桜 remake | 元祖!ジェイク鈴木回想録

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私の記憶や記録とともに〝あの頃〟にレイドバックしてみませんか?

 
 
 今年もまた、一番いい季節・・、桜の季節がやってきた。
皆さんは、春の訪れと共に、枯れ木にいきなし蕾が噴き、咲き乱れ、やがて吹雪のように散り去って、萌ゆる初夏を迎えるこの花を見て、一体何を思われる・・?

 私なら、その後6年間通った、旧横須賀市立坂本小学校の入学式だ。

  今日も嬉しい鐘の音に 元気に唄う丘の上
  そよぐ桜に朝の日の 輝く理想 萌え盛る♪

 こんな唄い出しの校歌の母校こそ〝桜〟小学校の名に相応しかったと思われる。
都心から2時間圏内ではあるものの、旧横須賀市立坂本小学校は児童数の減少に依って平成10年度(1998年)に市内で初めての廃校となり、隣の青葉小学校と合併した立地で、横須賀市立〝桜〟小学校として生まれ変わっている。

 横須賀は海のイメージが強いかも知れないが、市民は魚でも半魚人でもないため、居住地の多くは海から急激にせり上がった山の斜面や、その谷間に点在している。
校歌で唄われている通り、旧横須賀市立坂本小学校もなだらかな丘の中腹にあり、唯一開かれていた南側以外の三方を押し迫るような山の斜面に囲まれていた。

 どの教室の窓からも、南側真正面のやや遠方に坂本1丁目の山々が見えた。
その左手には現在の桜小学校や坂本中学校、山口 百恵が通っていた不入斗(:いりやまず)中学校がある旧陸軍重砲兵連隊跡の平地が拡がり、その上空を覆う春霞の向こうには不入斗の山々・・、すぐ左手には坂本2丁目、右手には4丁目の山々・・、山々・・。
 その山々に、ぽつりぽつりと野生の山桜が咲いていた眺望こそ、この世の絶景だった。

 あんな贅沢は生涯もう2度とないだろう。

 1970年代の中盤に、ジョン・ライドンではなくジョニー・ロットンが唄っていた・・、と云うよりも、ただ喚いていた、No future, No future, No future, for meこそ真実だ。

 桜の季節は門出の季節でもあるが、門出は決別でもある。

 1968年4月5日。
黒い和装の母親に連れられて、同じ町内の同じ5丁目に住んでいた、父方の同イ年の従兄弟のS君と一緒に、私は横須賀市立坂本小学校の入学式に参列した。
雨が降っていたものの、正門を入ってすぐ左手にある古木の桜は満開だった。
 恐らく、1937年の4月に父親がそこを通った時と同じように。

 1ヶ月後に春の小運動会があった。
父親は市内の別の小学校に勤めていたため、日にちが重なっていて参観出来ず、母親と母の姉である伯母が観に来てくれたものの、前年暮れに生まれたばっかしの弟の授乳か何かの都合で、2人共お昼前には帰宅してしまった。
「ヨッちゃん(:私の幼名)、じゃあね」とか何とか云って。

 小運動会は半日程度の行事で、お昼頃の閉会式の後、古い木造校舎の教室に戻った私は、格子状の木枠に9枚の薄い板ガラスがはめられた窓から正門の前の坂道を見下ろして、数時間前に帰宅したはずの母親がまだ、その辺りを歩いていないか、当然、分かっているはずの期待をしたが、そこにはただ、既に颯爽と青葉を着けていた桜の木々が突っ立っていただけだった。
「ヨッちゃん、じゃあね」とも何とも云わずに。

 http://www.youtube.com/watch?v=YkfONo4a9ig

 今年もまた、決別の季節・・。


※初出:2006年03月29日
※改訂:2013年04月02日、2013年04月08日
※挿入曲:「風」キャンディーズ
※文中敬称略