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ユウタの小説ブログ

小説を書いています。コメント等頂ければ幸いです。

ゼミの教室で、パソコンの画面を見ながら大和は、昨日の事を思い出していた。
まさか、本当に自転車に制裁を加えるとは思わなかったな。今頃は持ち主達が大騒ぎしているのではなかろうか。
あの後、夕飯の買い出しに向かい、帰りに大家に知らせた方が良いだろうかと迷ったが、結局無視してしまった。
これ以上エスカレートして、持ち主に危害を加えるようになったら他人事では無くなる。大家は迅速な対応を見せてくれるだろうか。
「どうしたの?恐い顔して。」
横にいた和美が、心配そうに聞いてくる。和美とは同じゼミで、卒論のテーマを各々考えていた。
「なんでもないよ。」
相談しようかと思ったが、余計な心配は掛けたくない。どうせ、事態はそう深刻な展開は見せないだろう。
世の中には、たまたまというものがある。考え過ぎなだけで、なんだそうだったのか。と思えるような理由があって、あの自転車は投棄されたのかもしれない。
もっとも、たまたま邪魔であろう自転車が揃って、またあんなところに投棄される理由は思い付かなかった。
考えても仕方がないので、卒論のテーマそっちのけで、和美と下らない話をして盛り上がった。
気付くと、午後7時を回っていた。飯でも食べて帰ろうかと、二人で下に降りると大助とばったり出くわした。
何というタイミングの悪さだと思った。そして案の定三人で食事をすることになった。

大学の近くのお好み焼き屋に入った。和美と俺が並んで座り、正面に大助がヘラを構えて座っている。
「ひっくり返すのは俺の使命なのだ。」
と言って、いつもヘラを1人占めする。いつもの事なので、和美も俺もどうぞといった態度だ。
「はい。お待ちどお様。」
お好み焼き屋のおばちゃんが、注文したお好み焼きを鉄板に乗せる。慣れた手つきで綺麗な丸を作った。鉄板から鳴る香ばしい音と匂いに、食欲がそそられる。
僕らの役目は、お好み焼きをひっくり返し、ソースや鰹節等をかけるだけだが、何故か大助がやりたがるので、俺と和美は鉄板を眺めているだけでいい。
「ねぇ、大助君。大和が元気無いんだけど何か知ってる?」
唐突に和美が切り出す。
「んー、知らないな。」
チラッとこちらを見て大助が言う。
知らなくは無いだろと思うが、大助はそんな話は興味がないという態度で、お好み焼きに夢中である。余程、お好み焼きをひっくり返すにあたり、自分のタイミングというものがあるのだろうな。
和美に余計な心配を掛けたくはないので大助にしては上出来だ。自転車が投棄されているのを見たとき、大助に「またもや山が外れました。おめでとうございます。」というメールを送っていたので、てっきりその話をし出すかと思ったが、大して興味は無さそうだ。
こいつなりの気遣いかとも思った。万に1つも無いだろうが。
この後、お好み焼きをひっくり返すまで、和美に俺は元気だよとか卒論のテーマについて話していた。
大助はお好み焼きの時だけは、珍しく無言になる。
そして遂に、大助の手が動き始めた。両手のヘラをお好み焼きの下に滑り込ませ、ダイナミックにひっくり返した。お好み焼きが豪快に宙を舞い、中の具材や揚げ玉が四方八方に飛び散り、無様な音を立てて着地した。
「これは俺のだから安心しろ。」
無惨な姿のお好み焼きをよそに、今のはデモンストレーションだと言わんばかりに、次のお好み焼きに手を伸ばす。この後、二回お好み焼きは豪快に宙を舞い、無様に着地し、無惨な形になった。
あれだけ綺麗な円形が跡形もなくなったお好み焼きにソースを掛ける。
「相変わらず下手くそねぇ。」
お好み焼き屋のおばちゃんが笑う。
「また駄目だったか。」
大助が肩を落とす。いつになったら上手くなるのやら。
「大丈夫。次は上手くいくよ。」
和美が慰める。
「優しいなー和美ちゃんは。」
「絶対に上手くいかないと思うぞ。」
「冷たいねー大和ちゃんは。」
ねーと息を合わせる和美と大助は放って、お好み焼きに箸を伸ばす。
見た目は大助のせいで良くないが、味は美味しい。綺麗に焼けたらもっと美味しいだろうに。
三人でお好み焼きをたいらげ、店を後にする。去り際に大助が「次こそは。Coming soon.」と叫んでいた。お好み焼き屋の人達は大いに笑っていたが、本当に次こそは頼むぞと思った。

自転車の鍵を開ける。明日は授業も無いし大学は休むかと考えていた。
「今日泊めてくれよ。」
帰り際に大助が唐突に言い放った。
「また親父さんと喧嘩か?」
「そーなんだよ。気に入らないことがあると俺に当たるんだよ。」
お前の苦悩もわかってやりたいが、面倒だ。この後、和美の家にでも行こうかと思っていたのに。
「嫌そうなのが顔に出てるぞ。」
良くわかったもんだ。嫌で仕方がない。
「さっきは黙っててやったのに。」
耳元で大助が言う。何の事か良くわからないという顔をしていると「自転車邪魔野郎だよ」と大助が言う。
「和美ちゃんに知られたく無いんだろ?」
珍しくマトモなことを言う大助に驚いた。万に一つが出たのだ。
「それとこれとは別だ。」
喧嘩する度に泊めていてはきりが無い。
「二人で何話してるの?」
横から和美が言う。
「いや、大したことじゃないよ。」
嫌な展開に向かう気がしたので、はぐらかした。
「それがさー。家に誰もいないから大和の家に泊めてって頼んでたんだよ。」
哀しそうな顔で大助が話す。演技だ。間違いなく演技だ。理由も違う。
「泊めてあげなよ。一日くらい。」
無垢な顔で和美が言う。横を見ると、大助がニヤリと笑っていた。こうなることを読んでいたな。和美がいるからと甘い顔をしてはいけない。今日は絶対に泊めないと大和は決意した。


和美を家まで送り、家に帰る。部屋に入り、電気を点ける。
「お邪魔しまーす。」
お菓子とジュースが詰まったビニール袋を片手に大助が、靴を脱ぎながら言う。

人は決意しても、実行出来るとは限らない。


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