2008.03.30 (3日目)   静岡県富士市




3日目にして早くも旅の醍醐味『出会い』を体験。



朝5時に起きてコーヒーを飲む為にお湯を沸かす。


朝のコーヒーを飲みながらのひと時は本当に幸せ。


しかもテントから出て5秒歩けば朝もやの中の富士山が眺められる。


「これこそ正に旅をしているからこその贅沢だ」と雰囲気に酔ってみる。



1時間程かけて荷支度を終えて、走り出す。前輪ブレーキは使えないまま・・・。


日曜日の早朝だからか、道に人はほとんどいない。


そんななか自転車で走っているとスゴい清々しい気持ちになる。



走り出して1時間程したら、富士の道の駅が見えてきた。


そこで、生活用水の補給などをしていると


『どこから来たの?』と井筒監督似のオッサンと松山千春みたいな声のオッサンが話しかけてきた。


せっかく声をかけてくれたので、少し話すことにした。



2,3分ほど話していると、井筒監督が自転車を見て


『なんだ、ブレーキ壊れたのか?』


と自転車に触り始めた。


そして『これ、直してやろうか?』と言い出した。


松山千春も『この人は何でも直せちゃうから、やってもらえ』と言い出した。


今日は50kmぐらいしか進むつもりもなく、特に急ぐ必要もなかった。


「もしこれで直ったら修理代が浮くなぁ」


そんな安易な考えで井筒監督と松山千春についていった。



5分程歩いたところにある公園の駐車場で2人は急に立ち止まった。


マズったか!?もしかしてこいつら強盗じゃ・・・。


そんなコトを思ってビクついていると、井筒監督がワゴン車を指差して


『これがおれの家だ』と言った。



??



話によると、井筒監督は定年退職後にキャンピングカーやワゴン車で全国を回っているとのこと。


そして松山千春はボロボロのセダンでカーホームレスをしていて、アルバイトで生計を立てているのだという。


さらに井筒監督は千葉と北海道に家を持っていて、そこを拠点に行動しているらしい。


一方が奇特な金持ち、一方が本物のカーホームレス。


おもしろい組み合わせだ・・・。



そして本題の自転車修理の方はというと。


『専用の部品がないと修理できない』 だそうだ。


まぁあまり期待はしていなかったからショックはなかった。



時間はいつのまにか12時になっていて、3人で軽いバーベキューのようなことをした。


井筒監督はいつの間にかビールを飲みだし少しほろ酔い状態になっていた。



さすがにそろそろ出ないと今日の目標地点まで到達できない、と思い


「じゃあ、そろそろ行きます。」と言うと


『今日はこれから雨が降るし、その自転車じゃ危ないからここに泊まっていけ』


井筒監督はそう言いながらウィスキーを勧めてきた。


確かに井筒監督の言うとおりなんだが、今日会ったばっかりのおっさんと一晩過ごすのはさすがに気が引ける。


それに今日少しでも進んでおかないと、31日までに浜松に着けない可能性がある。


31日に浜松在住の先輩宅にお世話になる予定だから、あまり予定は狂わせたくはなかった。


そうこう悩んでいるうちに雨が降り出し、いきなりドシャ降りになった。


とりあえず雨が弱くなるまでワゴンの中で雨宿りさせてもらうことにした。



しかしいくら待っても雨は一向に弱くならない。


それどころかさっきよりも強くなっているほどだ。


井筒監督が『もう堪忍しなよ』としきりにウィスキーを勧めてくる。


さすがに諦めて、ウィスキーを1杯飲んだ。



それから2.3時間ほど飲みながら談笑し、お互い酔いが回り昼寝をし始めた。


チャリダーもカーホームレスも雨の日に酒を飲んでしまうと動くことが出来ないから、寝るしかない。



結局目が覚めたのは夜の9時。それからラーメンをご馳走してもらい、再び就寝。


前夜ビクビクしながらのテント生活だった為、疲労が溜まっていたのかグッスリと眠ることができた。



井筒監督は


『カーホームレスもなかなかイイだろ♪』


なんて呟きながら2分後にはイビキをかいていた。

2008・03・29 (2日目)   静岡県富士市



小田原の先輩宅から出発。


当初予定では『伊豆半島をグルっと回る』だったけれども『熱海で三島方面に曲がる』に変更。


元から静岡はジックリと見ていくつもりはなかったのと、浜松で先輩にお世話になるので、急がなければ。



なので途中まで135号線で行くことに。


箱根峠ほどではないにしろ、山道はやっぱりきつい。


どうにかこうにか完走はできる。それぐらいの傾斜と距離だった。



熱海からの道が細かくて、よく分からなかったので熱海駅の交番で道を聞く。


「あの荷物載せた自転車で行くんですか?キツいですよ?」


少しキレイな感じの婦警サンに忠告をされた。


「135号通ってきたんで、大丈夫ですよ。・・・ちなみに箱根と比べるとどんな坂ですか?」


大丈夫と言いながらも少しビビるおれ・・・。


「傾斜は箱根ぐらいですね」


箱根ぐらいの傾斜かぁ・・・。いっつも車でしか通ったことがないからよく分からない。


「距離はどれぐらいですか??」


「4~5kmぐらいですね」


「じゃあ行けますよ♪」


『じゃあ』って何を根拠にそう思ったんだろ・・・。



婦警サンにお礼を言って、その峠まで行く。


4~5kmなら、遅くとも1時間ちょっとで行けるだろ。



甘かった。


最初の1kmぐらいは自転車から降りずに、なんとか走ることができた。


そこから急に傾斜がキツくなりだした・・・。


『少し休憩がてら、自転車を押しながら進むか・・・。』


『・・・・・お、重い。これじゃあペダルを漕いでるほうがまだマシだ・・・。』


約40kgの荷物と尋常じゃない傾斜。押していくのは完全に無謀だった。


しかたなく休み休みペダルを漕ぐことに。


休み休みというのがハンパじゃない。


5m進んでは2分休んで、という感じ。


それ程までにキツい山道だった。


『頂上が見えない』という状況が精神的にも肉体的にも追い討ちをかける。


結局、「1時間ちょっとで走破」という予定から大幅にズレて、3時間でやっとこさ頂上まで着いた。



山での体力消耗のせいで市街地走りにも多大な影響を受けた。


平地なのにペダルを漕ぐ足がガクガクいうぐらい体力が落ちていた。



仕方なく一晩過ごせそうな所を探しながらフラフラと自転車に乗る。


日本っていうのは野宿が出来そうな所はかなり限られてくる。


明るすぎると若いイカつい人達にからまれる危険性がある。


かといって暗すぎても、もし何かあった時に助けを求められない。


野宿ポイントを探すのに2時間ほどかけて、やっと丁度いい場所を発見。


国道から少しハズれた空き地で、農家の倉庫とか小高く積もれた藁のような物で外部からは見えにくい場所。


初野宿でビビりまくっているおれにはうってつけの場所だった。



喜んで自転車のブレーキをかけると、何かおかしい。



『前輪ブレーキのネジが取れて使い物にならなくなってる!!』


ビックリした。壊れていたことよりも何よりも、それまで気付かなかった自分にビックリした。


仕方ない、浜松まではあと100kmぐらいだから、先輩宅にお世話になりながら自転車屋に出そう。


明日は最初の観光ポイント、登呂遺跡♪

2008.03.28 (1日目)   神奈川県小田原市



出発。今日は小田原市に住んでいる大学の先輩宅にお世話になるので、距離はあまりない。


家から小田原までは3~4時間もあれば十分走れる距離。



出発前夜は「のんびりと気楽に進もう♪」なんて気持ちで安定した精神状態だった。


出発直前に実家で食事をとっていると、安定した気持ちからワクワク・ドキドキが大きくなってきた。


気持ちが高ぶりながら、出発準備を進めていく。



家族に見送られ、自転車のハンドルを持つ。




『なにこの重さ?これが自転車の重さですか??』


あまりに重過ぎて、自転車を運転する自信を喪失するほどの重さだった。



「荷物減らそうかな・・・。」


そう思って玄関を振り返ると、家族みんな笑顔。反対してた父まで笑顔。


いま「荷物減らす」なんて言ったら心配かけるし、また反対されかねない・・・。



『あぁ!もぅ!!なるようになれだ!!!』


自転車にまたがりペダルを思いっきり踏む。


・・・動いた。


でも安心出来ない。


フラフラとふらついている所を家族に見せる訳にはいかない。


集中して、丁寧に丁寧にペダルを踏みハンドルを操作する。


集中しながら家から見えない所まで進んだ。


「どうにか家族に心配かけずに来れたかな」


と思った時に気づいた、『家族の顔を全く見れていなかった』


その瞬間、少し寂しい気持ちになった。


『家族の顔をしっかりと見ておけばよかった・・・。』



初日は自転車に慣れるので精一杯で周りを見る余裕が全くなかった。


明日からはしっかりと色んな物を見たり感じたりしよう。