James Setouchi

2024.9.7

 

  川上徹也 『「コト消費」の嘘』 角川新書 2017年11月

 

1 川上徹也:コピーライター。湘南ストーリーブランディング研究所代表。大阪大学人間科学部卒業後、大手広告会社勤務を経て独立。東京コピーライターズクラブ新人賞、フジサンケイグループ広告大賞制作者賞、広告電通賞、ACC賞など受賞歴多数。「経営理念」「企業スローガン」など会社の旗印になる「川上コピー」を得意とする。「物語で売る」という手法を体系化し、「ストーリーブランディング」と名付けた第一人者。著書『物を売るバカ』『1行バカ売れ』『こだわりバカ』など。海外にも多数翻訳されている。(角川新書の著者紹介から。)

 

2 内容:はじめに/第一章 メディアをにぎわす「コト消費」とは?  大型商業施設に見る「コト消費」の現状/第二章 なぜ「宙ガール」は、夜空を見上げるようになったのか? コトとモノを結びつけるには?/第三章 「世界一美しい眼科」で、飛ぶようにモノが売れる理由 「モノガタリ消費」を生み出すために/第四章 旗を掲げることで「物語の主人公」になる 顧客に選ばれるための「川上コピー」/おわりに/付録 話題の最新ショッピングモール実地検証

 

3 多少紹介する:モノが売れない時代と言われて久しく、コトを売る体験型消費(観光やイベント型消費など)がブームだ。だが、大型商業施設には、決定的に何かが足りないことが多い。「体験を売る」=「コト消費」なのだろうか? 大切なのは、「コト」と「モノ」を結ぶことだ。「コトモノ消費」で成功している例もある。そこに「物語(ストーリー)」があれば、もっといいだろう。事実によって生み出されるストーリーに共感するタイプの消費を本書は「モノガタリ消費」として訴える。「コトモノ消費」「モノガタリ消費」を実践して成功したい。(以上「はじめに」から)

 紹介されている例からいくつか。

 ビクセンという天体望遠鏡・双眼鏡・顕微鏡などの会社は、マニアックな天文ファンの男性が顧客の中心だったが、そこから脱却して大成功した。会社のビジョンを「星を見せる会社になる」と決めた。若い女性をターゲットにし、野外ライブに出店して、双眼鏡で星空を見る体験をしてもらった。女性用に特化した双眼鏡を開発した。星を見るという感動体験(コト)をモノ消費につなげたのだ。(第二章)

 星野リゾート青森屋は、自分たちのホテルの魅力は設備や料金ではなく青森の魅力なんだと発見、従業員は南部農家の衣裳をまとい津軽弁、南部弁、下北弁を使う。客室や調度品も青森のもので揃える。地下のイベント会場ではねぶた囃子や青森民謡、津軽三味線の出し物があり、客はそこで楽しんでは売店でモノを買う。客は楽しかったのでリピーターになる。

 台湾の宮原眼科は、戦前にあった赤レンガの病院だが、戦後は役所として使われたりしていた。21世紀になり放置されていた建物を新しくリノベーションし、「宮原眼科」という名でスィーツショップをオープンさせた。「ハリー・ポッター」の魔法魔術学校のような内装だ。客は観光客気分で写真を撮る。従業員は内装にマッチした制服を着て物語の主役となる。商品もここでしか買えない。企業そのものが地元愛が強く物語の主役である。(第三章)

 日本の商業施設にない「重要なあるモノ」とは。「私たちのポリシー」だ。その企業が決意表明をするとその企業に「人格(キャラ)」が生まれる。格安航空のピーチは「安さ」以外の部分で「空飛ぶ電車」をコンセプトとし、かつ大阪色を出して機内アナウンスに大阪弁を使ったりしている。四国・松山の明屋書店も「書店の力」で街を明るくする、というコピーを持っている。(第四章)

 

4 感想:言われてみればその通りだ。ある人は高校の卒業記念にキャンディーズ解散コンサートを追いかけて全国ツアーをした。ディズニーランドはスタッフが言わば役者として誇りを持って参加している。こういうところなら客はリピーターになってどんどんお金を使う。SWOT分析(各自お調べください)を併用して地元で何ができるか? コンセプトを産み出し地域おこしをやってごらんになるとよいかもしれません。飯田泰之『地域再生の失敗学』のラストに千葉の挑戦があって、なるほどと思いました。

 但し経済の基本は経世済民であって、自分だけ稼げばいいのではない。会社の関係者(ステークホルダー)には未来世代、地域住民、働く人もいることを忘れてはならない。雇われ経営者、株主、創業者一族、顧客、取引先だけで成り立っているのではない。渋沢栄一『論語と算盤』だけでも読みましょう。

 注意:この本は2017年のものです。2024年現在事情が変わっていることもあります。経済・経営は変化が早い。私は人文系の人間で2000年以上前のことを平気で話題にしますが、経済・経営・商業・流通等の方は、絶えず変化する世の中を見ていかなきゃならんのでしょうね。そう言えば昔エライ人(誰でも知っている世界的大企業の会長さん)が言っておられました。「近いところを見るとわからないことも多いが、中長期的な未来を見るとよくわかり戦略が立てられる。例えば人口、食糧、エネルギー、環境などだ。」・・・なるほどと思いました。人間の安全保障のために皆さん知恵を出しあいましょう。

 

(商学・経営学・経済学など)川上徹也『「コト消費」の嘘』、芹澤健介『コンビニ外国人』、飯田泰之他『地域再生の失敗学』、藻谷・山田『観光立国の正体』、藻谷浩介他『里山資本主義』、井上恭介他『里海資本論』、増田寛也『地方消滅』、矢作弘『「都市縮小」の時代』、スィンハ『インドと日本は最強コンビ』、ムルアカ『中国が喰いモノにするアフリカを日本が救う』、池上彰『世界を動かす巨人たち<経済人編>』、榊原英資『中流崩壊』、大塚信一『宇沢弘文のメッセージ』、堤未果『政府はもう嘘をつけない』『日本が売られる』、富岡幸雄『税金を払わない巨大企業』、神野直彦『「分かち合い」の経済学』、暉峻淑子(てるおかいつこ)『豊かさの条件』、松原隆一郎『日本経済論』、和田秀樹『富裕層が日本をダメにした!』、今野晴貴『ブラック企業』、高橋俊介『ホワイト企業』、斎藤貴男『消費税のカラクリ』、志賀櫻『タックス・ヘイブン』、朝日新聞経済部『ルポ税金地獄』、森永卓郎『庶民は知らないアベノリスクの真実』、中野剛志『TPP亡国論』、小幡績『円高・デフレが日本を救う』、橋本健二『階級都市』、橘木俊詔『格差社会』、堀内都喜子『フィンランド 豊かさのメソッド』、アマルティア・セン『貧困の克服』、宇沢弘文『社会的共通資本』渋沢栄一『論語と算盤』、斎藤幸平『人新世の「資本論」』などなど。