James Setouchi
理系の著述家の本〔理系の人こそ本を読もう!〕
*実は文系理系という分類が常識のようになっているのは日本の受験制度から来る特殊事情で、諸外国はそうではないし、現代の諸問題を解決するには、理系文系と言っていられないのは、誰でも気付いていることだ。(例えば理系の定量的な方法と、文系の定性的な方法とを併せて用いる必要がある。)またAIが「最大多数の最大幸福を得るために少数の人を犠牲にしてよい」という答を出したら、「それは絶対に間違いだ」と言えないといけない。それは人文知の蓄積が教える。(理系のプログラムを作る人は「少数の人を犠牲にすることは決してない」というルールをプログラムに入れる見識をもってほしい。私の今言っていることがわからない人は、問題意識・当事者意識・危機意識が乏しいか、今までの苦労が足りないか、勉強が足りないか、情愛が足りないか、金儲け主義に毒されているか、あるいはその全部か、だ。)
ここに、私立文系の人がいて、入試で英国社しかやっていないので理数は知りませんとおっしゃる。大丈夫だろうか。逆に国立理系の人も、社会(地歴・公民。つまり、日本史、世界史、地理、倫理、政治経済)や国語(特に古典)をろくにやっていないし本も読んでいません、とおっしゃる。大丈夫だろうか。戦艦大和やABC兵器を秘術的には作れるがそれを作ることが何をもたらすのか? を全く問えない人に、未来を託するわけにはいかない。ドストエフスキーは「ににんがし、は悪魔の思想」と言った。その意味がわかりますか? 益川先生の本を読んでみましょう。
小説などあらすじが見えてしまうからつまらないから読みません、とおっしゃる方もいた。大丈夫だろうか。そういう方はドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』を読んでみて下さい。小説はあらすじが読めたらいいのではありませんぞ。この、人間の内面の苦しみに対する理解、想像力なくして、社会のリーダーになって貰っては困ります。他の人の紡ぎ出す物語を一切見もしないのは、自分が信じている物語を絶対視しているからではありませんか?
「STEAM」教育という言い方があるが、「sciense,technology,engineering,mathematics+art」と、文系分野は「art」の一言で済ませており、そこには「philosopy(特にethics),history,literature」が弱い(または欠落している)。そういうことをしているとオーウェルの『1984』のようになってしまうのだ。ナチスは人間を解体したら何マルク儲かる、と算数をしたと言われている。前提からして大間違いなのだ。中国の科挙のやり方はすっかり間違っていたが、哲学(倫理学)、歴史、文学を学ぶべきとした視点それ自体は、間違っていなかった。古来「温故知新」とも言う。吉見俊哉『文系学部「廃止」の衝撃』を読んでみましょう。
このブログを、恐らく、大学生や受験生、高校生、高校中退生などなどを含む十代から二十代の人だけでなく、教育熱心なママさん方や塾の先生方や学校の先生方も読んでおられると思います。これからの人には、本当に未来を託するに足る若者に育ってほしいと私は願っています。バラク・オバマは人々を励まします。あなたの努力が未来を作る、と。
ここに、いわゆる理系学部出身だが、文系的な教養も持ち、著作を書いておられる先生方について、(順不同で恐縮ですが)ご紹介いたします。参考になればいいのですが・・?
新田次郎『アラスカ物語』新田は無線電信講習所(今の電通大)出身。気象台に勤務。大作家となる。『アラスカ物語』、面白いですよ。夏に読めば涼しくなります。
藤原正彦『若き数学者のアメリカ』『はるかなるケンブリッジ』『祖国とは国語』藤原は新田の子。数学者。旧満州生まれ、東大理学部卒。お茶の水女子大の数学の先生をしていた。「武士道」が大好きな先生だが、彼の武士道のイメージは、新渡戸稲造の『武士道』にあるような、人格的に立派なブシドウにちがいない。「鎌倉殿の13人」のダーティなやつではあるまい。なお藤原正彦は「論理」と「情緒」で、「論理」だけでは不可で、「情緒」が大事、読書が大事、と力説している。同感。
広中平祐『生きること 学ぶこと』広中は数学者。京大理学部。フィールズ賞。プロの数学者の過酷な競争の世界が見えて、恐ろしい。それでも広中先生は前向きに熱意を持って頑張り抜く。その熱が伝わる。
福井謙一『学問の創造』福井は京大工学部。ノーベル化学賞。
湯川秀樹『旅人』湯川は京大理学部。ノーベル物理学賞。その兄弟二人は漢学の大学者。湯川は『論語』に詳しく、『荘子』にも詳しい。TVドラマ『ガリレオ』(福山雅治主演)(原作・東野圭吾)の主人公の名が湯川先生なのは、湯川秀樹から来ているのでしょうね。
益川(ますかわ)敏英『科学者は戦争で何をしたか』ノーベル物理学賞。科学者の社会的責任を問う。益川先生は尊敬できる。愛知県生まれ、名大に学ぶ。京大や名大で勤める。
(他にもノーベル賞受賞者関係の本は結構あります。)
永井隆『長崎の鐘』ナガサキの被爆者にして医師・研究者。クリスチャン。自らも被爆しながら治療行為を行いつつ、科学者の目で克明な記録をつけた。聖人と言われている。ヒロシマには重藤医師がおられる(大江健三郎が書いている。)
中村修二『怒りのブレイクスルー』『夢と壁』中村修二は青色発光ダイオードを開発した人。愛媛県立大洲高校→徳島大工学部→日亜化学工業→アメリカへ。超絶面白い人。
寺田寅彦『寺田寅彦随筆集』:寺田は漱石の弟子で『三四郎』の野々宮のモデル。東大の物理の先生。物理学者としても近年再評価されている、と聞く。
中矢宇吉郎『雪』:寺田の弟子。北大。
加藤邦彦『スポーツは体にわるい』加藤さんは東大理学部。免疫のプロ。
池田清彦『やぶにらみ科学論』『環境問題のウソ』『正直者ばかりバカを見る』池田は都立上野高校→東京教育大学理学部→都立大(院)→山梨大や早大国際教養で教える。構造主義生物学。「ホンマでっかTV」に出ているカッコイイおじさんである(池田先生、すみません)。上野高校は自由な校風で有名だ(った)。その中から池田さんが出たのなら、上野高校は実にいい学校だ(った)、となる。
養老孟司・竹村公太郎『本質を見抜く力 環境・食料・エネルギー』養老は東大医学部(解剖学)。竹村は東北大学工学部(土木)。資源・エネルギーから見ると歴史もこう見えるのか! と目からウロコ。必読。文系の人、歴史好きの人も必読。
桜井邦明『眠りにつく太陽 地球は寒冷化する』桜井は京大理学部。NASAにいたことも。太陽の黒点運動に注目。
植松 努『NASAより宇宙に近い町工場』植松は北海道の芦別高校→北見工大→ロケットの打ち上げをしている。いじめをなくすヒントも。
加賀乙彦『小説家が読むドストエフスキー』『不幸の国の幸福論』加賀は東大医学部。精神科医。加賀さんは深い。
鎌田實『がんばらない』『がんばらないけどあきらめない』医者。著書多数。パワーあふれる方で、よく活動しておられる。
(他にも医学部関係の人の本は多い。)
更科 功『絶滅の人類史』『残酷な進化論』実に面白い。必読。非常に長いスパンでヒトを考え、人類とは本来競争する存在ではなかった、共に生きてきた時間の方が圧倒的に長かった、と私はこの本から確信した。
山極寿一『暴力はどこからきたか 人間性の起源を探る』山極(やまぎわ)さんは都立国立高校→京大理学部→ゴリラの研究→京大総長。この本も、長いスパンで、人間は争いあい殺しあう存在ではもともとない、と言ってくれている。
隈(くま)研吾『建築家になりたい君へ』あの隈研吾である。
古川 聡『宇宙に出張してきます』
アンヌ・スヴェルトヌップ=ティーゲソン『昆虫の惑星』結構面白い。
中村 玄『クジラの骨と僕らの未来』理系の研究者を目指す人の道筋のようなものが書いてある。
中村 哲・澤地久枝『人は愛するに足り、真心は信ずるに足る アフガンとの約束』中村は福岡県立福岡高校→九大医学部。この方は本当に偉い。誰かが「中村哲、唯一の希望」と言った。平和の作り方の入門書でもある。本書は澤地との対談。必読。
(こんな人も理系だった!)
内村鑑三『デンマルク国の話』『私はどのようにしてクリスチャンになったか』内村は江戸生まれ→札幌農学校(今の北大)。水産学の専門家で、農商務省水産課に勤務したことも。内村鑑三の弟子が南原繁や矢内原忠雄(ともに戦後の東大総長)、また天野貞祐(戦後の文部大臣)だ。もし内村とその弟子なかりせば、戦後の光(我々の享受する自由、また内面の良心の尊重、と言い換えてもいい)はなかった、と言えるかも知れない。
新渡戸稲造(にとべ いなぞう)『武士道』新渡戸も札幌農学校で、理系の勉強をしている。但し農業経済学。
有島武郎(ありしま たけお)『カインの末裔(まつえい)』小説。有島は東京生まれ(父親が薩摩系列の官僚)で学習院に学ぶが内村に憧れ札幌農学校に学んだ。その後ハーバードに行き、・・・
宮沢賢治『グスコーブドリの伝記』童話。宮沢は花巻の生まれで盛岡農林(今の岩手大農学部)。岩石や肥料の専門家。賢治において、岩石学や肥料学、また宇宙論などの自然科学と、童話や詩を含む文学と、国柱会における法華経の行者としての活動とが、どう関わっているか、は、賢治論の重要な視角の一つだろう。
星新一『午後の恐竜』ショート・ショート。星は父親が製薬会社社長で、星も東大農学部の院でカビの研究をしていた。
安部公房『箱男』小説。安部は東大医学部。医者にならなかった。
加藤周一『羊の歌』『雑種文化』加藤は渋谷生まれ→旧制一高理系→東京帝大医学部! 『羊の歌』は自伝で、有益。
魯迅(ろじん)『故郷』『阿Q正伝』『藤野先生』『野草』魯迅は仙台で医学を勉強していたが、医学では中国民衆の魂は救えない、と考えて文筆家になった。
吉本隆明『共同幻想論』『最後の親鸞』など。評論。吉本は東京都月島生まれで旧制山形高等工業学校を経て東京工大(電気化学)。
北杜夫(きた もりお)『楡家(にれけ)の人々』『どくとるマンボウ航海記』北は東京生れ、麻布中→旧制松本高校→東北大医学部で精神科医。山登りと蝶が好き。その父は斎藤茂吉で精神科医。『楡家の…』は父の病院をモデルにした小説。
片山恭一『世界の中心で、愛をさけぶ』小説。片山は愛媛県立宇和島東高校理系→九州大農学部(農政経済)→作家。
池澤夏樹『バビロンに行きて歌え』『キップをなくして』『カデナ』『アトミック・ボックス』小説。池澤は埼玉大理工(物理)中退。『アトミック・ボックス』は原爆を作る話。
斎藤茂吉『赤光(しゃっこう)』歌集。斎藤は山形県出身で東大医学部。他に、近藤芳美は東工大建築、水原秋桜子は東大医学部、西東三鬼は日本歯科医専などなど、歌人・俳人には理系も多い。
森鴎外『舞姫』『阿部一族』『渋江抽斎(しぶえちゅうさい)』『ヰタ・セクスアリス』鴎外は石見(いわみ)国(島根県)→東大医学部→医者(軍医)。
森博嗣『すべてがFになる』推理小説。森は名古屋大工学部助教授もした人。
帚木蓬生『沙林 偽りの帝国』オウム真理教のサリン事件を扱う。著者は精神科医。福岡の明善高校から東大仏文を経て九大医学部へ。文理共にできる人。小説『白い夏の墓標』も生物・ウイルス兵器や毒ガスを扱っている。読んでみて下さい。
菅直人『東電福島原発事故 総理大臣として考えたこと』(未読)菅さんは山口県立宇部高校→東工大(応用物理だって)。あのとき「ベントするのか!?」と叫んでおられましたな・・
鳩山由紀夫『新憲法試案 尊厳ある日本を創る』(未読。こんな本もあったのか…) 鳩山さんは都立小石川高校→東大工学部(計数工学)→スタンフォード大。
フランクル(精神科医)『夜と霧』『それでも人生にイエスと言う』必読。
ドストエフスキー『貧しき人びと』『罪と罰』『カラマーゾフの兄弟』小説。ドストはロシアの工兵士官学校に学んだ。工業系の技術を学んだということだ。世界最高の作家。
コナン・ドイル『シャーロック・ホームズの冒険』ドイルは医者。実はスポーツ(帝国主義的な)万能で、帝国主義的身体観・世界観を有し、世界を支配するのは白人男性であるべきだと考えていたので、ボーア戦争弾圧の従軍医師に志願し、女性参政権にも反対した。晩年は心霊主義に熱中した。スポーツ万能で五輪で活躍するから手放しで偉い、とは言えない例がここにある。スポーツ論については別に論じたい。
*長谷川眞理子(進化)、黒崎政男(情報)、西垣通(情報)、松尾豊(AI)、池内了(科学論)、河合雅雄(サル学)、福岡伸一(生命)、本川達雄(生物)、茂木健一郎(脳)らも理系ライターで、売れている。
ついでながら、茂木さんは早口だが、英語の会話も同じスピードで早口で話しておられたので、すごい!! と思ってしまった。
*少し追加しました。順次追加するかも。R6.7.31