「おいおい、そんなに怒るなよ。山は見事に外れたけどよ。」
ぎゃははと笑いながら大助がついてくる。
「お前が邪魔しなきゃもう少しマシだったろうな。」
「他人のせいにする子は、伸びませんよ。」
皮肉を言ったが全く応えた様子はない。
「そっちはどうなんだよ。」
「イマイチだな。一問よくわかんなかったし。」
一問だけか。そうか皮肉とはこう言えばいいんだな。
「そいえば、和美ちゃんと帰んないのか?」
唐突に、大助が言う。友達と予定があるらしいとの旨を伝える。
「なんだよー。久しぶりに三人で飯でも行きたかったのに。」
「一昨日いったけどな。」
そうだっけ?という表情を見せる。
「カップルに割り込んで飯食って楽しいのか?」
「楽しいね。それに元を正せば和美ちゃんは俺のものになる予定だったのに。」
芝居掛かった様子で、上を向いて話す大助をよそに、三人が初めて会った日を思い出す。
あの日は例のテニスサークルの飲み会で、三人共初めての参加だった。
俺と和美は隣で、一つ離れた席に大助がいた。
みんなで騒ぐという場が得意でない俺と和美は、二人で静かに言葉を交わしていた。内容は当たり障りのない会話で盛り上がり等は皆無だった。
人見知りの俺には、初対面の女性を楽しませるのは至難の業だ。
大助は隣の席で中心となって、その場を盛り上げていた。
こいつは、慣れているなと思ったのを覚えている。
「ねー。なんでそんなにシラケてんの?」
前に座っていた三人組に突然話しかけられた。
明らかに敵意のあるにやけ面でこちらを見ている。
「こーゆう雰囲気苦手で。」
恐らく上級生だ。下手に出てやり過ごして帰ろう。横で話を聞いていれば、テニスをする気もなさそうだ。
「じゃ、帰れば。」
真ん中にいる髪をツンツンに立たせた男が言う。それに合わせて、横にいる二人が笑う。
正直、帰ってしまいたかったがこのまま帰ると、和美が少し心配だった。そして、何より癪に触る。
とりあえずこの三人は無視して見ることにきめた。
「横にいる子が、可哀想じゃん。そんな奴より俺らと話そーよ。」
無視するや否や本題に入ってきた。はなから和美が狙いなのだ。
和美はどのような反応を示すのだろう。こういう集まりに来るということは、コイツらみたいなのがタイプなのたろうか。
そんな不安を抱いている自分に驚いた。
今にしてみれば、このとき既に和美に気があったのかもしれない。
和美はというと、困った様子で俯いている。
「私もあまり得意じゃないんです。」
なんとか聞き取れる声で和美が応えた。
ざまあみろ。自信満々のくせに軽く流されているではないか。
「このあと、一緒に遊んで得意にさせてやるよ。」
ツンツン頭が得意気に言う。厭らしい奴らめ。下心が見え見えだ。さすがに割って入らないとまずい展開になってきた。それにしても、こいつらの積極性と自信には感心する。
「ほら、もっとお酒飲んじゃえ」
ツンツン頭が自分のビールジョッキを和美の前に置く。
「いい加減にしろよ。俺達まだ19だけど」
勇気を出して言ってみたが、三人は全く気にしておらず、笑うだけだった。
「俺達とか言ってんじゃねーよ。気持ち悪い」
ここからは地獄だった、攻撃の矛先が俺に向き、やれ地味だの、オタクだのと三人で囃し立てられた。
和美は俯いたままだが、時々申し訳なさそうにこちらに目をやる。
自分は身代わり人形だと言い聞かせる。
反抗しない俺に上級生三人が、煙草の煙を吐きつける。そろそろ限界だ。三人に勝てるわけないが、男らしく玉砕してみよう。
話し合いの通じる相手ならここまでしない。
「うるせーぞコラ」
勇ましく声を上げたのは、俺ではなく隣の席の中心となっていた大助だった。
「お前ら三人のせいで、楽しい気分がぶち壊しだ。」
このときの大助への気持ちは、頼もしいと、お前も同類じゃないの?という二つで複雑だった。
この後の展開は、大助が上級生三人相手と口論になり、殴り合いが始まる直前に店員に注意を受けた。
「出よーぜ。お前ら」
と何故か俺達も一緒に追い出される形で店を後にした。
俺達に気を使ったのか、一人で店を出るのが惨めだったのかは本人にもわからない。なぜなら酔った大助の記憶が曖昧だったからだ。
大助の提案で三人で連絡先を交換した。一応お礼の連絡をすれば、誰だっけ?(笑)とメールが帰ってきたのは新鮮だった。
なんなんだあいつは。という共通意識が和美との距離が縮まった切っ掛けでもあった。
大助からしてみれば、女子のついでに助けた野郎にチャンスを与え、そのまま旨味をすべて持っていかれたということらしい。
「真面目な風にして、抜け目がないんだこの男は。」
記憶も曖昧な癖によく言うな。
この調子だと延々に和美を奪ったという旨の言葉を浴びせ続けるだろう。
話題を変える必要があるな。
「そいえばさ。」
わざと暗い表情で話始める。
なんだなんだという顔で大助がこちらを見る。大方、この話題にも飽きていたのだろう。
「俺の家のエレベーターに、殺すぞって書かれてたんだよ。」
大助の歩みが止まる。
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