スティーヴ・ジョブス逝く | 元祖!ジェイク鈴木回想録

元祖!ジェイク鈴木回想録

私の記憶や記録とともに〝あの頃〟にレイドバックしてみませんか?

(2011.10.5.)


 情報の供給過多を感じざるを得ん。

 1992年当時はまだ、後に月刊『MAC LIFE』誌の編集長を務めたK氏も、それから今日に至るまで別に大した仕事をしていない私も、共に月刊『YMM Player MAGAZINE』誌に在職していて、編集デザイナーだった私は新しいテクノロジーに敏感だったK氏から、月刊『YMM Player MAGAZINE』誌の制作に、いち早くMacintoshとAdobeを中心としたDTPシステムを導入することを連日の如く吹き込まれていた。

 その際にジョブスの理念とやらも、さんざ訊かされたような気もするんだけど、そんなもん、はっきし云ってどーでもよかったんだよね。
何故なら、私の立場はその〝道具〟の導入に依って会社が得られる具体的なメリットを、経営者に進言することだけだったんで。
 当たり前だろ?

 1994年4月号・・、ストラトキャスターを抱えたイングヴェイ・マルムスティーンが真っ赤なフェラーリに寄り掛かっている写真の表紙は、初めて自費購入したMacintosh Quadra 800を使って、自宅にて取り敢えずDTP作業を試みたもの。
Quadra 800は87万、Adobe Illustrator 3.2は17万、EPSONが初めて作ったレーザー・プリンタは90何万もしたところを何故か23万、たかが128MBしか記憶出来ないMOディスク・ドライヴでさえ28万円もした大散財だったが、モニタの中の画像をほんの少し移動するだけでも〝数分〟かかるんじゃ、はっきし云って、まるっきし仕事にならなかった。

 それまでの印刷デザインは、「ここは赤」だの「ここは黒」だのの文字を書き込んだ指示書(:指定稿と云ふ。)を元に印刷屋が仮印刷して(:色校正と云ふ。)、デザイナーはその出来具合をそれが刷り上がってからしか確認出来なかったところに、確認しながら配置作業(:レイアウトと云ふ。)が出来るようになったDTPシステムの威力は非常に大きい・・、なんちゅうは確かに素人の領域だ。

 当時の編集長で、現在は代表取締役の田中氏は、

「けど、今迄は仕上がりを見極めながら配置して来られたんだろ?」

 その通り!

 もちろん時代の経済的な背景もあるが、広告デザインを中心とした印刷デザインの最盛期は間違いなくDTPシステムの出現以前だろう。
昨今に至っては、掲出料金がめちゃめちゃ高い電車の車内吊り広告でさえ、素人が作ったんぢゃないかとしか思えないものを頻繁に見掛けるのは、確認しながらぢゃないと作れなくなってしまったデザイナー達の力量の低下と思われる。

 また、先輩編集者で、現編集長の永田氏は当時、こんな茶々を入れてきた。

「例えばさあ・・、鈴木君がめちゃめちゃ元気なデザインにしたい!と注文すると、コンピューターが自動的にめちゃめちゃ元気なデザインを幾つか発案してくれたりするの?」
「ンなこたあ出来るわけないじゃないッスかっ!」
「んじゃ、意味ないじゃん。」(笑)

 今、思えば、それこそ仕事の本質を突かれていた。
デザイナーの仕事の中で「そこを赤にしよう」だとか「赤いいろはきらい」だとか、或いは「その書体は○○体がいいかナー」なんちゅう判断は単なる作業工程に過ぎず、メイン業務は観る者に訴える何かを発案していくことにあり、コンピューターに依る提案なんぞ、それから20年近く経った現在でもまったく実現していない。

 当時のDTPには「工程にかけてきた時間や手間暇を大幅に削減して、より充分な思考時間を!」なんちゅう提唱もあったけど、元々は版下屋や印刷屋の工程だった作業がデザイナーの負担となっている部分のほうが大きく、多くの現場ではそんな理想は先ず実現出来ていないはずだ。
さすがに月刊『YMM Player MAGAZINE』誌ではやったことないけど、当時、アルバイト的に関わっていたグラビア誌の指定入稿では、カラー5ページを出勤前の30分くらいで仕上げていたこともあり、時給換算すれば2万5千円也・・。(笑)
 今、こんな仕事ないっしょ!?

 ジョブスが提唱したのは新しい道具でいい。

 STAEDTLERのエンピツを使っている人は、同社の設立者の理念に賛同してそれを使っているわけじゃないっしょ?
Marlboroを吸っている人は、C.E.O.が逝去したらPhilip Morris社に花束を届けるんかい?
某ゲイツが亡くなったら、全世界のWindowsユーザーは「ゲイツには(多額の)カネを支払った!」とは云っても「夢をもらった!」なんてマジで云えるんかいな・・?
 違うだろ?

 私は乞食じゃないんでね。
自分自身の判断で自分自身が求める〝道具〟を自分自身がで正規〝購入〟していても、ただで何かを貰ったわけじゃないんだし、ただで何かをして貰ったわけでも全然ない。
膨大な時間を割いてその道具の存在を説いてくれたK氏や、その道具とのツキアイをハード/ソフト問わず、今も支援してくれているusagimaniaやさいとうくんには感謝していても、ジョブスは取引先どころか単一方向的な商店主に過ぎず、皆んながどうしてこんなに騒いでいるのか、実に不思議でならん。


※文中敬称略
※但し、まったく知らない商店主じゃあないんで、当然ご冥福はお祈りするし、またご家族には心よりお悔やみ申し上げまする。