクライナは南部のへルソンを奪還した。                                                                                                                                            2023=R5.2.26

 

*2024.9.13の補足

 私はわからずに言うのだが、          

 石破さんが「ウクライナはNATOに入っていなかったからロシアに攻撃された」という言い方をしておられた(R6.9.12)と思うのだが、逆に「ウクライナが中立の緩衝地帯の立場を捨ててNATOに入ろうとしたからロシアに攻撃された」とも言えるのではないか? 

 

(石破さんは、「第1に日本を守る、第2に国民を守る、・・」と言われた。いかにも石破さんなのだろうが、「第1に国民」と言ってほしかった。薩長は大政奉還後強引に内戦(戊辰戦争とその続きの戦争、箱館戦争に至るまで)をしかけてきた。勝海舟と徳川慶喜は幕府の負けとすることで江戸の市民をいやもっと多くの民を守ったとも言える。(これは会津の人への批判ではない。純情愚直な会津の人に私は好感を持つ。)戊辰戦争では石破さんの故郷の鳥取の人も苦労をしたはず。大日本帝国のときは結局政治体制を放棄することで国民は一億玉砕せずにすんだ。

 

 実は国民国家なんてものは近代のヨーロッパで発明された、ナポレオン戦争以降ならここ200年のものでしかない。世界史の時間に国民国家が正しいと習ったかも知れないが、一民族一言語一宗教一国家なんてものはめったにない(または、全くない)、幻想(虚構)に過ぎない。現代ではいろんな人が入り組んで住んでいるのが現実だ。ハワイ王国は独立を放棄してアメリか合衆国の一員になった。是か非か。日本はアメリカの51番目の州になればいい、と保守党の大物の誰かが昔言っていた。是か非か。)

 

 同じく、台湾が中立的でうまくあいまいな態度を取っている方が中国の攻撃を受けずにすみ、例えば、もし仮に韓・日・台・比・越(ベトナム)・米の軍事同盟を作ったら中国の攻撃を誘発してしまうことになるのではないか? どうなのか?

 

 石破さんに限らない、温度差がどれ位あるのかわからないが、「憲法を改正して戦争をします」と候補者たち(R6.9.12自民党総裁候補たちのTV討論会)は口々に言っているように聞こえる。ああ、恐ろしい。

 

 サイバー防衛は有効かも知れない。一滴の血も流さず攻撃システムを無力化できる。イスラエルはイランの防空システムを一挙に無力化して空爆したという。空爆しなくていいから、相手の攻撃能力を無力化できればいい。(私のできることではないが。)(IT会社がこの機に乗じてまた金をむしってくるとすれば不愉快だが。)(IT軍事技術はあそこやそこが熱心にやっていそうだ。)

 

 軍事力ではなく政治・外交・経済・文化などの力で相互信頼を進め戦争を抑止するのがいいと思うのだが・・? カナダとアメリカは戦争をしない。フランスとドイツももう戦争をしない。イングランドとスコットランドも戦争をしない。

 

 (中国はバブルが崩壊して経済がピンチとも聞こえるが・・災害や環境問題や人権問題も多いので中国政府はまず民生のために尽力すべきでは? 内憂を外患に転嫁してはいけない。人民中国の中が泣く。それにチベット人やモンゴル人やウイグル人をひどい目に遭わせるのを止めるべし。次は朝鮮人!? その次はロシア人? くわばらくわばら。周辺民族を排撃すれば「中華」の名が泣く。中国の一般ピープルはジョージ・オーウェルの『1984』を読むべきだが、出版統制で読めていないのだろうか・・東北アジアのあそここの国も同様。五輪に行って世界の多様な見方が手に入りましたか? リーダーのあの人は欧州に留学していたはずですが・・)

 

 尖閣はもともとは石原(都知事)が「私の友人の島だ、都で買い取る」と言い出したことが問題が先鋭化した発端で、あんなことを言い出さなければもめずすんでいたのでは? 

 

 つまり戦争をしたい人たち(武器商人など)がいて、戦争を生み出す口実をあちこちにばらまき続けているのでは? 本当は戦争などしたら政治・経済・社会すべてにダメージを与え政権だってゆらぐので、本当は戦争などやりたくない人が沢山いるはず。対して武器産業の諸君が金儲けのために戦争を作りだし自分は前線に行かず安全なところにいて同胞(同じ国民)を死なせるなどというのは、戦前の言い方で言えばそれこそ「非国民」「国賊」のやることでは? 根本的にはそれに騙されないようにすべきだ。(かつて保守党の大物議員で誰やらを「国賊」と批判して謹慎処分になった人がいるが、実は真実を言い当ててしまっていたから、黙らされてしまったのでは?)(後漢のとき倭の帥升なる者が生口106人を献上したという。偽書かも知れないが、偽書でないとして、我が国最初の売国奴または売国民奴と言うべきか?)

 

 では、現時点まで事態が深刻化しているとき、どうすればいいのか? う~ん、難しい。(1941年の日米開戦前夜、「ことここに至ってはやむを得なかった」としたい人が今もいるかも知れないが、ちょっと待ってください。「その後の被害を考えると、それでも開戦すべきではなかった」と今の時点では言える。そもそも軍産複合体の暴走を許したのがいけない。現代でも同様か?)

 

 トランプは「自分が大統領になったら(大統領になる前に)ウクライナ・ロシアの戦争を1日で終わらせる」と豪語していたが、どうやって終わらせるのか? トランプは明言しなかった。トランプはシリア内戦の時は2017年にシリアの空港に巡航トマホークを59発(駆逐艦から。当時1発1億5千万円くらいですか?)打ち込んで見せた上でアサド政府軍(ロシアが後ろだて)に勝たせる(いわゆる自由シリア軍は見棄てられた)形で「終息」させた。ウクライナについても、「東部地域をロシアに分割せよ」としてしまうつもりなのか? その際、反ロシアと見なされる人々はどうなるのか? 

 

 ここにいて報道を見ているとロシアが勝手にウクライナに攻め込んだのがいけないのであって、ロシアは直ちにやめるべきだと思うのだが・・? 

 

 なおトランプは、イスラエル・ハマス戦争をどう止めるかはハリスとの討論では言わなかった。トランプは「命を大切にする」と言いながらイスラエルのやり過ぎを止める気がないのだろうか・・あるいは私(たち)と見ているニュースが違うのかもしれないが・・・

 

 イスラエルのリーダーたちは、モーゼの律法に「殺すな」があることを思い出すべきだ。神は殺人を禁止している。まして子どもや病人など・・

 

 少し希望を。日本軍国主義も終わった。あの悲惨だった朝鮮戦争も一応休戦している。ベトナム戦争も終わった。カンボジア内戦も終わった。ルワンダ内戦も終わった。ドイツは東西で平和裡に統一した。 フランス・ドイツあたりは歴史的にもめ続けてきた地域だ(近代国民国家ができてからだけでも戦争を繰り返してきた)が、もはや戦争をしない。日本と韓国も戦争をしない。日本と台湾も戦争をしない。日本とアメリカも戦争をしない。日本とフィリピンも戦争をしない。日本とベトナムも戦争をしない。日本は中近東に攻め込むことはない。今の日本は他国を侵略することはない。日本と中国、日本とあそこの国やあそこの国も・・・戦争をしないでいることができる。わたしたちは(あなたがたは)戦争は嫌だ、馬鹿らしい、と骨身にしみて知っているので、知恵を出し合って戦争を止め、また避けることができる。私たちは平和の尊さありがたさを知っているので世界に発信することができる。(外大の人、朝鮮語、中国語、ロシア語などでできますか?)

 

 もう少し言おう。平清盛も滅んだ。織田信長も滅んだ。帝政ツアーも滅んだ。ヒトラーも滅んだ。独裁者は滅ぶ。諸行無常のことわりが勝つ。軍事にコストをかけすぎた国はまず短期間で滅ぶ。民の生活が窮迫し独裁者を支持しなくなるからだ。孟子も言っている。「道義なき国家は滅ぶ」と天野貞祐は言った。道義を求めて「正義の戦争」に駆り立てられるのではなく、「道義なき平和」を選ぶ場合もある(その場合、「正義の戦争」なるものが間違った正義だったりする。中国の戦国時代に東方の超大国・斉(せい)が北方の燕(えん)を攻めたのは、どうだったのか?)が、それでも道義なき国家は結局滅ぶ。国民が疲弊して国を見棄てるからだ。孟子はそこははっきり書いている。「王道政治(民を大事にする徳のある政治)で仁政をすれば小国でも天下に号令をかけることができる、天下の民が慕ってくるからだ、対して覇道政治(民からむしり取って力で内外を圧迫する政治)で王の贅沢や軍事に金をかけすぎれば民の暮らしは窮迫し民は逃げ出す」と。おや、どこかの国がすでにそうなっているのかも・・・?                         (2024=R6.9.13)

                                              

(国際)白戸圭一『アフリカを見る アフリカから見る』(2019)、ムルアカ『中国が喰いモノにするアフリカを日本が救う』、勝俣誠『新・現代アフリカ入門 人々が変える大陸』(2013)、中村安希『インパラの朝』、中村哲『人は愛するに足り、真心は信ずるに足る アフガンとの約束』、パワー『コーランには本当は何が書かれていたか』、マコーミック『マララ』、サラミ『イラン人は面白すぎる!』、中牧弘允『カレンダーから世界を見る』、杉本昭男『インドで「暮らす、働く、結婚する」』、小泉悠『ウクライナ戦争』、佐藤優・手嶋龍一『ウクライナ戦争の嘘』、アキ・ロバーツ『アメリカの大学の裏側』、佐藤信行『ドナルド・トランプ』、高橋和夫『イランVSトランプ』、堤未夏『(株)貧困大国アメリカ』、トッド『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』、熊谷徹『びっくり先進国ドイツ』、ヘフェリン『体育会系 日本を蝕む病』、暉峻淑子『豊かさとは何か』、竹下節子『アメリカに「no」と言える国』、池上俊一『パスタでたどるイタリア史』、多和田葉子『エクソフォニー』、田村耕太郎『君は、こんなワクワクする世界を見ずに死ねるか!』、伊勢崎賢治『日本人は人を殺しに行くのか』、柳澤協二『自衛隊の転機』石破茂『国防』松竹伸行『憲法九条の軍事戦略』、高橋哲哉『沖縄の米軍基地』、岩下明裕『北方領土・竹島・尖閣、これが解決策』、東野真『緒方貞子 難民支援の現場から』、野村進『コリアン世界の旅』、明石康『国際連合』、石田雄『平和の政治学』、辺見庸『もの食う人びと』、施光恒『英語化は愚民化』、ロジャース『日本への警告』,滝澤三郎『「国連式」世界で戦う仕事術』   (2023=R5.2.26  改2024=R6.9.13)