破壊措置命令とはなにか | 因幡のブログ

因幡のブログ

しがないミリオタの書くしがなーいブログ

 今日の夕方、防衛大臣が北朝鮮の弾道ミサイル発射の兆候が見られるとして自衛隊に破壊措置命令を発令したとのニュースが入ってきました。最近よく聞くこの破壊措置命令とは一体どんなものなのでしょうか?

{11305F30-0497-4A42-90E5-0A6B487E4395}
(弾道ミサイル防衛を担うイージス艦みょうこう 画像はwikipedia https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%81%93%E3%82%93%E3%81%94%E3%81%86%E5%9E%8B%E8%AD%B7%E8%A1%9B%E8%89%A6 より)

自衛隊法第82条の3
 
 まず破壊措置命令はどこに規定されているのでしょうか、それは当たり前ながら自衛隊法です。
 では破壊措置命令が規定されている自衛隊法第82条の3を見てみましょう。

1 防衛大臣は、弾道ミサイル等(弾道ミサイルその他その落下により人命又は財産に対する重大な被害が生じると認められる物体であつて航空機以外のものをいう。以下同じ。)が我が国に飛来するおそれがあり、その落下による我が国領域における人命又は財産に対する被害を防止するため必要があると認めるときは、内閣総理大臣の承認を得て、自衛隊の部隊に対し、我が国に向けて現に飛来する弾道ミサイル等を我が国領域又は公海(海洋法に関する国際連合条約に規定する排他的経済水域を含む。)の上空において破壊する措置をとるべき旨を命ずることができる。
2 防衛大臣は、前項に規定するおそれがなくなつたと認めるときは、内閣総理大臣の承認を得て、速やかに、同項の命令を解除しなければならない。
3 防衛大臣は、第一項の場合のほか、事態が急変し同項の内閣総理大臣の承認を得るいとまがなく我が国に向けて弾道ミサイル等が飛来する緊急の場合における我が国領域における人命又は財産に対する被害を防止するため、防衛大臣が作成し、内閣総理大臣の承認を受けた緊急対処要領に従い、あらかじめ、自衛隊の部隊に対し、同項の命令をすることができる。この場合において、防衛大臣は、その命令に係る措置をとるべき期間を定めるものとする。
4 前項の緊急対処要領の作成及び内閣総理大臣の承認に関し必要な事項は、政令で定める。
5 内閣総理大臣は、第一項又は第三項の規定による措置がとられたときは、その結果を、速やかに、国会に報告しなければならない
 
 少し長いですがこれが破壊措置命令についての規定です。内容をまとめてみると・・・

・我が国に飛んでくる航空機以外の弾道ミサイル等(弾道ミサイルやロケット)により国民に危害が及ぶ可能性がある場合に、内閣総理大臣の承認を受けて防衛大臣は自衛隊に対して我が国の領域やその周辺の公海上でこれを破壊するよう命令できる
・緊急の場合は内閣総理大臣の承認を受けて防衛大臣が作成した緊急対処要領に従って自衛隊に破壊措置命令を発令できる
・事態が収拾した場合は防衛大臣は命令を解除しなければならない

ということです。つまり破壊措置命令とは、日本に向かって飛んできたり、なんらかのトラブルで日本に落ちてくるミサイルやロケットを自衛隊が破壊するという内容です。

自衛隊の体制
 
 では破壊措置命令で自衛隊はどのような体制をとるのでしょうか。まずミサイル等が我が国上空を通過する恐れがある場合には、航空自衛隊の迎撃ミサイルPAC-3が東京の防衛省グラウンドを始めとして全国各地に展開します。また海上自衛隊のイージス艦も日本海や太平洋に展開して、万が一の迎撃はもちろん弾道ミサイル等の飛翔をレーダーで追跡します。また航空自衛隊はさらに全国に置かれたFPS-5(通称ガメラレーダー)やFPS-3改などのレーダーサイトや、空飛ぶレーダーサイトたるE-767で弾道ミサイル等の警戒を実施し、これらレーダーサイトなどの情報は我が国の警戒システムであるJADGE(自動警戒管制システム)に集約され、これが海上自衛隊のイージス艦などにも連接されます。またこれら一連の迎撃システム全体を、航空自衛隊の航空総隊司令官がBMD(弾道ミサイル防衛)統合任務部隊指揮官として指揮します。


破壊措置命令は自衛権の行使?
 
 では破壊措置命令の内容が分かった上で、破壊措置命令によって自衛隊が弾道ミサイル等を撃墜した場合、これは自衛権の行使に当たるのでしょうか?答えはノーです。

 よく勘違いされますが、破壊措置命令はいわゆる自衛権に基づく「武力の行使」ではなく、警察権の行使としての「武器の使用」です。両者は何が違うのかというと、自衛権を行使する場合には相手国が我が国を攻撃する明白な意図や目的を持っていると判断出来なければなりません。しかし平時において、ロケットを撃ったりミサイルの発射試験を行う場合、我が国への攻撃を意図しているとは考えにくい状態になります。また国際法上、国家が武力を行使できるのは他国からの武力攻撃がある場合に制限されています。つまり北朝鮮からのミサイル飛来が武力攻撃と認定されなければ、自衛隊が武力の行使としてミサイルを迎撃することは出来ないのです。逆に我が国に対して明白な攻撃意図があるミサイル等が発射された場合には、防衛出動が発令されて自衛権の行使による迎撃が行われます。
 
 一方で武器の使用というのは、武器をその本来の用法に従って使用することを意味する言葉です。破壊措置命令においては、公共の秩序の維持等を目的とした警察権の行使として、落ちてくる弾道ミサイルを迎撃するために武器の使用が認められています。つまり武力攻撃ではないために武力の行使ではミサイルを迎撃出来ない事態に対して、国民の安全を守る措置として行われるのが警察権の行使としての武器の使用による破壊措置命令ということです。