James Setouchi

 

谷崎潤一郎『細雪』(ささめゆき)

 

1        作者 谷崎潤一郎 明治19年(1886年)~昭和40年(1965年)。

 

 作家。日本近代を代表する文豪の一人。代表作『刺青(しせい)』『異端者の悲しみ』『痴人の愛』『卍(まんじ)』『蓼(たで)食う虫』『芦刈(あしかり)』『春琴抄』『少将滋幹(しげもと)の母』『鍵』『瘋癲(ふうてん)老人日記』等多数。評論『陰翳礼讃(いんえいらいさん)』や、『源氏物語』の口語訳でも有名。東京生まれ。東京帝大国文科中退。永井荷風に激賞され作家的地位を確立。関東大震災を機に関西に移住。『細雪』などは関西の風土を背景にしている。妻をしばしば代えた。最初の妻・千代子を佐藤春夫に譲ったことでも有名。(新潮文庫巻末の年譜その他による。)

 

2 『細雪(ささめゆき)』

 

 『源氏物語』の口語訳を終えた後執筆。昭和17~22年に書かれ発表された。全三巻。昭和10年代の神戸・芦屋に住む、裕福だが家産の傾きかかっている上流中流の商家・蒔岡(まきおか)家の四人姉妹の物語。谷崎の3人目の妻・松子(もと豪商の妻だった)の姉妹をモデルにしていると言われる。

 

 作中の長女・鶴子は大阪で婿養子を取り本家の商家を継いでいる。夫の辰雄は銀行員で、やがて東京に転勤になる。次女の幸子は分家して婿・貞之助と芦屋に住む。悦子という娘がいる。三女・雪子四女・妙子は芦屋の分家にいる時間が長い。

 

 物語は、主に次女・幸子の視点から描かれる

 

 三女の雪子は大人しく自己主張をあまりしない。見合いを繰り返すがなかなか結婚に至らない。見合に際しては、名家の格式やそれぞれの思惑が交錯する。

 

 四女の妙子は生活力のある発展家で自力で仕事や恋人を見つけてくる。その動きは精彩があるが危なっかしくもある。格式を重んじる名家にとって迷惑な存在でもある。

 

 みな与えられた運命の下で、あるいは従順にあるいは抗いながら、何とか生きようとするのだが、うまく行かないことも多い。見合いは断る立場から断られる立場へ。また病気になったり子供が死んだり恋人が死んだりする。

 

 中巻に神戸の豪雨災害(昭和13年)が出てくる。その描写は迫力がある。

 

 東京と関西の比較も出てくる。阪神間の方が気候風土がよく住みやすい、とある。

すでに日中戦争は始まっており、世界大戦前夜でもある。その時局は多くは描かれない。が、確実に描きこまれてはいる。ドイツ人やロシア人の一家も登場し、国際情勢に翻弄されながらも何とか生き抜こうとしている。この一家が出てくることで小説世界は芦屋・大阪のローカルなエリアにとどまらない世界的視野を獲得している。世界文学の一つ、と位置づけてよい。

 

 十代には『細雪』はやや難しく、『陰翳礼讃』などから入るといいかもしれない。