James Setouchi

 

フランツ・カフカ『判決』『変身』『流刑地にて』 (ドイツ文学)

 

1 作者:フランツ・カフカ Franz Kafka (1883~1924) Franz Kafka

 オーストリア領ボヘミア(現チョコスロバキアのプラハ)に生まれる。父は商人。両親ともユダヤ系。チェコ人が多い中で、カフカはドイツ語の学校に学ぶ。プラハ大学で法律を学ぶ。保険の会社で働く。代表作『変身』『判決』『審判』『田舎医者』『流刑地にて』『父への手紙』『城』『歌うたいのジョセフィーネ』など。世界中に読者がある。惜しくも早世。

 

2 『判決』“Das Urteil”

 1912年に書いた。1913年発表。ゲオルク・ベンデマンは(本人の語りによれば)父の事業を継承し成功した商人だ。1ヶ月前に婚約したばかり。ゲオルクには古い友人がいて、最近は連絡が取れていないが、ロシアのペテルスブルグで商売がうまくいっていないに違いない。その友人に、自分の婚約を知らせるべきか? ゲオルクは年老いた父親の部屋に入り・・・ここからが壮絶な展開となる。ネタバレしない。

3 『変身』“Die Verwandlung”

  1912年に書いた。1915年出版。グレゴリー・ザムザは保険の外交員だが、ある日目覚めてみると巨大な虫に変身していた。人の言葉は分かるが、自分は人の言葉を発することが出来ない。家人も驚く。ザムザの変身した姿だと信じるようになったそのあと・・・これもネタバレしない。 中島敦『山月記』と読み比べてみよう。

4 『流刑地にて』“In der Strafkolonie”

 1914年に書いた。1919年出版。私(旅行者)は、ある土地で将校が囚人を処刑しようとする場面に立ちあう。刑罰を自動的に囚人の肉体に刻み込む処刑機械。精巧なメカニズムだが極めて残酷だ。将校は機械の忠実な僕だ。処刑機械は現代のメカニックで非人間的な社会システムの比喩なのか。だが、将校は、自分はすでに旧時代の遺物だとも知っている。そして・・この後の展開も衝撃だ。ネタバレしない。村上春樹もこの作品が好きだとか。

5 『罰』(ややネタバレ)

 カフカは、『判決』『変身』『流刑地にて』を合わせて一本の作品とし、『罰』という題にしようと考えたことがあるそうだ(集英社世界文学全集56の城山良彦の解説から)。三作に共通するのは、理不尽で抗えない展開。人間は否応なくその「罰」を受けなければならない。だが、あまりにも理不尽だ。何ゆえの「罰」であろうか? 『判決』は父と子の葛藤と読める。『変身』は社会や家庭への違和感ゆえの変身か。『流刑地にて』では将校は自らのなし続けたこと故に滅んでいく。一つの社会システムの崩壊と共に彼は去る。そこに新時代への希望はあるのか? 読後感は苦い。その後のドイツの(ナチズムの)歴史を知っているがゆえに、さらに不気味だ。 

 

*ドイツの作家・詩人と言えば、ゲーテ、シラー、グリム、リルケ、トマス=マン、ヘッセ、カロッサ、カフカ、レマルク、ブレヒト、エンデらがいる。最近では多和田葉子がドイツ語で小説を書いている。ドイツでは哲学者・社会科学者が有名。(カント、へ―ゲル、ショーペンハウエル、マルクス、ニーチェ、コーヘン、ヴィンデルバント、マックス=ウェーバー、ハイデッガー、ヤスパース、ハーバーマス、ルーマンなどなど。)心理学のフロイトもユングもアドラーもドイツ語圏の人。音楽家は多数いる。森鴎外、三島由紀夫、中野孝次、辻邦生、北杜夫、柴田翔、平野啓一郎らもドイツ文学の影響を受けている。カフカの影響を受けた人は、中島敦、安部公房、村上春樹など多数。