「One」 | 元祖!ジェイク鈴木回想録

元祖!ジェイク鈴木回想録

私の記憶や記録とともに〝あの頃〟にレイドバックしてみませんか?

(METALLICA:1988)


 つい最近まで、気が付いていなかった。

 1988年は音楽雑誌社に勤めていたから、たぶんリリース以前から、以降、殆ど間断なく、ワリと頻繁に聴き続けて早35年!

 冒頭で『地獄の黙示録』宜しく、ヘリコプターのローター音が響き渡る。『ジョニーは戦場へ行った』の映像そのものが使われているPVでは大きめに、この楽曲が収録されているアルバム『...And Justice For All』でも、やや控え目ながら。

『ジョニーは戦場へ行った』の主人公が行った戦場は、『地獄の黙示録』のベトナムではなく、第一次世界大戦の異国の戦場。第一次世界大戦で世界的に実戦配備された新兵器は戦車と飛行機。ヘリコプターの軍用化はナチス・ドイツ。即ち、第二次世界大戦。従って『ジョニーは戦場へ行った』の背景にヘリコプターのローター音は、どうか?と。

「だから、日本人は!」と蔑まれるんだろうな。あのクソ生意気なラーズに。(笑)

 エドワード・ヴァン・ヘイレンやマイケル・シェンカーと実際にお会いできた1990年のWINTER NUMM SHOW(※毎年、カリフォルニア州のアナハイムで開催される世界規模の楽器見本市。)の晩だった。腹が減ったので、ホテルからディズニー・ランドの広大な駐車場を隔てた先のコンビニに、編集者兼通訳君と一緒に食料を調達しに出掛けた。

 あの辺りはラテン訛りが蔓延っていて、私の流暢なクイーンズ・イングリッシュが通じ難く、レジでもたついていると、すぐ後ろで500mlの牛乳パックを唯1つだけ手に持って並んでいた、カーリー・ヘアで長髪のチビが「何やってんだよぉ・・。早くしろよぉ・・。」みたいな感じでイラついている。チラッと振り返って睨み付けてやったら、METALLICAの黒いTシャツを着ていた。

 ホテルに戻る途中、通訳君にブータレた。
「何なんだ?あの、おれの後ろでイラついてたカーク・ハメットみたいなやつ! 生意気にMETALLICAのTシャツまで着てやがって!」
「カーク本人でしょうが!」
「へっ?」

 エドワード・ヴァン・ヘイレンやマイケル・シェンカーが、その辺りをうろちょろしている楽器見本市の開催期間中なのだ。深夜に牛乳を飲みたくなったカークがコンビニのレジに並んでいても、特に不自然ではない。
 だったら、ウルトラマンの話とかすれば良かった!

 この楽曲をコピーしたことがある。多少、真面目に。

 当時、組んでいたアマチュア・バンドは、MOTORHEADスタイルのスリー・ピースだった。私はB.&Vo.。ドラマーは同じ音楽雑誌社に勤めていた後輩だった。
 普段は「Jumpin' Jack Flash」とか「Honky Tonk Woman」とか「Stand By Me」辺りをいい加減に演っていたが、たまには〝もう少し難しい〟楽曲に取り組んでみようと、この楽曲を選択した。丁度、発行していた音楽雑誌で毎月1曲、掲載されるバンド・スコアで取り上げられていたし、タダで使いたい放題のコピー機も身近に在ったし。(笑)

 ドラマー君とは、会社の昼休みに会社の近所に在って、当時は2名までは個人練習と同じ料金(※たぶん1時間500円)だった音楽練習スタジオに出掛けて、あの〝もう少し難しい〟どころじゃないリズムから取り組んだ。何?あれ・・、6連?
 ドラマー君は私が弾くベースに、
「鈴木さんっ!それ、4連! 4連じゃなくて6連!」

 当時の私が何とか弾けて、もっとも難易度が高かったベースは、マイケル・シェンカーの「Into The Arena」だったけど、アレは3連。6連はその倍?
 だが「Into The Arena」の3連は音階が動くが「One」は殆ど動かない。殆どルート音だけ。唯ひたすら1小節で24回(※平唄は3/4だけど、6連時は4/4拍子)、必死で指を動かせば良い。流石、プロ・テニス・プレイヤーの息子、ラーズ! そのスポ根ミュージックはX JAPANを遥かに凌駕?(笑)

 何とかソレっぽく聴こえるようになって、ギタリストを含めて3人で合わせてみることになった。その直前になって、ギタリスト君は「イントロのアルペジオを弾くとソロが弾けないから、お前が弾け」と云う。仕方なくベース・ギターの12フレット辺りで、それを弾いて、唄も唄って、問題の6連だか何だかになだれ込む。普段だったら、ドラムなんぞ聴いているヒマはないんだけど(笑)、その時ばかりはドラム・セットのほうを向いて、聴くだけじゃなくて、眼でもバスドラの揺れを確かめながら、6連!6連!6連!6連! 出来てるか?6連!6連!6連!6連!
 6連!6連!4連!4連!なんかも複雑に混じっていたような・・。よくもまあ、あんなもんを思い付いたものだ。流石、性格が素直じゃないラーズ!他3名。(笑)

 6連!6連!6連!6連!6連!6連!4連!4連!と、思い切り緊張感が昇り詰めたところで、本来なら煌びやかに入ってくる筈の牛乳カークの高速ソロの部分で、ギタリスト君は、ほわほわほわほわ〜っ♪・・と、まるでクラプトン。ドラマー共々ずっこけて、「何?それ」と尋ねたところ、
「ギター・ソロ。」
「カークはそんなの弾いてねーだろ?」
「お前な。ギター・ソロってのは、ギタリストが自由に弾いていいんだ。」

 だからぁ! 今までそれでずうーっと演ってきて、マンネリ化してきたから、たまには毛色が違った楽曲を完コピしてみようってハナシでしょ!?
 以降、この曲を演ることは2度となく、結局、いい加減な「Jumpin' Jack Flash」とか「Honky Tonk Woman」とか「Stand By Me」のまま現在に至る。進歩なし。最近では退化ばっかし。(笑)

 けど、続けていたら、おもしろかったかもな。

 MOTORHEADにクラプトンが参加したMETALLICAの「One」。それって多分、本家本元のMETALLICAでさえ不可能な「One」。しかも、世界にたった1つしかないOne of「One」だったのにな。


※文中敬称略
※画像:勤めていた音楽雑誌社で発行していた音楽雑誌に掲載されていた、この楽曲のバンド・スコアそのもの。全部で17ページもある。流石、ラーズ!