SSが俺を待ってるぜ(第1話) | 躍人日記 2

躍人日記 2

模型とか、日々の出来事とか。

0.承前
話は少し遡る。
今度のラリーに一緒に出る予定だったS氏から「出られなくなった」と電話があったのが一月前のこと。もうすっかりラリーに出るつもりだった私は、知り合いのショップに電話してドライバーを探してもらうことにした。
翌日、ショップから電話。
「一人、家康君(仮名)ていう若いのがおるけど、ラリー経験も少ないし、遅いよ」
「うーん。でも折角やから乗ります」
という、ただラリーに出たい、という私の動機だけで結成となったこのペア。
結局、ラリーに出発する土曜の早朝までに電話で一度話しただけ。
ペースノートの練習くらいはしたかったのだが、家康君が「ペースノートを作ったことないので、今回は無しでいきます」と言うため、練習もなし。
本当に大丈夫か?

1.いざ往かん、我らが戦場へ
出発の朝、待ち合わせ場所に現れた家康君は、無口で大人しい青年であった。
一見、ラリードライバーっぽくない。
しかし車はしっかりラリー車。派手な外観のランサーエボリューションⅡ。
装備も、ナビシート周りも疑問の余地のないラリー仕様である。
挨拶もそこそこに、出発準備をする。
バケットシートに収まり、ラリーコンピュータの電源を入れると、いつもの慣れ親しんだ空気を感じる。やはり落ち着く。
他のラリーエントラントやサービス隊とコンボイを組んで、朝靄のなかスタート会場を目指す。

高速を降りてどんどん山奥へ。
そしてスタート会場に到着。ここまで4時間弱。遠いけれど殆ど毎年のことなので、それほどとは思わなくなっている。慣れとは恐ろしい。

会場は山深いキャンプ場。天気が良さそうなのが嬉しい。また、例年は大変に寒いのだが、今年は暖かく過ごしやすい。

ここでこのラリーのスケジュールを紹介。
28日(土)コース試走(レキ)および車検&ブリーフィング
29日(日)午前6:01にゼッケン1番スタート。
      第1ステージで5本(計20km)のSS。
      45分の休憩のあと、第2ステージ(第1ステージと全く同じコースを走行)。
      14:00頃競技終了。
      16:00閉会式
となっている。国際ラリーに準じたTC(タイムコントロール)方式のラリーである。
この形式のラリーでは、我々助手席に座る者の仕事はペースノートの作成、読み上げ。なのでペースノート無しだと、私なんかただ座っているだけの重りに過ぎない。それではつまらないので家康君に「ダメもとでノート作ってみないか?もしダメそうなら、そこで止めても良いわけだし」と持ち掛け、まんまと同意を取り付けた。これで少しは楽しめる。

2.その男、危険につき
レキが始まった。
今回使用するコースは、
SS1&6 A湖畔(4.4km)
SS2&4&7&9 B峠(3.75km)
SS3&8 C山(4.8km)
SS5&10 A湖畔の逆走(4.4km)
の4本。それぞれのコースを複数回使用して、計10本のSSを成す。
レキはコース毎に2回づつ行う。
最初はあたふたしていた家康君も、やがてペースノートというものに慣れてきて、だんだんスムーズに行き始める。なんとかなりそうだ。
さて、SSの入口と出口に通過確認のためのオフィシャルがいるのであるが、今回は私の地元からも多数手伝いにきていて、見知った顔がそこかしこに居る。
車を停めて彼らと雑談したりしていたところ、家康君の所属するクラブのメンバー達から「お、まだ走ってるじゃないか」「ちゃんと刺さる場所の下見はできた?後が面倒だからあんまり変なとこに落ちるなよ」「躍人君、生命保険は入ってる?」「躍人君、こんなのに乗るとは勇気があるねぇ」等と、まるでリタイヤを前提とした言葉をかけられる。
不審に思って、レキ後にいろんな人に聞き取り調査を実施したところ、家康君に関する以下のような事実が判明した。
・ラリーは今回が二回目。デビュー戦ではSS1(始まってすぐ)で壮絶なリタイヤを遂げた。
・無謀なコーナリングをする
・練習中には何回コースアウトしたか分からないほど、コースアウトしている。
・つまりこの男、大人しい顔して実は危険。
車検もブリーフィングも終え、みんなとバーベキューを喰らいながら「これはマジで完走が目標になるかも…」と一人思案にふけるのであった。
<続く>
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文中の人名はすべて仮名です。