James Setouchi
『ウィルヘルム・マイスターの修業時代』 ゲーテ
(1)作者・ゲーテ Johann Wolfgang von Goethe
1749~1832年。ドイツの詩人・作家・劇作家。ライプツィヒ大学で法律を学ぶ。弁護士、ワイマール公国の大臣などになる。フランス革命とナポレオン戦争は同時代である。代表作『若きウェルテルの悩み』『ヘルマンとドロテーア』『ウィルヘルム・マイスターの修業時代』『詩と真実』『イタリア紀行』『ウィルヘルム・マイスターの遍歴(へんれき)時代』『ファウスト』など。西欧文学に強い影響を与えた。日本では武者小路実篤(むしゃのこうじさねあつ)ら白樺(しらかば)派に影響を与えた。(新潮世界文学小辞典から)
*『ウィルヘルム・マイスターの修業時代』
『修業時代』『遍歴時代』と併称(へいしょう)される。『修行時代』は1796年完成。ドイツ文学の中でも典型(てんけい)的な教養小説と言われる。教養小説(Bildungsroman)とは、若い主人公が社会との葛藤(かっとう)を経験しつつ生来(せいらい)の資質を発展させ個性的人格を完成させていく過程を描く小説である。ドイツの文学者カール・モルゲンシュテルンは、『ウィルヘルム・マイスターの修業時代』を「小説タイプの中で最も高貴な教養小説」と呼んだ。(集英社世界文学事典の池田信雄の解説による。)
俳優を希望する青年マイスターは、マリアーネとの恋に破れたと思いこみ、商用旅行を命ぜられたのを機(き)に、一流の演劇家になるべく旅に出る。マイスターは自分がいかに生きるべきか迷い続ける。その間多くの人々や社会に接しながら、広い人生を手探りで歩いていく。人に接し愛しもすれば憎みもする素朴(そぼく)な青年だ。しかし彼が結局のところ求めるものは、名誉や金銭ではなく、人生そのものだ。最後には司祭(しさい)を中心とする「塔の結社」と呼ばれるすぐれた人々の一団のもとにたどりつき、そこに理想的な生き方の兆(きざ)しを見る。(集英社世界文学全集5『若きヴェルテルの悩み他』の高橋義孝の解説から。)
(2)コメント
ゲーテと言えば『若きウェルテルの悩み』『フアウスト』が有名だが、前者は若者の情熱が危険で紹介するのをためらう。後者は戯曲である。『ウィルヘルム・マイスター』は十代の人にとっても読みやすく、人生について何かしら得るところがある小説である。「教養小説」とは何か、なぜそれがこの時期に出てきたのか、を考察の対象にすることもできる。
*ドイツの作家・詩人と言えば、ゲーテ、シラー、グリム、リルケ、トマス=マン、ヘッセ、カフカ、ブレヒト、エンデらがいる。最近では多和田葉子がドイツ語で小説を書いている。ドイツでは哲学者・社会科学者が有名だ。(カント、へ―ゲル、ショーペンハウエル、マルクス、ニーチェ、ヴィンデルバント、マックス=ウェーバー、ハイデッガー、ヤスパース、ハーバーマス、ルーマンなどなど。)心理学のフロイトもユングもアドラーもドイツ語圏の人だ。音楽家が多数いるのは周知だろう。