James Setouchi 2024.7.7

 

トルーマン・カポーティ『誕生日の子どもたち』文春文庫 村上春樹・訳

Truman Capote “Children on Their Birthdays”  アメリカ文学

 

1 トルーマン・カポーティ 1924~1984年

 本名トルーマン・ストレクファス・パーソンズ。ニューオーリンズ生まれ。幼くして両親が離婚。カポーティは養父の名前。高校卒業後自活し、様々な職業を経験、21歳の時短編『ミリアム』でオー・ヘンリー賞受賞。『遠い声、遠い部屋』(1948)が絶賛される。戯曲や映画のシナリオも書いた。『ティファニーで朝食を』(1958)はオードリー・ヘップバーン主演の映画となり大ヒットした(1)。『冷血』(1966)は実在の事件に材を取り、詳しく調査したのちノンフィクション・ノベルとして提示したもの。これもベストセラーとなり映画化された。また「ニュー・ジャーナリズム」流行の先駆けとなった。他に『叶えられた祈り』など。1957年には来日し三島由紀夫とも会った。晩年はアルコール中毒に苦しんだ。(集英社世界文学事典の宮本陽吉の解説を参考にした。)(この集英社世界文学事典は私どものような初心者には有益である。(高価だが)一冊常備しておくといいかもしれない。各図書館にはあるとは思うが・・)(1『ティファニーで朝食を』は映画と原作では随分違う。

 

2 『誕生日の子どもたち』村上春樹・訳 文春文庫2009年

 短編集。『おじいさんの思い出』(早くに書いていたと思われるが死後に「発見」され出版された)『無頭の鷹』(1946)『誕生日の子どもたち』(1949)『クリスマスの思い出』(1956)『感謝祭の客』(1967)『あるクリスマス』(1982)(年代は巻末の村上春樹の解説による。)

 

 いくつか触れてみる。(ネタバレあり)

 

『無頭の鷹』The Headless Hawk(1946)

 一読してよくわからなかった。各種解説などで少しわかったかもしれない程度。DJという女性はどこか病院などを抜け出してきたのだろう。デストロネリという男を恐れており、周囲の男がデストロネリに見えてしまう。彼女の描く絵の鷹と女には頭がない。ヴィンセントはNYの画廊に勤める男だが、DJとの出会いにより自分が封印してきた過去を直視せざるを得ない。ヴィンセントは何人もの友人や恋人と出会いながら、結局は彼らを切り捨てながら生きてきたのだ。それは自己自身切り捨てることでもあった。ヴィンセントはこの事実を想起するのがいやで、DJの絵を切り刻みDJを追い出す。だが、出ていったはずのDJがヴィンセントに対しストーカーのようにつけ回す・・・ヴィンセントは自分の内面にある歪みを忘れ去ることができない・・

 

 この話は村上春樹が高校時代に読んで夢中になったそうだ。私にはそうでもなかった。村上春樹は上田秋成が好きだと言う。『騎士団長殺し』などでもわかるように、ホラーが好きなのだろう。この話は一種のホラーなのだろう。

 

『誕生日の子どもたち』Children on Their Birthdays(1949)

 これは面白い。ミス・ボビットという少女が実に面白い。学校など行かず、大人顔負けの賢い言動をする。プリーチャーという少年はビリー・ボブをいじめ、相手の目に土を塗り込む、悪い奴だ。最後はミス・ボビットは悲劇的な死を遂げる。ミス・ボビットは生育歴で苦しみ、彼女の頭の中にある場所(そこでは「何もかもが美しくて、たとえば誕生日の子どもたちのようなところ」)に彼女の真の居場所があるが、そこから現実につなげてうまく生きていくことができる。彼女は悪魔とも契約したと自称する。彼女の表に現われた言動は巧みで面白いが、その奥には大変な悲しみがあったに違いない。

 

『感謝祭の客』The Thanksgiving Visitor(1967)

 これも面白い。幼いボビーは小学2年生でアラバマ州の田舎に年上のいとこたちと住んでいる。その一人スック(60代)がボビーの親友だ。同学年だが12歳のオッドがボビーをひどくいじめる。感謝祭の日、スックがあえてオッドをパーティに招待し、事件が起きる・・(ここではあえて書かない。)

 

 オッドはなぜボビーをいじめるのか。オッドには家庭的な苦しみがあった。子どもの世界は決して無垢ではない。いじめもある。だがいじめっ子のオッドもまた家庭のことで傷ついていたのだ。スックの叡智で事態が動く。しかしやがてオッドはこの土地を去り、ボビーは寄宿舎へ、スックもなくなる。ボビーがスックと過ごした幼い日々は尊い美しい日々だった。

 

 カポーティの自伝的な作品には同じようなシチュエーション、同じようなキャラクターが出てくる。実在のモデルがあるのだろう。

 

(補足)

 1946年発表、とはどういうことか。日本は戦争をして焼け野原になった時期だ。カポーティは家庭的には苦労したが、戦争ではどうだったのか。サリンジャー(1919生まれ)は戦争で苦しんだ。カポーティ(1924生まれ)はどうなのか。