「朝日のあたる家」 | 元祖!ジェイク鈴木回想録

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 相変わらず音楽の話ではなくて恐縮。表題は気になる日本語の用例として引用させて頂いている。THE ANIMALSが1964年に発表した「朝日のあたる家(:The House Of The RIsing Sun)」は無論、大好きな楽曲には違いないんだけど、この邦題を観たり訊いたりする度に何処か落ち着かなく、腑に落ちない気分に苛まされる。
 自らこの言葉を発することは、先ず絶対にないと云うか、出来ないと云うか、舌がそのように廻らない。
 幼稚なような気がして。
 
「朝日〝が〟あたる家、だろう?」
 
 亡父は長男の私には厳しい面もあった。「赤ちゃん言葉を使うな!」と張り倒されたことさえある。小学校の教員だったが、暴力教師であり、また、星 一徹的でもあった。
 2つ下の妹や6つ下の弟をそのように虐待していた記憶はない。彼等は常に兄や姉に追い付こうとする、ガッツ溢れる性分だからな。赤ちゃん言葉なんぞ元々使わない。
 
「朝日〝の〟あたる家」は何故〝誤り〟なのか? 無論、父には何度も確かめている。〝の〟は所有や形容を示すからだったか。用言の〝あたる〟の体言は〝朝日〟だからか。
 なるほど。「私の城下町」や「情熱の嵐」や「ピンクのモーツアルト」〟の〝の〟には、何の異存も違和感もない。
 
 それが正しい日本語だと信じて50を過ぎてから、そうだ!父が好きだった芥川 龍之介はどうだろう!?と読み返してみたら、何だよっ!? どの作品だったか忘れた・・、と云うよりも「朝日のあたる家」のような記述は、色々な作品のあちこちで通常的に用いられている。
 
 純粋な教育者であったことは間違いない。
 
 世界中に何億という元教育者なり現役の教員がいても、最強は父だ。芥川は元より、早くからありとあらゆる本を与えられ、勤務先の図書室の廃棄処分を持ち帰ったり、児童から借りたり、また、没収したマンガ本を一晩だけ〝また貸し〟してくれたこともある。石森 章太郎の『太陽伝』はその1冊。いや、上下2巻。横山 光輝の『水滸伝』全8巻も読破したな。

 

 
 
『文部省できまった 国語の早わかり』(毎日新聞社)は、新品をたぶん、衣笠仲通り商店街に在った早野書店で購入してきて、手渡された記憶がある。刊行は1970年。
 
 不在時に父の書斎に忍び込んで、無許可で読んだワケではない。その偉大なる教育者の父に母が唯一、疑問を提示していて、私自身も母に同感している方針に「その子にはその子の年齢に合った本がある」があったが、「その子にはその子の興味に合った本がある」じゃね?
 
 風邪をひいて休んだ際に、妹と一緒だった子供部屋の2段ベッドの下段で読み耽った記憶もあるので、読破は小学校4年。小学校5年から中3の2月だか3月まで、私は小中学校を1日も休んでいないからな。
 
 父から与えられた書籍の中では珍しい指南書の類いで、退屈極まり無い1冊だった。百科事典ならまだしも、辞典を読んでいるようなカンジ。
 余りにも退屈だったので、何年か経ってから父に返却して、2023年の10月までは実家の南側の書斎(※北側にも在る)の書棚に収まっていたが、何故かその後、1か月程度の間に消え失せてしまっている。
「朝日のあたる家」のような用例の是非を確かめたく、貸借した私自身が何処かで紛失してしまったのか、或いは現在は私の書斎の何処かに在るのかも知れない。
 
 黄色いソフトカバーで、当然、右開きの表紙を開いて、早速1ページ目に記されているのは、
 
>×父さん
>×母さん
>とは書かない。
 だ。無論、縦書きで。
>〝父〟は〝ちち〟、或いは〝フ〟と読み、〝とう〟とは読まない、とまで記されていたような。
 
 なるほど!
 
 梶原 一騎の名作中の名作『巨人の星』の星 飛雄馬は、父であり、もはや国民的英雄の星 一徹を「父ちゃん」ではなく「とうちゃん」と呼んでいる。気になって、同じ梶原作品の『愛と誠』を読み返してみたら、星 飛雄馬のような貧乏人の小倅ではなく、ブルジョワ令嬢で才色兼備の早乙女 愛でさえ、父親を「お父様」ではなく「おとうさま」と呼んでいる。知ってた?
 
 国民的英雄を監禁したり、国民的女優を日本刀で脅したり、結局、哀れな末路を辿ったものの、梶原は常に出版社にネーム(※マンガに於ける文字原稿)を一文字たりとも変えない要求をしていたらしい。それは自らが正しいと信じる日本語を読者である少年達に伝えたかったからではないだろうか?
『巨人の星』の週刊『少年マガジン』誌への掲載は1966年なので、文部省できまる以前から、彼は〝父さん〟とは書かないことに拘っていたんだな。
 作家は哀れでも、作品は永久に不滅。The Work Remains The Same也。
 
 父はその梶原 一騎が大嫌いだったが、案外、同類相哀れむ・・、否々、終生のライバルだったのかも知れんな。代表作の『巨人の星』、『あしたのジョー』、『愛と誠』、『ジャイアント台風』は元より、少年文庫小説作家時代の作品も読み返してみる価値がある。
 
 それもまた昭和史なんだからな。父が大好きな。
 
 
※文中敬称略