James Setouchi
『宮沢賢治全集』全8巻 ちくま文庫
『虔十公園林』(童話。第6巻に入っている。)
「虔十(けんじゅう)はいつも縄(なわ)の帯(おび)をしめてわらって」いる人だ。虔十は自然が大好きなのだ。だが周囲の子供たちは虔十のことをばかにして笑っていた。
虔十は働き者で母親に言いつけられると水を五百杯でも汲(く)む。虔十が人に逆らったことはない。
虔十はある日母親に杉の苗(なえ)を七百本買ってもらうようお願いする。虔十は家のうしろの野原に杉の苗を植える。周囲の人は「あんな処(ところ)に杉など育つものではない」とばかにして笑う。・・・だがともかくも杉は育ち、そこに林ができた。子どもたちがそこで遊ぶ。隣の人に憎まれ虔十は殴(なぐ)られる。
やがて虔十は病気で死んでしまうが、林は残った。そこで遊んだ子どもたちが今や立派な大人になり、みんなで林を守りそこを「虔十公園林」と名付けた。「ああ全くたれがかしこくたれが賢くないかはわかりません。」と偉くなった子どもの一人(博士)は述懐(じゅっかい)する。虔十公園林は何が本当の幸せかを人々に教え続ける。
『やまなし』(幻燈の脚本。第8巻に入ってる。)
山の中の谷川の水中。「クラムボンはわらったよ」「クラムボンはかぷかぷわらったよ」と蟹(かに)の子供たちは言う。泡(あわ)が流れ、魚が腹をひるがえして泳ぎ過ぎる。突然魚は鳥に食われてしまう。蟹たちは恐怖ですくみあがる。・・・冬。蟹の子供たちとお父さんがいる上を、やまなしの実がいい匂(にお)いを立てながら流れていく。
これは小学校の国語の教科書に載っていた。
『春と修羅』(詩集。第1巻に入っている。)
詩集『春と修羅』には詩「春と修羅」ほか多くの詩が入っている。「春と修羅」では「まことのことばはここになく/修羅のなみだはつちにふる」「このからだそらのみぢんにちらばれ」と賢治は叫ぶ。(なお、詩「永訣(えいけつ)の朝」は高校の国語の教科書の多くに載っていた。「雨ニモマケズ」はこの詩集ではなく、賢治の手帳に記されていた。)
『銀河鉄道の夜』(童話。第7巻に入っている。)
ジョバンニはいじめられている子だ。カンパネルラだけがジョバンニをわかってくれるたった一人の友だちだ。ジョバンニとカンパネルラは銀河鉄道に乗り銀河を旅している。そこでいろいろな人々の姿を見る。
*仮に上の四つを紹介したが、宮沢賢治全集は、どこから読んでもいい。全部読まなくてもいい。宮沢賢治の世界に子どものうちから触れてほしい。小学生でも読めるし、大人になって再読。味読すればまた格別の味わいがある。また、是非声に出して音読・朗読してほしい。非常に優れたリズムを持っている。
*宮沢賢治(1896~1933):岩手県出身。詩人、童話作家、農業指導者、宗教家。