対艦弾道ミサイルDF-26は使えるか? | 因幡のブログ

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 昨年の9月3日に中国の北京で行われた「中国人民抗日戦争および世界反ファシスト戦争勝利70周年記念軍事パレード」において、中国軍の新たな切り札的兵器がお披露目されました、それが対艦弾道ミサイルのDF-26です。

DF-26とは?
 対艦弾道ミサイルについては以前DF-21Dの記事でも説明させていただきましたが、その名の通り主として空母のような大型艦艇にむけて発射・攻撃する弾道ミサイルです。その対艦弾道ミサイルといえば従来はDF-21Dだけを指していましたが、そこに新たにDF-26が加わったということになります。
 さてこのDF-26とはどのようなミサイルなのでしょうか。
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 これが実際に軍事パレードで行進したDF-26です、このように12輪式のTEL(移動発射器)に載せられた状態で任意の場所に展開し、そこから目標にむけて発射されます。射程は3000~4000kmと見られていて、中国沿岸部から遠く西太平洋のグアム島までをも射程圏内に収めます。このことから従来はDF-26について「グアムキラー」とのあだ名もつけられていました。そのグアムキラーと目されていたDF-26は、実は空母キラーだったことがこの軍事パレードで明らかにされたのです。従来のDF-21Dの射程は2000~3000km程度とみられていましたが、DF-26の話が事実ならば中国軍はさらに遠くの敵艦艇を攻撃できる兵器を手に入れたことになります。
 
実運用性に疑問?
 しかしこのDF-26について、その実運用性に私は疑問符を付けざるをえません。というのも対艦弾道ミサイルが敵艦艇を攻撃するために必要なシステムが中国側に整っているとは思えないためです。まずこの対艦弾道ミサイルの主な標的である中国沿岸に接近する敵の艦艇を攻撃するためには、この艦艇を早期に探知しかつ継続して艦艇を追跡し続ける必要があります。早期探知には中国のOTH(超水平線)レーダーやが、継続追跡については電子偵察機や早期警戒機や画像衛星、さらには無人機などが投入されることになるでしょう。そしてこれらの複合的な情報により対艦弾道ミサイルは発射後に自己位置を修正し、最終的には大気圏再突入後に弾頭部のセンサーで艦艇を探知・突入するのです。
 さてこのDF-26の場合、その射程を考えるならば中国軍は沿岸から遠く離れた西太平洋上でこの追跡活動を行わなければ、兵器としての性能を十分に発揮できません。しかし中国軍にはその能力が現状では明らかに不足しています。現実的な想定として、中国に向かって西太平洋を敵の艦艇が進んできている場合には既に中国沿岸部の警戒のために中国軍は早期警戒機や様々な無人機などを投入している可能性が高いと思われます。つまり西太平洋に進出できるだけの航空機は極めて限定的となります。さらに言えば西太平洋の奥という制空権が確保されていない可能性が極めて高い空域にこういった非武装・鈍重の早期警戒機や偵察機を投入することははっきり言って考えられません。よっていかにグアム島までをも射程に収める対艦弾道ミサイルといえども、その性能をフルに発揮するのはあまり現実的ではないのです。

狙いはロフテッド軌道?
 もちろん将来的に中国軍がこうした遠距離での情報収集・艦艇追跡能力を持てば、この新型対艦弾道ミサイルも強力な兵器となるでしょう。しかし現状でも全くもって使い物にならないわけではありません。
 弾道ミサイルには複数の撃ち方が存在します。目標に向かって最適の弾道を描く普通の撃ち方である「ミニマムエナジー軌道」、そしてわざと高い軌道を描いて普通の撃ち方よりも手前に落とす「ロフテッド軌道」というものもあります。このロフテッド軌道を分かりやすく考えると、野球でいうフライにあたります。またホースで水を撒く際にホースを上に向けると自分の近くに落ちてきますよね?これがロフテッド軌道に近いイメージです。
 さてこのロフテッド軌道は、発射したあとの到達高度が通常の軌道に比べて高くなります。ホースの例えを考えていただけるとわかりやすいのではないでしょうか、普通に撒くよりもホースを上に向ければ水が高い位置から落ちてきますよね。こうすることで、米海軍や海上自衛隊のイージス艦が搭載する弾道ミサイル迎撃用のSM-3の射高を上回る高さから、標的の艦艇に通常の軌道を描くよりも高速で突入することができます。速度が早ければ早いほど迎撃は困難となりますので、命中する確率は高くなると予想されます。
 このロフテッド軌道は射程が長いミサイルを使わなければあまり意味がありません。射程が短いミサイルでは落ちる位置が近すぎ、かつ到達高度の高さもあまり期待できません。DF-26ならば射程が長いため、このロフテッド軌道を行うにはもってこいのミサイルと考えられます。つまりDF-26はグアム島近辺などを航行する敵艦艇よりも、むしろ中国沿岸に近い第一列島線(沖縄→台湾→フィリピンなどを結ぶライン)付近の敵艦艇を、迎撃が困難なロフテッド軌道で狙ってくる可能性が考えられるのです。

 いずれにせよ、中国のこうした新兵器には今後も注目していく必要があるでしょう。