James Setouchi

 

増田寛也 編著『地方消滅 東京一極集中が招く人口急減』中公新書 2014年8月

 

1 増田寛也(1951~)東京生まれ。東大法学部卒、建設省勤務、岩手県知事、総務大臣などを務める。野村総合研究所顧問、東大公共政策大学院客員教授、日本創成会議座長。他の著書『地域主権の近未来図』『「東北」共同体からの再生』

 

2 個人的な感慨 

 私は東京で学生生活を送り職業人になって最初の赴任地が田舎の過疎地だった。過密と過疎の落差を知識では知っていたが実際に生々しく実感することになった。その過疎地の若者は高卒でどんどん都会に出ていく。地元はどんどん若者が減っていく。まれにUターンする人がいるが少ない。人口は減るばかり。まれに東京に行くと巨大なビルとハイウェイと鉄道が交差しており人口は超過密。超過疎と超過密の問題をどうかしないといけないというのは問題意識としては常にあった。では地方の県庁所在地はどうかというと進学校の卒業生は県外にどんどん出ていく。大卒で帰ってきているかというと調査しているわけではないが実感としてはさほど帰ってきていない。

 

 そのうち三浦展『東京は郊外から消えていく!』(光文社新書、2012年)を読み東京もエリアによってはひどく高齢化が進みゴーストタウン化する危険性があると知った。ひるがえって私が今住んでいるエリアは町なかなのだが、空洞化し超少子高齢化が進んでいる。同様のことが全国で起こっているはずだ。あなたの町はどうですか。

最悪のシナリオは、地方が完全に過疎化し道路や水道などのインフラも修理できないまま独居高齢者が山の斜面に取り残されている、東京は一部の富裕層の住むエリアと多数の貧困層(しかも高齢者)のスラムからなる都市になる(世界のどこかに沢山ある「普通の」首都になる…)、というものだ。それだけは避けたい。

 

 ではどうすればいいのか? という問題意識を持っているとき、この本に出会った。これは有益なので多くの人に読んでもらいたい。データに基づき説得力がある、全国を視野に入れている、いくつかの類型を紹介しわかりやすい、政策提案までつなげている、などなどで有益である。忙しい人は巻末の対話編から読むのでも有益。この本を出発点として、様々な議論をしていくことができる。

 

3 目次

序章 人口急減社会への警鐘、第1章 極点社会の到来―消滅可能性都市896の衝撃、第2章 求められる国家戦略、第3章 東京一極集中に歯止めをかける、第4章 国民の「希望」をかなえるー少子化対策、第5章 未来日本の縮図・北海道の地域戦略、第6章 地域が生きる6モデル、対話編1 やがて東京も収縮し、日本は破綻する、対話編2 人口急減社会への処方箋を探る、対話編3 競争力の高い地方はどこが違うのか、おわりにー日本の選択、私たちの選択、巻末に全国市区町村別の将来推計人口のデータをつける。

 

4 すべて紹介したいが、紙面の都合上序章の「九つの誤解」を紹介する。

(1)本格的な人口減少は、五十年、一〇〇年先の遠い将来の話ではないか?:否。すでに深刻な事態になっている。

 

(2)人口減少は、日本の人口過密状態を解消するので、むしろ望ましいのではないか? :否。地方から大都市圏への人口移動が大きい。(最終的には東京も人口減少するが)一時的には地方は人口急減、大都市は過密になる。

 

(3)人口減少は地方の問題であり、東京は大丈夫ではないか?:否。東京の出生率は極めて低い。東京の人口は地方からの流入による。地方人口が消滅すれば東京も衰退する。

 

(4)日本全体の人口が少なくなるのだから、東京に人口を集中し生産性を向上すれば?:否。短期的にはそれで生産性は向上するが長期的には(地方人口の衰退により人口流入が途絶え)衰退を招く。また東京は超高齢化する。

 

(5)近年日本の出生率は向上している。人口減少は止まるのでは?:否。若年女性数が急速に減少するので、出生率が少々上昇しても出生数は減少する。

 

(6)少子化対策はもはや手遅れでは?:否。これからの取り組みにかかっている。出生率改善が五年遅れるごとに将来の安定人口が三〇〇万人ずつ減少する。

 

(7)出生率は、政策では左右されないのでは?:否。フランスやスウェーデンは成功している。日本人は「子どもを持ちたい」という希望は多い。少子化対策は現在低水準なので抜本的に強化すれば黄河が期待できる。

 

(8)「子育て支援」が十分な地域でも出生率は向上していないのでは?:否。晩婚化・若年層の所得問題なども含めた総合的な対策を行えば向上する。

 

(9)海外からの移民を受け入れれば、人口問題は解決できるのでは?:否。日本を多民族国家にする(注1)ほどの大胆な受け入れをしなければカバーできず、現実的な政策ではない。(注1:日本は単一民族国家ではない。がここでは何千万人も外国人を受け入れて、というほどの意味でこう言っているのだろう。)

 

5 北海道の例 

 第5章で北海道をケーススタディしている。ここだけでも有益である。ぜひご一読を。(2014.11)

 

補足:「人口大国→総量としての経済大国」をめざすのではなく、個々の人が安心して豊かで満足して生活できる社会(生活大国、と言うか)をめざしたい。税収のために子を産め、外国人労働者を入れよ、というのは根本が間違っている。孟子曰く「(他の覇権主義の国の政治と)五十歩百歩ですな、真の仁政を目指しなされ」と。)   

                          (2024.9.7)