James Setouchi

 

『弟子』中島 敦(なかじま あつし) 

          各種文庫にある。文学全集にもある。

 

*作品紹介

 昭和17年の作品。孔子の一番弟子を自任(じにん)した子路(しろ)が主人公。材料は『史記』の「孔子世家」など。この小説では中島敦ならではの世界が展開されているが、『論語』や中国春秋時代の世界に参入するきっかけとするだけでも一読の価値がある。短編小説で読みやすい。漢語的表現が多い。

 

*登場人物紹介

孔子:中国春秋時代(紀元前500年ころ)の魯(ろ)の国にいた、思想家・政治家・教育者。西洋の哲学事典でもConfucius(孔夫子)として知られる。中国史上最高最大の聖人、あるいは、単なる封建反動主義者、あるいは? 「孔子とは誰か?」は、中国思想史上の最大のテーマである。この作品では、子路から見た孔子は、知情意のすべてがのびのびと発達し、常識的な完成を遂(と)げた人、である。子路は孔子に心酔(しんすい)し、いつも孔子のそばにいようとする。孔子もまた子路をかわいがるのであった。

 

子路:孔子の弟子。姓は仲(ちゅう)、名は由(ゆう)。字(あざな)つまり呼び名が子路。孔子の一番弟子をもって任(にん)じている。最初は遊侠(ゆうきょう)の徒(と)、すなわち、ちょっとしたつっぱりの若者であった。孔子にけんかを売りに行き、かえって一目ぼれしてしまう。以来孔子につき従う。孔子は子路の純粋で利害を考えない性格をこよなく愛する。同時に子路は危ない存在でもある。義侠心(ぎきょうしん)の強さゆえに、他国の争いに巻きこまれ、命を落としてしまう。その時子路は何と言ったか。お読みください。

 

陽虎(ようこ):魯の国の有力大名である季孫(きそん)氏の家臣で、魯の国の実権を握る。

 

季孫氏:魯の国の有力大名。君主以上の力を持つ。子路はここに仕えることになる。

 

魯の定公(ていこう):魯の国の君主。季孫氏らに対抗すべく孔子を登用し君主権を強化しようとする。

 

斉(せい)の景公:魯の隣国・斉の君主。斉は東方の大国。孔子の力で魯が強固になることを恐れ、大勢の美女を魯に送り込み、魯を乱そうとする。これを機に孔子たちは魯の国を離れ諸国を行脚(あんぎゃ)することになる。

 

衛(えい)の霊公:衛の国の君主。衛は周王朝の一族で名門の国。夫人・南子(なんし)により国を乱している。

 

畑中の老人:孔子と子路が諸国を旅している時に出会った、不思議な老人。隠遁者(いんとんしゃ)。

 

孔悝(こうかい):衛の国の実力者。子路は孔悝に仕えることになる。

伯姫:衛の国の実力者。孔悝の母。亡命太子の蒯聵(かいがい)を支持する。

蒯聵:衛の国の太子(たいし)だったが、南子と対立して外国に亡命した。大国の力を借りて帰国し即位することを狙(ねら)っている。(のち即位して荘公となる。)

輒(ちょう):衛の国の混乱の中で即位した、現在の衛の君主、出公(しゅっこう)。亡命太子蒯聵の子。現衛侯=輒(出公)派と伯姫・蒯聵派との対立に、孔悝と子路は巻き込まれていく。

 

*作者紹介

 中島敦:1909(明治42)年~1942(昭和17)年。東京生まれ。祖父は漢学者、父は旧制中学の教師。植民地時代の京城(現ソウル)の小学校・中学校(旧制)にも学ぶ。旧制第一高等学校・東京帝国大学国文科に学ぶ。横浜高等女学校やパラオ南洋庁(当時パラオは日本の委任統治領だった)などに勤務しながらの創作活動を行う。持病の喘息(ぜんそく)に苦しみ、33歳で死去。代表作に『山月記(さんげつき)』『李陵(りりょう)』『名人伝』『文字禍』『悟浄歎異(ごじょうたんに)』『かめれおん日記』『光と風と夢』などなど。『山月記』は従来高校2年の現代文で多くの高校生が学習してきた。