いよいよ本番の朝が明けた。
4時に起床。朝食をすませレーシングスーツに袖を通し、ノートを見直してコンセントレーションを高める。静かに、そしてゆっくりと緊張感が高まっていくのが堪らなく心地よい。
午前6:00。スタート準備が完了。

6:01にゼッケン1番がスタートしていく。
我々は19番。ゼッケン順に1分間隔でスタートするので、6:19スタートとなる。
ここでクラス分けについて解説しておく。
まず車の排気量によって、以下の3クラスに分かれる。
Aクラス:排気量1400cc未満(軽自動車、ストーリアなど)
Bクラス:排気量1400cc以上、2000cc未満(シビック、ミラージュ、セリカ、インテグラなど)
Cクラス:排気量2000cc以上(ランサー、インプレッサなど)
過給器付きは排気量を1.7倍に換算される。駆動方式(2駆、4駆)による分類はなし。
この中にフレッシュマンクラス(Fクラス)というのが設定される。
これは「まだまだ俺は未熟だなぁ。ベテランには敵わないなぁ」という初中級者向けのクラスである。A~Cの各クラスにFクラスが設けられている。つまりFA、FB、FC、A、B、Cの6クラスでタイトルが争われるのである。因みにエントラントがフレッシュマンかどうかは自己申告である(一部、前年の実績により制限されるが)。
今回は速いクラス順にゼッケンが割り振られていて、ゼッケン1~12がCクラス。13~19までがFCクラスとなっている。ウチはランサー・エボ2であるからCクラス。さらにドライバーの実績が全くないのでFで申し込み、つまりFCクラスである。各クラス内では実績順なので、クラス最終ゼッケンなのは順当であろう。
6:19、我々はスタートラインをまたいだ。
家康君のデンジャラスパワーが勝つか?私が家康君の手綱を捌ききれるか?
オールターマック。総距離250km(うちSS40km)。8時間に及ぶ戦いの始まりである。
4.SSが俺を待ってるぜ
スタート会場から5分でSS1に到着した。ダム湖畔の4.4kmである
SS前に並んだ車が1分おきに猛ダッシュをかけてステージに走り出していく。
やがて我々の番が来た。SSスタートラインに停車し、オフィシャルにタイムカードを記入してもらい、ノートを両手でしっかり持てば準備は完了。
フロントガラス前でコースオフィシャルが指を折ってカウントダウンする。
では運転手のお手並み拝見といこう。
「…2、1、ゼロ!」
ランサーの全開加速!何度体感しても良いものだ。
「右5 20 左3 30 左2ロング…」
ドライバーの運転操作と、車速と、少しの風景でノートがずれて無いかを確認しながら読み上げる。ノートの先を常に見ながら読み上げるタイミングを量る。
ドライバーは結構ハンドル回しが速い。これは速いと言うより急すぎ。ハンドルはもっと滑らかに回さねばならない。
ブレーキングポイントは結構奥の方だ。でも恐いとかいうレベルではない。
全体にフロントタイヤで走っている印象だ。もう少しリヤも使った方がいいだろう(でもこんなことは本番中には決して言わない。まだまだ未熟だから、うっかり欠点を直そうとされると本当に危ないのだ)。
しかし下手くそなんかではない。荒削りなだけだ。磨けば光るのではないか?
かくしてSS1ゴール。クラス最終ゼッケンのありがたさで前走車のタイムが分かる。4番手であった。悪くないがトップと2位は相当速く、これには追いつけそうにない。
とりあえず4番手狙いで走って、上位に異変があったら3位かな。
などと皮算用する。
SS2に向かう車内で「ノートはどう?やめる?」と聞いてみたら「いい感じです。このまま行きます」。
ノートを作った甲斐があった。
続いてSS2は3番手。SS3は4番手。
なんだか皮算用通り。ドライバーはだんだんと良い走りになってきた(前述の欠点が直ったワケではなく、リズムが良くなってきた)。
SSのスタートとゴールでは昨日のオフィシャル連中に「おお、まだ走ってる!凄いじゃないか」なんて声をかけられる。
そしてSS4。スタート直前に車内でバタバタしてしまい、親指に着けていた「めくりっこ」をなくしてしまった。ヤバイ。
案の定、途中でノートを一度に2ページめくってしまいロスト(今走っているのがノートのどこにあたるのか分からなくなる状態)。すまん家康君!
しょんぼりゴール。ここはSS2と同じコース。さぞ遅かろうと思ったら、SS2より7秒も速い。3番手。ノート無しで速く走られてちょっと複雑。
SS5は「!!(ダブルコーション)」箇所で減速させすぎて4番手。悪いことした。
ここで45分の休憩である。

サービス隊の心づくしのおむすびと味噌汁を頂く。旨い。
見れば、Cクラスのベテランナビ2人が青い顔で座っている「飯食えるヤツが羨ましい…」
どうやら昨夜、ちょっとばかり前夜祭をやらかして調子が悪いらしい(アルコールは残ってないが、胃がお疲れの様子)。そんな状態でラリー車乗ったら酔うに決まっている。
食事の後、トップのドライバーのところに遊びに行き、いろいろと雑談してプレッシャーをかけようとしたら、ナビが「こんなのの言うこと聞いちゃダメ!」。敵も然る者、よく解ってらっしゃる。
そして後半ステージの開始である。
SS6はSS1と同じ道。
走り出したら勢いが全然違う。速い!これはノートを読むタイミングを少し早くしなければ。
なんとSS6はSS1より12秒も速いタイムでゴール!クラス2番手、トップの1秒遅れ。ゴールのオフィシャルは知り合いだったが、勝手に興奮している「速いやないか!この調子でがんばれ」
SS7はSS4と同コースで2秒タイムアップ。2番手。
前半ステージの差が大きいから2位には追いつけないだろうが、3位は堅いかも!
ドライバーには気負われたら嫌なので「トータル3~4番くらい。僅差のはずだ」とだけ言っておく。
そしてSS8。ここ次第では2位も見えてくるかもしれない。
ここはSS3と同じ道。前半はC山の山頂にあるオートキャンプ場に登る広い道を走り、途中から脇道の林道に入り山を下るコース。前半は高速、後半はテクニカルで難易度は高い。
スタートして1キロ弱のあたりで、なんだか車の挙動が不安定になってきた。SS3のときと違うラインで走っている。?と思っていたら、どうやらバンプに乗ったらしく車が一瞬ジャンプ(SS3では飛ばなかった)。高速だったので着地の衝撃が大きい!ミシッと背骨が縦に圧縮されたのがわかる。でも歯を食いしばるヒマなどない。ひらすらノートを読む。三叉路を右へ。イン側の土手で車の腹をぶつけながらテクニカルな林道セクションへ。
そして三叉路から1キロくらい走っただろうか。
「左2 20 左2 > →右3」
と読んでふと前を見る。今は2個目の左2のはず。
「っ!」息をのんだ。
ステアリングは左に切れているのに、車は真っ直ぐ進んでいる!
アンダーステア!フルブレーキ!
前方にガードレールはない。コースアウトしたら地面は5メートル下だ。
ドライバーが危険な奴であることを、今になって思いだした。
<続く>