感じる読書日記 「美しい距離」山崎ナオコーラ著 | 聴くチカラララン

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話す方が好きな私が「聴くチカラ」を求めて…

「職場に感情を持ち込むな」という

上司の呪縛から解かれて、

感情に意識を向けるために

小説を読むようになりました。

 

そんな「感じる読書」で

出会った本を紹介していきます。

 

「美しい距離」

 山崎ナオコーラ著

 文春文庫

 

 

 

 

結婚して15年、子供のいない夫妻の

夫の視点で、ターミナルケア下にある

妻との日々を描いています。

 

タイトルの「美しい距離」は、

夫から見た妻との距離のことで、

見舞いに通う日々から、最期を迎え、

その後の年月を経て、変遷していく「距離」について、

丁寧に、端的に語られています。

 

人との関わりについて繊細な感覚をもち、

理知的で内省的な夫の視点から描かれる、

ターミナルケアの日々。

 

私が長年感じていた

職業として、個人的なことに関わることの

難しさや、

逆に個人的なことに、専門家から触れられるときの

違和感が

この小説では、

医者や介護保険の認定調査員とのやりとりのなかに、

わかりやすく描かれています。

 

病院のスタッフや

妻の仕事関係の見舞客や、

妻の母との関わりを通じて

夫は

「配偶者というのは相手を独占できる者ではなくて、

相手の社会を信じる者のことなのだ」

という考えになってきた、

と言います。

これは、私の心の深いところに

納まった気がします。

 

延命治療のことや、

家族のがんへの思いについても

響く言葉にたくさん出会える一冊でした。