James Setouchi

 

『マイケル・K』J.M.クッツェー 岩波文庫

〝LIFE & TIMES OF MICHAEL.K〟J.M.Coetzee

 

1 作者J.M.クッツェー 1940~

 ノーベル文学賞作家。南アフリカ出身。オランダ系アフリカーナの系譜だが家庭内では英語を使い、アフリカーンスとのバイリンガルとして育つ。ケープタウン大学で英文学と数学の学士号を取る。イギリスやアメリカに渡るが南アフリカに戻り大学で教えつつ作品を発表。2002年からオーストラリアに住む。2003年ノーベル文学賞受賞。代表作『黄昏の国々』『その国の奥で』『蛮族を待ちながら』『マイケル・K』『敵あるいはフォー』『鉄の時代』『ペテルブルグの文豪』『恥辱』『少年時代』『青年時代』『動物のいのち』『エリザベス・コステロ』『遅い男』『厄年日記』『サマータイム』『イエスの子供時代』『ダブリング・ザ・ポイント』(文学批評)など。(岩波文庫のくぼたのぞみの解説から。)

 

2 『マイケル・K』(ネタバレあり)

 1983年発表。本作でクッツェーは世界的に有名になった。

 

 第1部:南アフリカのCM(Colouredで Maleつまり有色人種で男性)のマイケル・Kは、南アフリカのケープタウンの貧しい男だ。時代はアパルトヘイトの時代。周囲では戦争をしている。母親が病で死に、ホームレスとなったマイケルは、母親の遺骨の灰を母親の故郷に撒きに行こうとするが、あらゆる場所で捕えられ、なけなしの金を奪われ、収容され、むりやり働かせられる。辛うじて山岳地帯の廃農場に隠れ住むときが彼の幸せの時だった。だがそれもつかの間、マイケルは反政府ゲリラの一員と見なされ捕らえられる。

 

 第2部:捕らえられたマイケルを収容し矯正しようとする若き医師の視点から語られる。医師は、食事を拒否するマイケルの存在が気になる。食事を拒否するマイケルとは、いったい何者か。やがてマイケルは再び脱走する。国家や組織にとらわれず自由に生きるマイケルを前に、医師も変容していく。

 

 第3部:再びマイケル中心。母と過ごしたケープタウンのビーチ近くに戻ってきたマイケル。体は弱り、死にかかっている。マイケルは自分が隠れ住んだ山岳地帯の廃農場を思う。

 

 この小説は、アパルトヘイト下(その崩壊直前のだが)の苛酷な現実を描き、大変な迫力だ。手に取ってから一気に読ませる。差別されるマイケルを次から次へと暴力が襲う。警察、兵士、盗人。マイケルはやられっぱなしだ。このような目に遭った人々は当時多かったと感じさせる。だが、マイケルは山中の廃れた農場にただ一人隠れ、大地に母の遺骨の灰を撒き、辛うじて持っていた種子で野菜を作って生き延びる。その時の自由と幸福感! 国家や官僚組織、大土地所有者たち、またそれに翻弄される強欲な人々の在り方が、実は人間本来の在り方とは違うのではないか、という問いをも持たせてくれる。

 

*岩波文庫は頑張ってくれている。おかげで読めた。

 

(アフリカ関連)勝俣誠『新・現代アフリカ入門 人々が変える大陸』(2013年現在の政治経済)、中村安希『インパラの朝』(旅行記、アフリカ全般)、マイケル・ウィリアムズ『路上のストライカー』(小説、ジンバブエと南アフリカ)、クッツェー『マイケル・K』(南アフリカ)、ナポリ&ネルソン『ワンガリ・マータイさんとケニアの木々』(絵本、ケニア)、曽野綾子『哀歌』(小説、ルワンダ)、宮本正興・松田素二『新書アフリカ史』(歴史)、山崎豊子『沈まぬ太陽』(小説)