James Setouchi 仏文学 バルザック『ウジェニー・グランデ』
Honoré de Balzac〝Eugénie Grandet〟1833 田村俶(はじめ)・訳
中央公論社世界の文学セレクション36
1 オノレ・ド・バルザック 1799~1850:フランスの作家。トゥール市生まれ。パリ大学法学部に学び、見習い書記の仕事などをする。創作を行う傍ら出版業、印刷業、活字鋳造業などに手を出すが失敗。銀鉱開発や雑誌経営も試みるが失敗。債権者に追われる。その中で多くの傑作を残した。1850年没。代表作『ピラーグの女相続人』『ふくろう党』『結婚の生理学』『ウジェニー・グランデ』『ゴリオ爺さん』『谷間のゆり』『老嬢』『幻滅』『従妹ベット』『従兄ポンス』『現代史の裏面』などなど。彼の主な作品は『人間喜劇』という全集に収められる。(集英社世界文学事典の高山鉄男の解説などを参考にした。)
2 バルザック『ウジェニー・グランデ』1833年
(1) 舞台はフランスのロワール河畔の田舎町ソーミュール。時代は1800年代前半。ナポレオン以降、王政復古のシャルル国王の時代。田舎の金持ちで守銭奴のグランデ氏と、その娘のウジェニーが中心の物語。金が全てと考えるグランデにはうんざりだが、周囲の連中も似たり寄ったりで、グランデの財産目当てに集まってくる。実に低劣な(!)人びとの悲喜劇を、バルザックは辛辣に描いて見せた。
(2)登場人物
(グランデ家)
グランデ氏:田舎町ソーミュールに住む守銭奴。樽屋から身を起こし蓄財し町長になり、今は葡萄を作って売り抜ける、投機で儲けるなど、ひたすら蓄財に励んでいる。他を欺き富を奪う。貯め込んだ金は秘密の部屋にしまい込み家族にも見せない。家族にもほとんど金を渡さない。*その妻:名家の出だがグランデ氏に支配されている。心優しいキリスト教徒。*ウジェニー:その娘。純情な娘だが…*ナノン:女中。背が高く主人思いの働き者。*コルノワイエ:グランデ氏の使用人。*シャルル:ウジェニーの従兄。パリに住むキザ男だったが、父親が破産して…
(デ・グラッサン家)
デ・グラッサン氏:銀行家。もと軍人。*その夫人:息子のアドルフをウジェニーと結婚させたがっている。*アドルフ:その息子。パリで学んでいたことがある。ウジェニーの婿候補の一人。
(クリュショ家)
クリュショ神父:土地の神父。*クリュショ公証人:土地の公証人。*クリュショ・ド・ボンフォン:上記二人のクリュショの甥。裁判所長で、ウジェニーの婿候補の一人。
(その他の人びと)
アネット:シャルルのもと恋人らしい。*ドーブリオ侯爵夫人:後の方で出てくる。
(3)ネタバレを含むコメント
父親のキャラクターが強烈だ。とにかくがめつい。家族や地域の人にも心を許さず蓄財する。「金がすべて」の金の亡者だ。二枚舌を使うのも平気だ。ああ、現代でもどこかにいそうだ。バルザックの描くフランス社会は、現代日本社会とよく似ている。だが、彼も死ぬ時が来る。死ぬ時も金に執着しながら。その姿は本当に見苦しく哀れだ。
シャルルはパリからこの田舎に来た。だが、パリの父親が破産して死んだと聞き絶望する。絶望したシャルルにウジェニーが愛情を注ぐが、グランデの策略でシャルルは外国に旅立つ。外国では奴隷貿易にも手を染めた。気が付くとシャルルもまた金の亡者になっていた。大金持ちになって帰国、パリで血統のよい一族と婚姻しようとする。青年・シャルルも結局はつまらぬ大人と同じだったのだ。
ウジェニーは最初シャルルを信じ待ち続ける。父親からひどい目に遭わされるが、父の死で莫大な遺産がウジェニーのものになる。ウジェニーは財産目当ての裁判所長との結婚を承諾するが、自分の財産を夫に自由にはさせない。ウジェニーは父親と同じがめつい人間になったのか。その夫も死に、夫の遺産もウジェニーのものとなる。
ウジェニーは学校で学んだり仕事をしたりしていない。そこにいるだけで大金持ちになってしまった。子どももなく、この田舎町で大金を抱きしめてウジェニーはつましく暮らすだけだ。周囲には相変わらず彼女の財産目当ての愚劣な人びとの群れ。金があるところには金目当てのつまらぬ人間が集まる、ということか。但しウジェニーは慈善であちこちに寄付をする。彼女は周囲の人間に絶望し、天国を見つめている。父親が守銭奴で、その遺産が転がり込んだが故に、そうでしかありえなかった彼女の人生は、幸か不幸か。
バルザックは金の亡者たちをこと細かく描写してみせる。その目は辛辣だ。
(フランス文学)ラブレー、モンテーニュ、モリエール、ユゴー、スタンダール、バルザック、フローベール、ゾラ、ボードレール、ランボー、ヴェルレーヌ、マラルメ、カミュ、サルトル、マルロー、テグジュペリ、ベケット、イヨネスコ、プルースト、ジッド、サガンなどなど多くの作家・詩人がいる。中江兆民、永井荷風、萩原朔太郎、堀口大学、島崎藤村、与謝野晶子、高村光太郎、小林秀雄、横光利一、岡本かの子・太郎、遠藤周作、渡辺一夫、大江健三郎、内田樹らもフランスの文学・思想に学び多くを得た。