James Setouchi

 

2024.6.19エドガー・アラン・ポー短編からいくつか

 

1        エドガー・アラン・ポーEdgar Allan Poe1809~1849

 アメリカのボストンで生まれた。幼くして両親を失い、金持ちの養子となる。一時英国で生活。ヴァージニア大学で古典語・諸外国語を学ぶが賭博と借金で退学。ウエスト・ポイント陸軍士官学校に入るも軍務怠慢で退学。雑誌の編集をしながら詩や小説、批評文を書く。1849年死去。代表作『アシャー館の崩壊』『モルグ街の殺人』『黄金虫』『黒猫』など。詩「大鴉」(物語詩)、「アナベル・リー」(恋人を歌う)、「宇宙論」(宇宙に関する散文詩)、批評『作詩法』『詩の原理』『詩論』などもある。ボードレールらを通じてフランス、ひいては世界の近代文学に影響を与えた。推理小説の元祖とも言われる。日本では江戸川乱歩や安部公房らもポーの影響を受けている。(集英社世界文学全集巻末の年表および吉田健一の解説ほかを参照した。)

 

2      作品からいくつか(極力ネタバレしないように)(丸谷才一他の訳で読んだ。)

『アシャー館の崩壊』(1839):心理サスペンスと言うべきか? 「わたくし」の友人ロデック・アシャーとその妹の悲劇的な最後を語る。

『モルグ街の殺人』(1841):推理小説。名探偵デュパン、語り手「ぼく」、警視総監が出てくる。シャーロック・ホームズのシリーズの原型と言われる。本作品は、真犯人が**(ネタバレ防止)だ。だが、**は本当にそんなことをするのかな、と、**がかわいそうに思った。

『マリー・ロジェの謎』(1842):推理小説。デュパンもの。但しアメリカで実際に起きた殺人事件(迷宮入り)と類似のストーリーをパリを舞台にして作り上げ、アメリカの事件の真犯人を推理するという作品。

『盗まれた手紙』(1845):デュパンもの。

『黄金虫』(1843):昆虫の話かと思ったら、違った。江戸川乱歩の少年探偵団シリーズの『奇岩城』はあきらかに『黄金虫』にヒントを得ている。

『黒猫』(1843):ホラー。実に怖い。憂鬱な人には薦めない。

『眼鏡』(1844):笑い話。ポーには笑い話もあった。本作では人は死なない。

 

3 コメント

 『アシャー館の崩壊』に限らず、多くの話は不気味で、不安にさせる。ホラーというのかサスペンスというのか。登場人物(名門貴族だったりする)は大抵何かしら異常な性癖を持ち、周囲の雰囲気(迷宮のような邸宅など)もいかにも不気味で、必然であるかのように決定的な破局が訪れる。次第に雰囲気が高まり、最後で一挙に崩壊する。話の作りが実にうまい。「今・ここ」ではない、「いつか・どこか」の非日常の話でありつつ、どこかで人間の普遍的な真実に迫っているような手触り。この点ボルヘスのようなテイスト。

 

 名探偵デュポンは、細部に気がつきそこから真相を推理する。のちのホームズや『相棒』の杉下右京の原型と言える。科学的知識が豊富で、緻密な推論で物証の解釈をひっくり返す。犯人の心理を読むのも得意。面白くはある。だが、私の雑な頭ではついていきにくい。私は冒険小説の方が好みだ。

 

 『黒猫』は本当に恐ろしい。本当に恐ろしい話だ。ネタバレしない。

 

 『眼鏡』は、これもどのようなホラーか、殺人事件かと予断を持って読み始めたが、最後まで人は死なない。結局笑い話で、安心したのと面白いのとで、つい声を上げて笑った。ポーは笑い話も書く。短編でラストにオチを作るのは、星新一やオー・ヘンリーに近いのか。

 

 アメリカでは評価されなかったがフランスのボードレールらが注目してその後の文学に影響を与えた、と吉田健一が書いている。

 

 言葉を巧みに使った芸術だ、トリッキーなエンタメだ、と言えば言えるが、それだけだろうか。そうではなく、『アシャー館の崩壊』『黒猫』などでは、何かしらこの世のものならぬ何か、ただならぬ何かを持った主人公たちが、いやおうなく滅んでいく様は、「所詮エンタメ」では済まされない何かに迫っているように感じた。彼らは好んで滅んでいくのだろうか。彼らを追いつめ滅ぼすのは何ものか。(あるいは語り手も彼を追い詰めている?)