異動・昇進の効果
日経新聞の経済教室で 『やさしいこころと経済学』と言う
コラムがあり, 第4章 心理的契約 と題して
横浜国大の服部泰宏准教授が大変面白い話を展開されています.
今日(11/14)のタイトルが 『異動・昇進の効果』です.
キャリアカウンセリング分野で良く登場する エドガー・シャインは
組織内で経験する移動(異動)を次の3つに分類しています.
1.昇進のような組織序列上の移動
2.所属部署の変更のような職能上の移動
3.中核的業務の担当になるような「中心度」の移動
移動(ここでは動くという意味で)は従業員にストレスとなりますが,
別の見方をすると自分と会社の関係を見直し,
自身の義務や役割を再認識するキャリアの転換期になるとあります.
→ キャリアの節目(金井壽宏神戸大教授)
心理的契約はこのキャリアの節目によって修正,維持されるそうです.
心理的契約とは書面に記されない心理的な縛りによる契約で,
分かり易く言うと形式知に対する暗黙知のようなもの.
具体的には,終身雇用や年功序列と言った日本的雇用の特徴は
契約書に書面としては記されていませんが,雇う会社も雇われる個人も
これを心理的に受け入れていることで,個人は会社に忠誠を誓う,
会社も育成した人材に辞められることなく社員教育を施し
共に会社を強くする体制づくりが出来ていくので,
両社にとって win-win な関係が築けるというわけです.
この心理的契約は日本の雇用関係に見られる特徴であり
ある時期の日本の高度成長の根底にあったポジティンブな要因
ではないかと言われています.ところが,
この日本的な雇用制度の崩壊,米国流な成果主義が心理的契約の
不履行を誘発しているのではないかとのことです.
かつての日本企業が採用していた年功昇進や定期異動は
キャリアの節目を創出していたと考えられます.
ところが昨今,これも個の時代の影響とも言えなくはないのですが
組織のフラット化,具体的な職種での採用,地域限定の採用や職制
これらによってキャリアの節目を感じる機会が減少していると
服部准教授は述べられています.
キャリアの節目を感じるイベントが無くなると,
個人が所属する会社に対して感じる「自分は会社に一定の義務を負っている」
と言った意識が薄れているというのです.
見方を変えると,会社における『異動』『昇進』の効果は
会社を発展させていく上で必至な制度であったと言えます.
周りを振り返るに,同じ事を同じ場所でやり続けている人は
会社に所属する場合に限定すると(職人や個人営業者は除く),
余りポジティブな成果が出てこない場合が多いように感じます.
会社の人事制度は,知らず知らずのうちに会社にとって
ポジティブな効果を出すように工夫されているというわけです.
これは会社のみが得をする制度ではなく,会社に所属する個人に対しても
ポジティブな影響を及ぼすわけで,ある面,会社の制度に従って
異動を受け入れ,振られた職種をやっていくことも悪いとは限らない...
そんな結論にも至る場合があります.
会社が求める姿に流されて自身を変えていく事は
重要なキャリア形成に繋がる可能性があるわけです.
『私は○○がしたいから,他のことはやりたくない!』
『私は△△の地を離れず働きたい,転勤は嫌だ!』
これは自身の可能性を狭めていることに繋がる場合も
あるように感じます.あくまでも個人的な所見ですが.
異動は嫌なモノかもしれませんが
してみて良いことが生まれていく可能性もあると言う事です!
ポジティブに考えると,
予想外に良いことがあるかもしれませんね?