『アウトレイジ』 | 元祖!ジェイク鈴木回想録

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私の記憶や記録とともに〝あの頃〟にレイドバックしてみませんか?

(監督/脚本/主演:北野 武 2010)


 この映画を観て、ヤクザに憧れる者がいるのだろうか?

 多くの小市民達は、こんな世界に身を投じる位なら、カタギでいられた方がよっぽどいいと思うことだろう。
つまり・・、取り敢えず、教育的な配慮が為されている(のか?笑)。

 50年以上も生きていれば、確かに「時代は変わる」し、その変化をたまたま具体的に目の当たりに出来ることもあるのかも知れない。
我々、昭和30年代生まれにしてみれば、先ず高倉 健さんや菅原 文太先生が大活躍する任侠映画があって、岩下 志麻姐さんの『極道の妻たち』があって、伊丹13(:サーティーン)監督の『ミンボーの女』も観たような気もするけど、この作品は明らかにそれらの時代とは異なっている。

 健さんや文太先生の時代には、常にいいヤクザと悪いヤクザがいて、最終的にいいヤクザが悪いヤクザをやっつける勧善懲悪のストーリーで、それは『銭形平次』や『ウルトラマン』や『仮面ライダー』と大差がなく、『極道の妻たち』シリーズの極道の妻たちは常に〝被害者〟だった。
伊丹13(:サーティーン)監督の『○○の女』シリーズになると、それがもっと顕著で、監督の奥方である宮本 信子扮する○○の女が常に〝善〟で、不味いラーメン屋なり、巨額の脱税者なり、ヤクザは常に〝悪〟に他ならなかった。

 この作品は、先ずその〝善〟とやらを徹底的に排除しているところが、非常に画期的かと思われる。

 一般市民がほとんど登場していないため、一般市民に迷惑をかけるという、非常に判りやすい〝悪〟を描かずに、ヤクザとその周囲の人間達の世界に閉ざされた〝悪〟だけに徹している。

 撃ち合いの末、何名かの警察官が殉職しているが、小日向 文世が扮する汚職刑事の配下故に、勧善懲悪の〝善〟等とは凡そ断定し難い。
眼鏡を掛けていて、バイリンガルなヤクザ、石原のような人物は、刑事的にはともかく、民事的には遥かに重罪を極めているカタギの悪党が沢山いるはずである。
 ひょっとしたら、キャッチコピーの「全員悪人」は、世の中全体に対する警鐘なのかも知れないね。

 赤信号なのに横断歩道を渡る〝悪〟・・、大混雑している茅場町の駅のホームを携帯電話やスマホを観ながら歩いている〝悪〟・・、雨の日に傘をさして自転車にに乗っている〝悪〟・・。
キミやアナタにも思い当たるフシがきっと1つや2つはあるはずだ。
私なら、そうだな・・、ところ構わず煙草を吸う〝悪〟!(笑)
 他人の生命を奪わないのは〝善〟ではなく、唯々〝悪ではない〟だけだ。

 この文章を執筆している2012年10月中旬現在、続編である『アウトレイジ・ビヨンド』が公開されていて、両編に渡って出演している(:生き残っている)者は、主役のたけしを除けば、三浦 友和が扮する下克上ヤクザと、眼鏡を掛けたインテリ・ヤクザの石原、それに汚職刑事の小日向 文世位で、その辺りが〝悪〟中の〝悪〟・・、つまり〝悪〟の根源という設定なのか?

 この作品のもう1つの魅力は何と云っても、たけしが扮する主役は無論、登場人物達が事有る毎に度々絶叫している「何だ?この野郎!」だろう。

 世の中が〝萎えて〟久しい。

 暴力が栄えることは無論、望まないが、自らの信念に反する出来事に「何だ?この野郎!」と立ち向かえる気持ちの強さや勇気を、果たしてキミやアナタは今も持ち続けていただろうか?

 裕次郎だ何だの映画全盛期に青春を送った私の母親等は、我々の時代を映画不毛の時代のように云うが、絶対にそんなことはない。
個人的な評価としては、『相棒』よりも1枚上、『踊る大捜査線』よりも160枚程上の秀逸作かと思われる。
 観られてよかった。

 DVDを貸してくれた、寺内タケシや柳生 博の後輩の落合君、本当にありがとう!


※文中敬称略