※この物語は、生まれながらに不安障害を持った男が、2018年頃から現在に至るまでに辿った『実話』である。

 

 なおプライバシーの関係上、全ての人物は偽名とする。

 

〈前回のお話〉 




 

《第8話 着信アリ》

 

 

 応募した翌日の昼のことだった。知らない電話番号から着信がきた。

 

「……もしもし?」

 

『和泉さんの電話で間違いないでしょうか?』

 

 女の人の声だった。声質からして四十から五十代のオバサンか?

 

「あ、はい」

 

『ああ良かったわ』

 

 急にフレンドリーな口調になった。

 

『タウンワークでCホテルの客室清掃のバイト募集したわよね?』

 

「はい」

 

『ああ良かったわ合ってて。タマに間違ってるのよねえ』

 

「は、はあ……」

 

 なんだろう。あれほどバイトに応募した時は緊張していたのに、電話先のオバサンのお陰で気が抜けたというか、緊張が解けたというか。

 

 なんだか不思議だった。

 

『うーん、そうねえ。和泉さん、いつなら面接に来られる?』

 

「ええと、いつでも」

 

『あらそお? じゃあ明日の朝11時にCホテルの前に来てちょうだい』

 

「あ、分かりました」

 

『服装とかテキトーで良いわよ、あとホテルの前に来たら、今ワタシがかけてる電話番号まで連絡頂戴ね。ロビーには絶対に入らないように、良い?』

 

「あ、はい、分かりました」

 

 ここで電話の向こうからピリリリリ! と音が聞こえてきた。

 

『ん? なに? あ、ごめんなさいね、ドタバタしてるから切るわ』

 

 と、オバサンは通話を切った。

 

「……何だったんだ……」

 

 本当にバイトに応募したんだよな? 

   学校の友達と通話しているかのような感覚がしていた。

 

                                                                【第9話に続く】