「マジかよ、おい。」
大助が上体をのけ反らして、口を大きく開けて驚く。
明らかにふざけている。こんな驚き方はコント番組でしか見たことがない。
「馬鹿にしてる。」
ぎゃははと笑いながら大助は言う。
「だって、二回目じゃんか。また自転車が邪魔だってやつか?」
「そうそう。」
実は依然にも同じことがあったのだ。殺すぞというメッセージの上に、自転車邪魔というメッセージも書かれていた。先週に続いて二回目だ。
一度目の時にも大助に相談したが、そんな臆病者はほっとけと一蹴された。本当に恐ろしい奴は、行動に移してくるという考えらしい。
俺から言わせれば、今は物騒な言葉をエレベーターに殴り書いているだけだが、そのうち行動に移す可能性はある。そうなった場合、最悪俺か俺の自転車が無惨な最後を迎えることになる。
そうなる可能性は想定していないのかと大助の方を見てみるが、学食の日替わりランチのハンバーグに目を奪われている。
「大和ちゃん。昼飯にしよーぜ。」
やはり心配はしていない。それにまだ11時前だ。時間帯は気にせずに、腹が減ったら食うんだなこいつは。
「悪いけど、まだ腹は減ってない。」
大助に対しては、微妙な態度を取ると無理矢理にも連れていかれる。最初から自分の意思を告げるのが攻略だ。
大助がじっとこちらを見てくる。
これは何かを言ってくる前兆だな。
「大和。」
大助が神妙な顔で語り始める。
「お前は食わなくてもいいじゃないか。」
大助は不思議そうな顔でこちらをみてくる。確かにそうだ。腹が減っているのはお前だ。俺は食わなくていいというのは、もっともだ。
もっともだが、何か釈然としない。普通の友人ならこうはならない気がするのは、俺だけじゃ無い筈だ。
「よし、行くぞ。」
大助がずんずんと食堂に入って行く。仕方ない。不本意だが軽食を取るか。遅い朝飯だと思えばいい。
「おばちゃん。ハンバーグ定食2つ。」
2つも食うのか。大助は食いしん坊だなと思う。いやそう思いたい。食べなくてもいいといったからには、俺の分を頼む筈がない。
そう願いながら、注文口の上にあるお品書きを見る。
「大和ちゃーん。2つも食うの?」
長方形の古びたテーブルに陣取りながら、大助が大きな声を出す。
やはり、あのハンバーグ定食は俺のだったのねと肩を落とす。
渋々席に着く。
「俺の奢りだよ。大和ちゃん。」
にっこりと笑う顔が腹立たしい。
「流石です。坊っちゃん。」
やられっぱなしでは癪なので反撃する。バイトもしていないのに、金回りがいいので親が医者というのは本当かもしれないな。
「誰が坊っちゃんだ。」
笑いながら大和が反論する。
家のことを聞くと嫌がるので、普段は聞かないが、今日は聞いてやろうか。
こっちも、食いたくないハンバーグをこれから胃に押し込むことになるのだ。
ただ、父親と仲が悪いというのは酔った時に聞いたことがある。
そのことについて、言及するのはどうかと思ったが、聞いてみることにした。
「父親とは上手くいってるのか?」
珍しく大助が黙った。流石に意地が悪過ぎただろうか。
「大和が俺のこと気にしてくれているなんて。感激です。」
相変わらずの馬鹿な返事だが、どこかいつもと違う調子だった。
「別に普通だよ。普通に仲が悪い。」
普通に仲が悪いとはどういうことだろうと思うが、深く考えないことにした。大助の言葉をいちいち突っ込んでいたらきりがない。
そもそも、父親のいない俺には良くわからないものなのかもしれない。
五歳の頃に事故で死んだのだ。物心は合った筈だが、記憶はほとんどない。
この話を大助にしたときは、流石に、そーか。と神妙な顔を作っていたので、驚いたのを覚えている。
もしかしたら、その話が家族の話をしにくくしているのかもしれないな。
「お待ちどう様。」
食堂のおばちゃんが、受け取り台にハンバーグ定食2つを乗せた。
二人でハンバーグ定食を取りに行く、もちろん俺は乗り気ではない。
席に着くと、大助が待ちきれないとばかりに、箸を割りハンバーグを頬張る。
「んー旨い。大和も速く食えよ。」
満面の笑みが何とも憎めないが、やはりこいつには、ついさっき思ったような気遣いがある筈はないなと思った。
何故なら俺はまだ腹が減っていないということをすっかり忘れているのだ。こいつは。
Android携帯からの投稿