※この物語は、生まれながらに不安障害を持った男が、2018年頃から現在に至るまでに辿った『実話』である。

 

 なおプライバシーの関係上、全ての人物は偽名とする。

 

 〈前回のお話〉




 

《第9話 人心掌握?》

 

 

 夜。俺はプレステでモバというネットゲームをやっていた。

 

 モバとは、インターネットを通じて知らない人と五人でチームを組み、相手の五人のチームと戦うゲームである。

 

 チームは色んな種類のキャラで編成しないと勝てない。

 

 攻撃が得意なアタッカー。

 

 味方を守るタンク。

 

 味方を支援するサポート。

 

 物陰から素早く飛び出て敵を倒すアサシン。

 

 全ての能力が平均で使いやすいバランス。

 

 この五種が揃えば勝ちやすい編成ということになる。逆にアタッカーばかりのチームだったりと、編成が偏ると負けやすくなる。

 

 俺がプレイするモバにはクイックチャットという定型文のチャットがある。

 

 それでコミュニケーションを取って、チーム編成する際に意思疎通をするのが鍵となる。

 

 編成するときの定型文には『バランスやります』だったり、自分がどの型をやるのかを相手に伝えるものばかりだ。

 

「うーんと……」

 

 他の人のクイックチャットが飛んでくる。

 

『バランスやります』

 

『アタッカーやります』

 

『アタッカーやります』

 

『アタッカーやります』

 

 なるほどと俺は呟いた。

 

 基本、下手な人ほどアタッカーで敵を倒したがる傾向にある。

 

 しかも敵を沢山倒せばゲームの勝利に直結するわけではないのに、『なんでこんなに敵を倒したのに負けるんだ、他のチームメイトのせいだ』と人のせいにするのである。

 

 俺もこのゲームを始めたばかりはその手だった。もちろん、アタッカーには上手い人も多いが、たいていはあまりゲームの本質を理解していない人が他の編成を考えずにアタッカーを使うことが多い。

 

「じゃあ俺は……」

 

 タンクやります、のクイックチャットを送ってタンクのキャラを選んだ。

 

 タンクは味方を守ったり、味方が敵に攻撃を仕掛けやすい状況を作る役割が出来る。

 

 下手な人をサポートして敵を倒しやすく出来るし、味方に上手い人が来たらほぼ勝ちパターンを作れるほど、俺はタンクを極めていた。

 

 そう、味方を補助するに長けているのだ。

 

 約七年のニート生活の中、モバでタンクを中心にプレイしてきた関係上、他の型がやりたいことや、他の型がタンクに何をしてほしいのかが分かるのだ。

 

 それすなわち、人が何を求めているか分かるようになっているのである。

 

 ……というのは言いすぎかな?

 

「ん? このアタッカーの人たち……」

 

 どうやら敵に攻撃を仕掛けたいが、なかなか出来ないといった感じらしい。

 

 それを読み取り、俺は前に出て敵の攻撃を受け、アタッカーの人が攻撃し易い形を作った。

 

 すると、二人のアタッカーが一気に相手に攻め込み、次々と敵を倒していった。

 

『ありがとう』

 

『ありがとう』

 

 アタッカー二人からクイックチャットが飛んでくる。この快感があるからモバは止められない。

 

「よし、勝ち」

 

 今日は11戦全てタンクをやって九勝した。

 

 上手いアタッカーの人が入ってくれたこともあるが、やはり俺はタンクのような役割が適しているからだ。

 

「バイトもこんな感じでやれたらな……」

 

 明日、ついにバイトの面接だ。

 

 

                     【第10話に続く】