James Setouchi

2024.9.7

 

朝日新聞経済部 『ルポ税金地獄』 文春新書 2017年3月

 

1 朝日新聞経済部:取材班メンバーは複数いる。『ルポ老人地獄』なども出版。本書は連載「にっぽんの負担」(2015年8月23日から16年8月29日まで)を基にしている。(文春新書巻末の紹介から。)

 

2 目次:

プロローグ 老人地獄の次は税金地獄がやってくる / 第一章 税金を払わない富裕層 / 第二章 重税にあえぐ中・低所得者層 / 第三章 固定資産税というブラックボックス / 第四章 税の権力 誰が税を決めるのか? / 第五章 三世代同居、宗教、酒 減税天国の闇 / 第六章 税金地獄からの脱出 / あとがき 公平な負担を求めて

 

3 内容から少し

(1)     税負担が大きくのしかかる時代が来る。特に団塊の世代が75才を超え後期高齢者になる2025年以降は負担がもっと増える(4頁)。では、税の負担は公平か? 不公平ではないか? 例えば「ふるさと納税」や贈与税や相続税は、富裕層に有利な形になっているのではないか?(6頁)低所得者が高額の税負担で苦しむ現状があるのではないか?(9頁)

 

(2)     ある経営コンサルタントは資産管理会社を作り節税をしている(20頁)。ある不動産経営者は個人経営から法人経営に切り替え節税をした(23頁)。タワマン経営も節税に役立つ(28頁)。ある投資家はタイやスイスに移住し節税している(35~36頁)。タックスへイブン(租税回避地)にペーパーカンパニーを作る人もある(38頁)。その他、各種の減税や節税テクニックで富裕層は利益を享受している。が、低所得者はどうか?(62頁)

 

(3)     消費税は1989年度に3%で導入された(64頁)。その後消費税率を上げていった。あるとび職と青果店では消費税が支払えず滞納(67~69頁)。諸経費が粗利を上回り納めるべき消費税額が残らない会社が増えている(70頁)。社会保障は再分配が機能しているとは言いがたい(74頁)。「費用負担ができない」と医療を受けない人は低所得層で39%いる(富裕層は18%)(80頁)。

 

(4)     地方自治体の税金の「徴収率」は非常に高い(88頁)。ここ十年で自治体の徴収は非常に厳しくなった。徴税に絡む自殺のニュースも多い(91頁)。他方自動車などの輸出産業は消費税の「還付」を受けている(97頁)。

 

(5)     地方自治体にとって固定資産税は貴重な収入源だ。その算出根拠になる公示価格は自治体に都合良く高値に「操作」されている(100頁)。高額の固定資産税をかけると資産価値が暴落し町がゴースト化するという悪循環が進行する(119頁)。

 

(6)  企業減税で恩恵を受けるのは超巨大企業だ(146頁)。アベノミクスは海外投資家にアピールするため法人実効税率を下げ、特例減税を行った。その分を補填するのは家計収入だ(152~155頁)。「外形標準課税」の結果中堅以下の企業には増税となった(157頁)。

 

(7)他に三世代同居減税、宗教法人、森林環境税、酒税などについても言及がある(第五章)。

 

(8)高齢化にどう対処するかが特に課題だ。滋賀県野洲市は、税金を払えない人こそ、行政が手を差し伸べるべき人だ、との考え方を持ち、徴税部門と福祉部門の連携で対応している(228~230頁)。寄付優遇制度、ふるさと納税、ベーシックインカム等への言及もある(231~246頁)。

 

4 コメント:税負担には応能負担応益負担とがある。また税金は消費税だけではなく所得税法人税など、また国際連帯税など国境を越えた税もあり、勉強していきたい。社会正義・公正さを実現するにはどうすればよいのか?(2020年6月現在アメリカで白人と黒人の対立(分断)が大きく浮上しているが、積年の貧富の差や抑圧・排除により鬱積した不満が表面化したとも言える。社会正義・公正さを日頃から実現しておくべきだった、ということではないか?ブラジル大都市郊外の貧しい人の集住する地区(ファヴェーラ)をコロナが襲うとどうなるか?これも同様だ。)

 

(商学・経営学・経済学)川上徹也『「コト消費」の嘘』、芹澤健介『コンビニ外国人』、飯田泰之他『地域再生の失敗学』、藻谷・山田『観光立国の正体』、藻谷浩介他『里山資本主義』、井上恭介他『里海資本論』、増田寛也『地方消滅』、矢作弘『「都市縮小」の時代』、スィンハ『インドと日本は最強コンビ』、ムルアカ『中国が喰いモノにするアフリカを日本が救う』、池上彰『世界を動かす巨人たち<経済人編>』、榊原英資『中流崩壊』、大塚信一『宇沢弘文のメッセージ』、堤未果『政府はもう嘘をつけない』『日本が売られる』、富岡幸雄『税金を払わない巨大企業』、神野直彦『「分かち合い」の経済学』、暉峻淑子(てるおかいつこ)『豊かさの条件』、松原隆一郎『日本経済論』、和田秀樹『富裕層が日本をダメにした!』、今野晴貴『ブラック企業』、高橋俊介『ホワイト企業』、斎藤貴男『消費税のカラクリ』志賀櫻『タックス・ヘイブン』、朝日新聞経済部『ルポ税金地獄』、森永卓郎『庶民は知らないアベノリスクの真実』、中野剛志『TPP亡国論』、小幡績『円高・デフレが日本を救う』、橋本健二『階級都市』、橘木俊詔『格差社会』、堀内都喜子『フィンランド 豊かさのメソッド』、アマルティア・セン『貧困の克服』、宇沢弘文『社会的共通資本』、齊藤幸平『人新世の「資本論」』などなど。