James Setouchi
2024.9.8
湯浅誠『ヒーローを待っていても世界は変わらない』朝日文庫 2015年
(2012年に単行本で出て、補章を加えて2015年に文庫化した。)
1 著者 湯浅誠(1969年~)
東京生まれ。社会活動家。東大卒。95年からホームレスの支援活動を始め、貧困問題に関する活動と発言を続ける。2008年「年越し派遣村」村長。09~12年、民主党政権下で内閣府参与。13年4月から朝日新聞紙面審議委員。14年4月から法政大学現代福祉学部教授。著書『反貧困』『岩盤を穿つ』『どんとこい、貧困!』など。(朝日文庫カバーの著者紹介から)
2 内容紹介
「文庫版まえがき」によれば、前半の第1・2章は、「民主主義とは何かという基本的なこと、そして日本の民主主義の現状、およびそこに現れている課題について」述べる。そこで言いたかったのは「民主主義とは面倒くさくて疲れるものだ」「その事実を直視した上で、私たちがどうするか考えましょう」ということだ。後半の第3章は「民主主義を活性化する上で必要と思ったことについて」述べる。「時間と空間を確保し、それらをデザインする力を身に付けよう」と呼びかける。「民主主義の活性化のためには、対話が必要」「対話には、そのための時間と空間が必要」「それをどうデザインするかというノウハウも欠かせません」とする(p.7~p.10)。さらに、文庫本版のために追加した補章では、人工知能の発達、地域活性化、大学での学生たちとの交流について触れる。人工知能搭載の介護ロボットが発達しても、人間にしかできないこととして残るのは、「目・腕・心(メデシン)」(高齢者の残った力を見極める目、環境を整え介助する腕、やってみようの気持ちを引き出し支える心)だとする。「グローバル人材」にも「異・自・言(いじげん)」(異なる文化を理解し、自国の歴史や文化を探り、それらを言語化できる)の力が求められる。「目腕心」と「異自言」は重なる(p.167~p.174)。地域活性化については、一次産業の六次産業化、観光、自然エネルギーのいずれも、すでに「ある」ものの力を引き出す(p.174-p.181)。教育については、「参加」と「場のデザイン」が大切だ。その試行錯誤の中でイノベーションが生まれるだろう(p.181~p.189)。
3 感想
色々と反省させられ勉強になる本だ。例えば大学に通った時「よくがんばったな」(p.96)「私だってできたんだから、他の人だってできますよ」(p.100)などと言っていた自分は全く無知であった、それぞれの家庭にはそれぞれの事情があり、自分の望む結果を得られない人もある、それをすべて「その人の気持ち次第、努力次第」とは考えたくない、社会の側の責任を少し多めに見積もるくらいでちょうどいいのではないか。このように湯浅誠は考える(p.97~p.101)。
集会や投票に参加を促すためには保育サービスを付けたり投票日に移動支援を行ったりすればよい。(p.115)東日本大震災では足湯のサービスを通じて被災者のニーズを聞き出していく(p.130~p.132)。単なる炊き出しではなく共同炊事もよい(p.133)。このようなスキルやノウハウをどれだけたくさん持っているか(p.134)。人と人の関係を結び直し一からコミュニティをつくっていくノウハウの蓄積が日本社会には十分にない(p.147)。
これらの指摘には反省させられるし、なるほどそんな方法もあったのだと改めて考えさせられる人も多いはず。法学、政治学を志す人はもちろん、多くの人が一読してみるとよい本だと私は考える。
(政治学、法学)
丸山真男『日本の思想』、石田雄『平和の政治学』、高橋源一郎『ぼくらの民主主義なんだぜ』、橋場弦『民主主義の源流 古代アテネの実験』、湯浅誠『ヒーローを待っていても世界は変わらない』、小林節『白熱講義! 日本国憲法改正』、木村草太『憲法の創造力』、松元雅和『平和主義とは何か』、高橋哲哉『沖縄の米軍基地 「県外移設」を考える』、伊勢崎賢治『日本人は人を殺しに行くのか』、林信吾『反戦軍事学』、岩下明裕『北方領土・竹島・尖閣、これが解決策』、石破茂『国防』、中島武志・西部邁『パール判決を問い直す』、田中森一『反転 闇社会の守護神と呼ばれて』、読売新聞社会部編『ドキュメント検察官―揺れ動く「正義」』、秋山健三『裁判官はなぜ誤るのか』、イェーリング『権利のための闘争』、大岡昇平『事件』(小説)、川人博『東大は誰のために』、川人博(監修)『こんなふうに生きているー東大生が出会った人々』、加藤節『南原繁』、三浦瑠璃『「トランプ時代」の新世界秩序』などなど。