James Setouchi
2024.9.8
法・政治系
田中森一『反転 闇社会の守護神と呼ばれて』幻冬舎アウトロー文庫
1 著者 田中森一
1943年長崎県生まれ。岡山大学法学部在学中司法試験合格。1971年検事。大阪地検や東京地検の特捜部で活躍した伝説の敏腕賢治。1988年弁護士に転身。2000年石橋産業事件を巡る詐欺容疑で東京地検に逮捕、起訴され、服役。仮釈放の後2014年に病死(71歳)。
2 『反転 闇社会の守護神と呼ばれて』
自伝。ベストセラー。今日ではこういうタイプの検事や弁護士がいるのかどうかはわからない。①貧しいところから身を起こした苦労人である、②敏腕検事の仕事ぶり、③バブル時代の様相、などに読みどころがある。バブルは遠い昔となり田中氏も亡くなってしまったが、法学部に進む人に参考になることもあるかもしれない。
(1)生い立ち
長崎の平戸島の生まれ。貧しい村で、家は漁師。3部屋に11人が暮らした。中学を出たら働けと言われたが、10年間待ってくれと父親に懇願し、県立高校の分校(定時制)に学ぶ。学資はそろばんを教えて捻出した。独学で勉強したが大学受験は失敗。二十歳のときつてを頼って和歌山に行き働きながら予備校で学ぶ。政治家を夢見て岡山大学法文学部に進学。学生時代は1960年代で左翼運動た東京オリンピックの時代だった。空手部に入り左翼学生のデモを蹴散らしたり、逆にデモに参加して警官隊を蹴飛ばしたりした。不良学生時代にやくざに真剣で脅されたのを機に空手部もやめ、司法試験に向けて本格的に勉強を始めた。毎日14時間。彼女(のち結婚し奥さんとなる)に養ってもらいながら勉強した。25歳で一発合格。「10年間勉強させてほしい」とう親との約束のタイムリミットだった。
(2)検事時代
地方検察局を転勤し、出世しながら大阪、東京へと進んだ。大阪地検時代が最も思い通りにできた時代だった、と田中氏は書く。特捜検事となり、経済問題を扱うが、そこには裏社会の人間が何らかの形で関与している、と田中氏は書く。そして、その裏社会の人の対応が、田中氏はどうやらうまかったようなのだ。田中氏は自白を引き出す名人「割り屋」と呼ばれるようになる。田中氏自身は、自分の弱さを知っていたからあえて厳しく被疑者に迫った、と書いているが、同時に、田中氏自身が貧しい家庭で育った苦労人なので、厳しい環境で育った人間の苦しみやプライドを見抜き共感することができたからではないかという気がする。実力を認められ東京へ。しかし、東京は大阪とは勝手が違った。現場が懸命に捜査しても、上層部から横やりが入り、釈然としないままに捜査終了となる。刑事ドラマのようなことが起こっていた。検事の狭い人間関係にも疑問を持った。彼は検事を辞めてしまう。
(3)弁護士時代
弁護士に転身した田中の周囲に、政治家、ヤクザ、バブル紳士、企業家、株の仕手筋の類が大量に出現する。彼の退職金は800万円だった(1987年当時に高いか安いかは知らない)が、弁護士事務所開きの祝儀総額が6000万円! 弁護士顧問料が月に1000万円以上! と、バブル時代でもあり、突如として金回りの良い弁護士になってしまった。税金対策でヘリコプターまで購入する。賭けゴルフに、高額な贈り物。来客に名刺代わりに札束を渡すバブル紳士もいた。このあたりはバブルの時代の証言の一つとなるかもしれない。だが、彼は落とし穴にはまっていく…これから法曹を目指す人は、田中森一を反面教師とすべきだろう。だが、一代の傑物ではあった…
(政治学、法学)丸山真男『日本の思想』、石田雄『平和の政治学』、高橋源一郎『ぼくらの民主主義なんだぜ』、橋場弦『民主主義の源流 古代アテネの実験』、湯浅誠『ヒーローを待っていても世界は変わらない』、小林節『白熱講義! 日本国憲法改正』、木村草太『憲法の創造力』、松元雅和『平和主義とは何か』、高橋哲哉『沖縄の米軍基地 「県外移設」を考える』、伊勢崎賢治『日本人は人を殺しに行くのか』、林信吾『反戦軍事学』、岩下明裕『北方領土・竹島・尖閣、これが解決策』、石破茂『国防』、兵頭二十八『東京と神戸に核ミサイルが落ちたとき所沢と大阪はどうなる』、中島武志・西部邁『パール判決を問い直す』、田中森一『反転 闇社会の守護神と呼ばれて』、読売新聞社会部編『ドキュメント検察官―揺れ動く「正義」』、原田國男『裁判の非情と人情』、秋山健三『裁判官はなぜ誤るのか』、志賀櫻『タックス・ヘイブン』『タックス・イーター』、大下英治『小説東大法学部』(小説)、イェーリング『権利のための闘争』、大岡昇平『事件』(小説)、川人博『東大は誰のために』、川人博(監修)『こんなふうに生きているー東大生が出会った人々』、加藤節『南原繁』、三浦瑠璃『「トランプ時代」の新世界秩序』、池上彰『世界を動かす巨人たち<政治家編>』『世界を動かす巨人たち<経済人編>』、堤未果『政府はもう嘘をつけない』『日本が売られる』などなど。